第7章15話 魔王四天王
「ルクレツィア!!!!」
俺は炎の拳を灯して彼女に殴りかかる。しかし、魔力の防壁のようなもので俺の攻撃は阻まれた。
「その程度、魔法も必要ないわ」
そう言って微笑む彼女の顔には、どこか不敵さが感じられる。俺は一旦距離を取ろうと後ろへ下がる。それと同時に彼女の周囲から真紅の炎が何本も飛び出し、俺を狙ってきた。
「初めまして方もいらっしゃますね、それでは改めて魔の九将が一人、紫剣魔姫ルクレティアです。炎と音と魅了の魔法を使うわ」
…………そういえばこいつら、なんで複数属性の魔法を使えるんだ。以前、半人魔将フェリシアスと戦った時は、元、上級傭兵である反撃のフェリシアスが魔将を食べ、人間と魔将の頃の両方の魔法を使ったと本人が自ら語り始めたが…………まさか!?
そして俺はある結論に至る。
「人を食べた事があるのかお前…………」
俺がそう尋ねると…………ルクレツィアはにやりと笑う。
「あら? よくその結論にたどり着いたわね…………正確には赤子を食べるの…………血肉は全て食べる必要があるから…………体積が小さい方が食しやすいでしょう?」
なるほどな…………男女で誘拐された本当の理由は…………俺達に子供を産ませて…………それを食べるのが目的だったか。だが、もう関係ないし、捕まるつもりもない。
「酷すぎます…………私たちの子になんてことをしようとしていたのですか!」
リーナが怒りをあらわにして俺の横に並ぶ。そしてその場の空気が凍った。最初に声をかけてきたのはアウロラだった。
「私たちの子? 彼女はに何を言っているのアクイラ」
「あ、えっと」
なんとも説明しづらい。俺達は二人でツガイとして彼女に飼育されていたのだ。そしてルクレツィアには子作りを命じられていて…………正直俺は少し…………いやかなり乗り気になってしまったんだよな。
あのまま二人で飼育され続けていれば間違いなく子は授かっていたし、きっとそれはルクレツィアの餌食になっていただろう。
「とにかく倒すぞ! 魔の九将は危険だ!」
「話を逸らしましたわアクイラ」
アカンサが突っ込むが無視だ無視。大体俺が女性と関係持ったところでアカンサは気にするような奴じゃないしな。現在は十四対一で圧倒的にこちらが有利に見えるが…………あいつは三種類の魔法を使える上に、そのうちの一つが魅了だ。
魅了されたらどうする事も出来ない。
「倒す…………ね…………今まで倒してきた魔の九将と一緒にされるのも悩みものね…………ヴァルガスはともかくアウレリウスやドラコとか…………そこらの雑魚と一緒にされるのは心外よ」
雑魚? アウレリウスやドラコが雑魚枠なのか? そんなはずないだろう。実際、アウレリウスは魔法を使わないカイラさんとほぼほぼ互角だったし、ドラコだってみんなで苦労して倒した強敵だ。
「魔の九将とは配下の魔族を増やすために将を五人追加したのよ。元々は四天王だったわ。ヴァルガス、私、セプティムスそれからテネブラス。それ以外の奴らは全部数合わせの繰り上げよ」
数合わせの繰り上げ!? 確かに言われてみれば最初に倒したヴァルガスはカイラさんの強大な一撃を喰らったうえでの俺がトドメを搔っ攫う形の勝利でそれ以外の奴らはみんなで頑張って倒した…………それでも強すぎる奴らだった。
それが…………数合わせだっていうのか。その上で目の前にいる女は…………自らを数合わせとは違うと言っている。十四対一。数で言えばこれ以上ない状況のはずなのに…………緊張感がとけない。
「惑わされるなカイラ様の弟子。カイラ様ならこういうだろう。四天王でも倒す相手と変わらん! だ!」
エルフの双剣士であるレンがそう言うと、俺はハッとした。確かにそうだ。なんにしても今はこいつを何とかしなきゃいけない。怯えるのはダメなことじゃねー。でも、怯えたまま何もしないのはダメな事だ。
「いつの間にか囲まれたな、周囲の雑魚の一掃と本命のボスを倒す役…………どうする?」
ゼファーが俺に声をかける。別にリーダーになったつもりもないし、ここには火の聖女も風の聖女も、貴族様方も特級傭兵もいる。しかし、みんなが俺に視線を向ける。ああ、そうか信頼されているのもあるけど、今は俺が中心なんだな。
「アカンサ! レンさん! ゼファー! イオン! リーシャ! シルヴィアさん! 周囲の雑魚を頼んだ!!」
「よろしくてよ」
「任せろ」
「良いぜ」
「……………………」
「心得た」
「従いましょう」
「ヴァルキリー! ゼフィラさん! マーレアさん! グラディアスさん! 一緒に戦いましょう。それから来い! アウロラ!!」
アウロラは剣になり俺の手元にやってくる。
「リーナは引き続きセレナを頼んでいいか?」
「わかりました…………」
「よし、行くぞ!」
俺は剣を構える。そして目の前のルクレツィアに向かって斬りかかった。しかし、彼女は俺の剣を躱しそのまま俺へと蹴りを放つ。その蹴りは強烈で、俺の体は吹き飛ばされた。
「簡単に吹き飛ばされ過ぎです」
吹き飛ばされた俺は風のクッションで受け止められる。風の聖女ゼフィラが俺を助けてくれたようだ。
「私が盾を持って前に出よう。アクイラ、君もきたまえ。火の聖女殿はどうされる?」
「もちろん、共に戦おう」
グラディアスさん、俺、ヴァルキリーが前に立つ。後方でゼフィラとマーレアさんが支援してくれるなら心強いものだ。戦力を分散することになったが、下手にルクレツィアの魅了を喰らう人間を多くするよりはこのほうが良いだろう。
「行くぞ!」
俺はアウロラの剣を構えルクレツィアに向かっていく。しかし、彼女が右手をあげる紫色の炎が燃え盛った。
「紫の炎よ。暗闇の中より現れ敵を貫き、燃え尽くせ! 紫炎射出」
ルクレツィアの右手から放たれた紫色の炎が俺に向かってくる。俺はアウロラの剣でその炎を受け止める……が、炎は一瞬で剣になったアウロラを包み込むとアウロラは変身解除されてしまう。
「アウロラ!?」
「下がりたまえアクイラ!」
「ああ…………」
ヴァルキリーの声で下がり、紫の炎で苦しむアウロラに近寄る。なんだこの炎。音でも魅了でもない…………あいつ、まだ何か魔法を隠しているのか?




