第1章11話 隷属の刻印
地の聖女ベラトリックスを名乗る彼女が偽物か本物か、いまだハッキリしねえが、少なくとも俺たちは何か嘘をつかれてたってことが分かった。あの洞窟での再会から、俺の頭の中じゃ疑念がグルグル回ってた。こいつの言動、タイミング、全てが出来すぎてる。
「お前は何者だ? なぜ嘘をついた?」
俺は物陰から飛び出し、ベラトリックスに声をかけた。彼女は一瞬、目を丸くして驚いた顔を見せたが、すぐに冷静さを取り戻し、静かに口を開いた。一週間前に俺たちと出会った同じ場所で、またしても一人で現れたこいつに、俺の警戒心はMAXだ。
「私は…………」
「華の射手エリス…………初級傭兵だな?」
カイラさんの鋭い声が響く。ベラトリックス、いやエリスの体がピクリと震えた。彼女は俯いて何も言わねえ。俺は拳を握り締め、警戒しながらさらに問い詰めた。
「目的はなんだ?」
その問いに答えは返ってこなかった。重い沈黙が洞窟に響き、俺の苛立ちが募る中、ようやく口を開いたのは彼女の方だった。そして、予想通りの言葉が飛び出してきた。
「私は……エリスです」
やはりそうか。俺は舌打ちをしながら、カイラさんが一瞬で動くのを見た。彼女がエリスに掴みかかると、エリスは抵抗する素振りも見せず、ただ静かに地面に倒れ込んだ。観念したのか、それとも別の理由があるのか、俺には分からねえ。だが、どっちにせよ、こいつが敵であることは間違いねえだろう。
「ベラトリックス……いや、エリスか」
俺がそう呼ぶと、彼女は小さく反応した。首をわずかに動かしたが、それ以上は何も喋らず、ただ黙って地面を見つめてやがる。黒髪が顔に掛かって、表情がよく見えねえのが余計に怪しい。
「なぜ地の聖女の名前を語った?」
「それは……」
彼女はそこで言葉を切った。俺が睨みつけると、エリスは意を決したように顔を上げ、信じられねえ提案をしてきた。
「その前に脱いで良いですか? リラックスできませんので?」
俺は一瞬耳を疑った。彼女の服装は以前同様、ボロボロで露出度の高い黒と赤の衣装だ。胸元は大きく開いて谷間が丸見えで、破れたスカートからは白い太ももが覗いてる。だが、なぜこのタイミングで脱ぎたがるんだ? 裸でも見せたいのか? 呆れながらも、俺は了承した。どうせ拒否しても勝手に脱ぐだろうし、こいつの行動パターンには慣れてきた気がする。
エリスは躊躇なく服を脱ぎ捨てた。均整の取れた美しい裸体が月光に照らされて露わになる。華奢な肩から細い腰、張りのある胸と滑らかな腹部が目に飛び込んできて、俺の視線が釘付けになっちまう。彼女の下着姿は白いシンプルなもので、薄い生地が肌にピッタリ張り付いてて、体のラインがくっきり浮かんでる。胸の膨らみは控えめだが形が良くて、太ももの内側まで見える角度に俺の心臓がドキドキしちまった。エリスは自分の体をじっと見つめ、何か考え込んでる様子だ。俺もつい見とれてたが、彼女が口を開いた。
「それで、私がなぜここに来たかということですよね?」
俺は黙って頷き、肯定の意を示した。エリスはゆっくり語り始めたが、その内容は一週間前と全く同じだった。「魔獣の異変を調査に来た」だの「仲間が全滅した」だの、聞き飽きた台詞の繰り返しだ。俺の苛立ちがピークに達しそうだった。何がしたいんだ、こいつは…………。
「ふむ…………アクイラ、お前、本当に彼女の下着姿をじっくり見たのか?」
カイラさんの声に俺は我に返った。
「胸と腰と尻、太もものラインがすごく美しい」
俺が本音をぶちまけると、エリスが顔を紅くして慌てて胸を腕で隠した。だが、下半身は隠そうともせず、白い下着が濡れたように肌に張り付いてるのが丸見えだ。俺の視線を感じたのか、エリスが少し体を縮こませるが、その仕草が逆に色っぽくて仕方ねえ。
「いや、そういう話はしていない。彼女の体を見て何か気づいたことはないか?」
カイラさんが冷静に突っ込んできた。確かに、俺の目はエリスの胸や尻にばかり行ってたが、改めて観察する。胸元は隠されちまったから、お腹周りに目を凝らすと、へその近くに薄い紋様が浮かんでるのが見えた。
「これ…………」
「ああ、魔族が使う隷属の刻印だ」
「!?」
俺が驚くのも無理ねえ。カイラさんが淡々と続ける。
「わざと女が見せにくい部位を選んだのだろう。私なら尻に刻むな。下着で覆えるし」
なるほど、以前も今回も脈絡なく脱ぎたがったのは、変な癖や痴女っ気じゃなく、魔族の意に反する発言を避けつつ、この紋様に気づいてもらうための作戦だったのか。俺はエリスの裸体をもう一度見つめ、ついでにその尻に軽く手を伸ばしてみた。柔らかくて張りのある感触が指先に伝わり、俺の欲望が疼く。
「んっ! 何!?」
エリスがビクッと体を震わせて俺を睨んできた。敵対してるはずなのに、その反応が可愛くてついニヤけちまう。
「悪いな、刻印の位置を確認しただけだ。いい尻してるなって思ったのはおまけだよ」
「…………やめてください」
エリスが顔を真っ赤にして呟くが、声に力はねえ。敵として警戒してる俺にそんなお願いが通るわけねえだろ。だが、今はそれどころじゃねえ。カイラさんの言葉を聞いて、状況が整理されてきた。
つまり、エリスは隷属の刻印がある限り、魔族の意に反した発言や行動ができねえ。そして目的はこの先へ通さねえことだろう。俺は一週間前のことを思い出した。
「なら、街まで連れて行った時に留まって…………いや、あの時は確か」
街に連れてったが、すぐ戻ってきてたよな。ここから離れすぎると刻印から命令が来るってのが自然だ。エリスが震える声で口を開いた。
「ちなみに、私がベラトリックス様じゃないとバレた場合なんですけどね…………死ぬまで…………この門を護るんですよ」
彼女は震えながら銃を抜き出した。隷属の刻印のせいで、無理やり戦わされてるんだろう。俺が中級傭兵だって明かしてるし、カイラさんとルーナもいる。初級傭兵の彼女が勝てるわけねえのに。
「華の射手エリス。二つ名の由来は高い射撃センスと華やかな容姿、それに加え血の華を咲かせることからついた異名か」
「え? 思ったより物騒」
カイラさんが二つ名の由来を知ってたみたいだが、その物騒さに俺も驚いた。下着姿のまま銃を構えるエリスに、こっちも戦うしかねえ。俺が前に出ようとした瞬間、ルーナがスッと前に進み出た。
「アクイラさん、ここは私に任せていただけませんか?」
「任せるって? せっかくの人数有利だ。それに相手は初級傭兵とはいえ、お前より経験のある傭兵なんだぞ」
「そうかもしれない。でも、この先が危険ならなおさら二人を負傷させられない。だから私がやる」
ルーナの瞳に強い意志が宿ってて、俺を真っ直ぐ見つめてくる。確かに彼女は成長した。「水刃槍化」で魔獣を倒す姿を見てきたし、覚悟も感じる。だが、銃を持った相手との戦い方は教えてねえ。俺が口を開く前に、カイラさんが割って入った。
「アクイラ。ルーナ君の成長を見ようじゃないか」
「…………危ないと思ったらすぐに割って入りますよ?」
「君より先に私が入るさ」
カイラさんが俺の肩に手を置いてニヤリと笑う。師匠の言葉に俺は渋々頷き、ルーナに告げた。
「いいぜ、ただし勝てよ」
「ん! 頑張る!」
ルーナがロッドを握り締めて前に出る。エリスが冷ややかな目で銃口を向けてきた。
「あと一歩でも近づけば撃ちます」
その言葉にルーナはピタリと足を止めた。だが、怯むことなくゆっくりエリスに歩み寄っていく。エリスが引き金を引くと、銃弾がロッドに弾かれ、金属音が洞窟に響いた。ルーナはそのまま間合いを詰めていく。俺はハラハラしながら見守った。
「馬鹿な人ですね! 自分から撃たれに来た!」
エリスが嘲るように叫び、再び銃を撃つ。今度はルーナの腕に命中したらしい。彼女が小さく呻きながらも前に進む姿に、俺の胸が締め付けられた。
「澄み渡る水よ、癒しの泉となりて我が仲間を包め。清泉癒!」
ルーナが魔法を唱え、澄み渡る水が腕の傷を癒していく。自己治癒しながら突進するなんて、こいつ、どこでそんな度胸を身につけたんだ? エリスが慌てて銃を連射するが、弾丸はルーナに当たらねえ。
「だったら戦法を変えるまで!!」
エリスが銃を手に持ったまま突進してきた。ルーナが慌てて回避しようとするが、腕のダメージで動きが鈍い。俺が飛び出そうとした瞬間、エリスがルーナの目の前まで迫り、ほぼゼロ距離で銃口を彼女の顔に突きつけた。
「ごめんなさい、隷属の刻印がなければ…………貴女とも友達になれたのかな?」
「ルーナ!!」
俺が叫んだ瞬間、エリスが引き金を引いた。ルーナの頭部が吹き飛び、噴水のように血…………にしては透明な液体が噴き出した。
「な!?」
エリスが驚くのも無理ねえ。ルーナの体が突然溶け出し、その場には水たまりが残っただけだ。本物のルーナはエリスの背後に立ってた。
「流れよ、清らかな水の泉よ。我が杖に力を与え、水珠を創り出さん。水珠創造!」
ロッドの先に水球を作り出し、ルーナが全力でエリスに振り下ろす。水球がエリスを直撃し、彼女は勢いよく吹き飛ばされた。
「なっ!? あっ…………どう、して?」
エリスが水球で頭を打って地面に倒れ込む。ルーナが冷静に説明した。
「無詠唱ですが水鏡幻影で水に写った偽物を作って、本体は霧隠身で隠しました」
「よくやったぞ、ルーナ!」
「まるで幻想の巫女だな」
俺とカイラさんが同時に褒めると、ルーナが照れくさそうに笑った。エリスは完全に気絶して動かねえ。カイラさんと話し合い、とりあえず彼女を拘束して物陰に隠すことにした。ルーナの成長に驚きつつ、俺たちは改めてこの先に進む決意を固めた。この洞窟の奥に何があるのか、そろそろハッキリさせねえとな。
名前: エリス・サジタリ
二つ名: 華の射手
年齢: 17歳
職業: 初級傭兵
出身: エアリア村(サジタリ男爵家)
容姿: 黒髪ポニーテール(自然なウェーブ)、緑色の瞳、引き締まった体型(身長160cm)
服装: ボロボロの黒と赤の衣装(下着は白)、元はエメラルドグリーンのレザージャケットとミニスカート
性格: 活発で前向き、好奇心旺盛、勇敢
戦闘: 銃使い、"魔弾装填"で高精度射撃
特徴: 魔族の隷属の刻印(へそ近く)、露出癖に目覚めかけ
趣味: アウトドア、工芸
好物: ハンバーグ(辛いもの苦手)




