第7章12話 不和
俺達は全員でまとまって行動する。アウロラの話が正しければ、ジェンマと一緒にいるグループは俺のところに集まれるはずだ。また、アウロラがいれば火の聖女、ジェンマがいれば地の聖女と合流できる。
なのでひとまずアウロラに火の聖女の元まで案内してもらう事にした。
「ヴァルキリーはまだ生きてるわ…………火の聖女の魔力を感じられるから」
「それは良かった」
アウロラの案内でこの城内を進んでいくと、魔族が沢山いた。
「流石に多いな」
俺は拳に魔力を込める。そしてそのまま拳を地面に叩きつけた。その衝撃により地面が大きく揺れる。
「行くぞ! 炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。炎焔の鎧」
拳から炎が噴き出し、床を伝い魔族を焼き尽くす。
「暁の光よ、我が刃に宿りて闇を焼き払え。暁光炎刃」
アウロラが炎属性の魔法を使うと彼女の緋色の剣が光り輝き、彼女の剣から放たれた炎の刃が魔族たちを切り裂いていく。
「風よ、我が刃に宿り、天地を裂く竜巻となれ。渦巻く嵐で全てを飲み込め。竜巻大斧」
ゼファーのハルバートから竜巻が発生し、魔族たちを吹き飛ばしていく。そしてグラディアスさんが一体一体を確実に仕留めていくが、そのほとんどが大型の魔将に近そうな魔族たちだった。
「ふふ…………私も少し暴れたりないので」
そう言って前に出たのは風の聖女ゼフィラだ。彼女とはセルヴィスの集落の異変以来の共闘だからどんな戦いをするのか見ものだ。彼女の得物は…………フレイルだった。
ゼフィラさんはフレイルを振り回しながら魔族を攻撃している。どうやらあの武器は彼女のお気に入りらしいな。そして彼女はそのまま魔将の一体に接近するとフレイルで殴りつけた。
「あら? この程度ですか?」
ゼフィラはそう言うと、再びフレイルを振り回す。その一撃は重かったようで、魔将はよろめいてしまった。そしてそこにゼフィラさんが追撃を加える。
「ふふ……まだまだこれからですよ」
ゼフィラは笑みを浮かばながら魔力を貯め始める。
「聖なる風よ、汝の力を以て奇跡をもたらし、世界に希望を吹き込め。聖風奇跡」
そう言った彼女はフレイルを自らの頭上に投げた。そして両手を前に突き出す。すると突風が吹いて彼女のスカートがふわりと浮き上がる! 彼女のすらりと伸びる白い足があらわになった。
「おお! まさに奇跡だ!」
俺は姿勢を低くして彼女の白いレースのパンツを凝視した。すると彼女がにこっと笑った気がする。
「天罰」
そう言葉と同時に風にフレイルが振り回され縦横無尽に魔族と俺を攻撃し始めた。そしてパンツも再び見えなくなってしまった。
俺は魔族と一緒にぶっ飛ばされた。
「何するんですか?」
「天罰ですから…………仕方ありませんね」
ゼフィラさんはいつもの笑顔でそう言った。なんか笑顔も怖いよこの人。俺は立ち上がると再び魔族に殴りかかる。そしてアウロラが俺に回復魔法をかけてくれたので、そのまま拳で魔族たちを倒し続けた。
「そういえばここまでだんまりだなリーシャ」
俺がそう声をかけるとリーシャがこちらに歩み寄る。
「ああ、すまないなアクイラ。正直、君を救うのは賛成だ。だが…………」
リーシャはリーナの方に視線を向ける。リーナは…………リーシャの相棒であるエリスの片腕を奪った相手だ。彼女にとっては納得できない事のなのだろう。
「だが今はここから一緒に脱出する仲間だ。それに俺だけだったらこんな大規模な救出劇にならなかったんだ。今は協力しよう」
「…………ああ、そうだな」
リーシャはまだ少し納得できていないようだ。リーナもリーシャの事を見つめている。だが今はそんな事を気にしている余裕はない。
「とにかく進もう。まずはアウロラについていってヴァルキリーたちと合流だ」
俺はそう言ってアウロラの案内で前へ進む。そしてしばらく進むと、今度は巨大な扉が目に入った。どうやらこの先が目的の場所のようだ。
「扉か、壁よりたやすいな」
そう言ってリーシャが前に出る。なるほど、確かリーシャの二つ名は…………突撃だったな。
「我が身を覆いし無敵の力よ、突進に宿りて我が行く手を阻む者を打ち破れ。無敵突進」
リーシャはそう唱えると扉に向かって走り出した。そしてそのまま扉を体当たりでぶち破る。すると中には大きな部屋があり、そこには大勢の魔族がいた。
「なんだ貴様らは?」
「侵入者か?」
「人間どもめ……よくも我々をコケにしてくれたな」
どうやらこの中にいるのは全て魔族の様だ。
「アウロラ?」
「残念、この部屋の更に向こうにいるみたい。結構はぐれたのね」
アウロラは困った顔をしている。しかしこのまま魔族たちを放置する理由もないな。向こうも戦闘態勢の様だ。
ここにはアウロラもいるし、久々に使うか。
「来い! アウロラ!」
「ええ、使いなさい!」
アウロラは光輝くと緋色の剣に変わり俺の手元に移動する。
「暁の光よ、我が剣を照らし、その炎を刃に宿らせよ。光と火をひとつにし、無敵の焰の刃となれ! 暁光焰剣!」
アウロラが光り輝き、緋色の炎の様な刃を形作る。俺はその剣で魔族たちを薙ぎ払った。奥から魔族が飛び出して俺に魔法を放つ。
「風よ、我が身を包み、空気を操りて舞い踊らせ。速さと風の力を宿せ! 疾風舞踏!」
どうやら正面にいる紅い髪の魔族の男は風の魔法を使うみたいだ。俺はそのアウロラの暁の光で切り裂いた。アウロラの光にはある程度の魔力までなら簡単に切り裂ける。
「なんだ? この光は」
魔族はアウロラの光に切り裂かれる。俺はそのまま剣を振り、魔族たちを薙ぎ払った。しかしまだ数が多い。
「リーシャ!」
俺がそう呼ぶとリーシャが前に出る。そして彼女は槍に魔力を込める。
「力よ、我が槍の一突きに宿り、衝撃波となりて敵を打ち砕け。槍撃波」
リーシャの槍から放たれた衝撃波は魔族たちを吹き飛ばしていく。そしてそのまま槍を回転させて薙ぎ払った。一緒に戦っていない期間が長かったせいかリーシャの成長には驚かされた。
そういえば傭兵として一緒に戦うのはアスカリでのドラコ戦以来か。
「リーシャ、やるな」
「そういえばまだお前には話していなかったな。これを見るがいい」
それは傭兵の身分証である登録証、リーシャの登録証はいつの間にか緑から赤になっていた。
「リーシャ、お前、上級傭兵に?」
「ああ、おかげさまでな」
リーシャはそう言うと微笑んだ。そしてそのまま槍を構える。すると真横の砂埃から魔族が飛び出してリーシャに向けて手を翳した。
「燃え上がれ、烈火の魂よ。全てを焼き尽くし、炎の柱となれ! 炎獄焰柱!」
魔族の手から炎柱がリーシャに向けて放たれた。だがリーシャはそれを槍で一閃、炎は霧散して消えた。
「問題ない」
そしてその魔族の腹部を無数の光の杭が突き刺さる。
「大丈夫ですか? アクイラ様、リーシャ様!」
リーナの光魔法だ。彼女はリーシャと俺の所へやってくる。
「すまない、助かった」
リーシャはそう言うと槍を再び構えた。しかし、彼女の表情はやはりリーナのことをよく思っていないことが分かる。そして俺はアウロラの炎で魔族たちを焼き払った。
「さて、これで全部かな?」
俺がそう言って辺りを見回すと、そこには大量の魔族の死体が転がっていた。俺たちが戦っている間もゼファーやグラディアスさん、ゼフィラたちが応戦してくれていたのだろう。どうやら全て倒した様だ。
「よし! じゃあ奥に行くぞ!」
俺がそう言うと肩を叩かれる。風の聖女ゼフィラだ。どうしたのだろうか。
「今更ですが、聖女である私の方が偉いので私が指揮します」
「え? …………ああはいどうぞ?」
この人って少し可愛げあるな。
「それでは参りましょう」
俺たちは奥へと進む。するとそこには大きな扉があった。ゼフィラは扉を開けると、長い廊下だ。どうやら火の聖女ヴァルキリーの居場所まではまだまだ遠そうだ。




