第7章13話 再会、合流
アウロラを先頭に長い廊下を走っていると、廊下の壁が崩れ何かが吹っ飛んできた。壁が崩れ反対側の打ち付けられたのは…………ボウガンを握った茶髪の少女…………
「セレナ!!!」
「うっ……くっ……」
彼女は俺に気付くと弱々しい声で何かを言っている。よく聞こえないが、俺の名前を呼んでいるみたいだ。
「セレナ! 大丈夫か?」
「……だ……だめ……はなして……」
そう言うと、壊れた壁の向こうから巨大な口のついた青い蛇型魔獣が突進してセレナを飲み込もうとしていた。
「くそっ!」
俺はセレナの身体に掴みかかり、魔獣の口の中に飲み込まれるのを阻止する。しかしこのままでは二人一緒にあの魔獣に食べられてしまう。俺は手に魔力を集中させた。
「炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。炎焔の鎧」
俺はセレナを抱きかかえたまま炎で出来た鎧に包まれ、魔獣の口の中に飲み込まれる。そしてそのまま魔獣の体内を焼き尽くすと口から脱出した。
「大丈夫か? セレナ」
「……アクイラ? 良かった…………無事だったんだね」
「ああ、そうだ。もう大丈夫だぞ」
……どうやら無事みたいだ。良かった。
「セレナ! お前は誰かと一緒じゃないのか?」
「ううん…………向こうでまだ…………シルヴィアさんとマーレアさんとエルフのお兄さんが…………」
壁の崩れた向こうにいたのは銀鉾のシルヴィア、紫花のマーレア、それから一度会っただけで会話したことないけどカイラさんの部下の双剣を使うエルフだ。
「アクイラ大丈夫?」
アウロラが俺に近寄ってきて心配そうに声をかける。俺は自分よりもダメージを受けているセレナを診て貰うことにして必要ないと思うけどマーレアさんたちの加勢に入った。
「マーレアさん! シルヴィアさん! あとエルフの…………加勢に来ました」
「…………レンだ」
俺に気付いたマーレアさんとシルヴィアさんは驚いた表情だ。元々俺の救助の為にここまで乗り込んできたわけだから、俺と遭遇すれば驚くか。
「無事でしたかアクイラさん」
「ええ、無事で何より、聖女様も喜ばれるでしょう」
マーレアさんとシルヴィアさんは俺にそう言うと、敵と対峙する。魔族だ……黒い肌に赤い瞳、まるでダークエルフみたいだ。
黒いボンテージが素敵なエロい女だ。
「あれは少し厄介ですが、私一人で十分でしょう」
そう言ってマーレアさんは鋏を持って前に出ていく。彼女は鋏で空を切る合図とともに特定の物を切断する魔法を得意とするカイラさんと同じ特級傭兵だ。
「ふふふ、懲らしめてあげる、人間共め」
「鋏よ、魔力を断ち切り、我が道を開け。魔力断斬」
マーレアさんが鋏を鳴らすと、ダークエルフの魔力が切断されそうになるが、なんと彼女はその切断に抵抗していた。
「やはり効きませんか…………皆さんでは足手まといになりそうですので…………下がってるか先に行ってください」
マーレアさんがそう言うと俺たちは相談する。どう考えてもマーレアさんの傍が一番安全だ。特にここには貴族のリーナと聖女のゼフィラもいるんだ。でも……
「あらマーレア…………私が足手まといですって?」
「聖女様…………そうですね、訂正します一緒に戦いましょう」
ダークエルフの後ろには魔獣が二匹。トラの魔獣とワシの魔獣だ。そして数名の魔族兵。魔将とまではいかなそうだが、上位の魔族なのだろう。
「じゃあそのエロい恰好のエルフは任せます!」
「エロい恰好!?」
ダークエルフは俺にそう言われたのか少し身体を隠して顔を紅くする。気にするのかよ…………「
「とりあえず俺の相手はバケモノ担当の様だな」
虎型の魔獣がさっきから俺を気にしているようだ。おいしそうに見えるのか? 筋肉あって若くて身体も大きいから食べる量多そうなんだろうな…………嫌な理由だ。
トラの魔獣の咆哮には膨大な魔力が含まれていて俺はそれで少しだけひるんでしまう。しかし、トラの魔獣はその隙を見逃すはずはなく俺に襲い掛かる。
だが…………いきなりトラの魔獣の腹部に何発も銃弾がヒットする。そう、こいつはずっといたんだ。
最初にアウロラが六人と言った時から引っかかっていた。あの場にいたのは、アウロラ、ゼフィラさん、リーシャ、ゼファー、グラディアスさんだ。なら他に誰がいる? 決まっている。
…………静寂だ。
上級傭兵、静寂のイオンがそこにいた。イオンは喋らない上に姿まで消す魔法を使い常に居場所を悟られることはない。しかし、銃弾が飛んでいるなら奴はいる。
「……………………」
思えばここ一番でいつも助けてくれるすごい奴だったな。トラの魔獣を任せつつも俺はその魔獣を踏み台にして飛んでいるワシの魔獣に炎の拳を叩きつけた。
マーレアさん、ゼフィラ、リーシャ、シルヴィアさん、グラディアスさんと他のメンバーは魔族たちと戦っている。加勢するなら…………リーシャか。いや、一応聖女だしゼフィラからだな。
ゼフィラと対峙している魔族は、剣を持った魔族だ。ゼフィラも戦闘には慣れているようだがあのままでは危ない。俺は魔族とゼフィラの間に割って入り、炎の鎧で斬撃を受け止める。
「うあ!? なんだテメェ!!」
「お前を倒す男だよ!」
俺はそう言うと、魔族を殴り飛ばす。足に鎧の炎を集中させて回し蹴りを決めると、魔族は剣でそれを防ぐ。そしてそのまま魔族側も俺も後ろに飛んで距離を取った。
「は! 俺を倒す男だ? やってみろ! 人間風情が!」
「くっ!? だが何とか!!!」
アウロラを呼ぶか? いや、遠すぎるか。それに今は負傷したセレナをリーナと二人で診てもらっている。だったらどうする?
「仕方ありません、セレナから聞き及んでいます。聖なる風よ、汝の力を以て奇跡をもたらし、世界に希望を吹き込め。聖風奇跡」
ゼフィラが風を巻き起こすと、俺の鎧に風と金属の粒子が奇跡的に集まると、炎は紅から白に変わる。
「これは!? だが、助かったゼフィラ! 燃え上がれ! 白炎焔の鎧!!!!!」
俺の炎の鎧は白く染まり、炎が伸びて更に弾けた。魔族の魔剣を焼き払いながら魔族ごと爆ぜさせた。
「助かったぜゼフィラ! まさかこんなことになるとはな」
「奇跡の風ですので…………実は何が起きるかは狙えません」
「あ、そうなんだ」
俺は苦笑いをしながらゼフィラと他の魔族兵たちに向かって構えた。……こんな奴らに負けるわけには行かない。俺は生きてルナリスの街に…………みんなの所に…………そういえばあの骨と衣服は…………彼女のものか確かめなければいけないな。
俺たちは魔族たちと応戦する。とにかく目の前の集団を倒すことが先だ。




