第7章10話 最速最強の傭兵
私とセプティムスは互いに殴り合い、蹴り合いを続ける。私の攻撃は徐々にセプティムスのガードを掻い潜ってヒットし始める。それでもまだセプティムスを捉えることはできなかった。この速さの中で戦闘できる相手とはこれほどまでにレベルが違うものなのか。だが、負けるわけにはいかない!
「森羅万象よ、我が意に従い、その流れを止めよ。時間停滞」
「森羅万象よ、我が意に従い、その流れを止めよ。時間停滞」
互いに同時に加速する。速さが足りない。スピードの向こう側に行けない。だけど、私はまだ生きてるんだ! 今この時だけでもいい……届け! 私の思いよ!!
「ぐぅ!」
セプティムスの蹴りが私の顔に当たる。この程度の攻撃でっ……! しかしセプティムスは容赦がなかった。私に頭突きを繰り出し、更に壁に向かって叩きつけてきたのだ。壁のひび割れる音を聞きながらもなんとか立ち上がる私に対して、セプティムスはまだ余裕の表情を見せる。
「ふん、ここまでか? もう終わりか」
「終わると思うか? 私は最強の傭兵だ。君を倒せねば…………皆が死ぬ」
「そうだろう。だが、心配するな。死は後の事を考える必要がなくなる。お前こそ死ねば皆の死など気にならんだろう」
「たわけ。化けて出てしまったらどうする?」
「面白い冗談だ」
セプティムスが笑いながら私に殴りかかってくる。私はそれを受け流しながらカウンターの蹴りを入れる。しかし、セプティムスはそれを腕で受けながら私の足を掴み投げ飛ばした。
「ぐあ!」
壁に叩きつけられた私はすぐに立ち上がり、再びセプティムスに向かって駆ける。そしてまた殴り合いが始まった。
「どうした? もう終わりか?」
セプティムスが何度もしてくる質問。もちろん私の答えは…………
「そうだな、次で最後だ。終わりにしよう」
私たちは同じ速度域にいる。故に勝負がつかない。ならばどうするか……答えは簡単だ。
「いくぞ!!」
私はセプティムスから大きく距離をとる。セプティムスもだ。どうやら次の一撃を互いにトドメと考えているのだろう。セプティムスは大剣を手に持った。対する私は素手だ。足技なら負けないが、リーチは大幅に負けてしまった。セプティムスは大剣を上段に構え、私が近付くのを待つ。私は一歩ずつ近づき……互いの武器が届く距離になった瞬間だ。セプティムスが動いた。しかし私も同時に動いているのだ。だからこの間合いで先に繰り出せるのは……私だ!
「はあああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「おおおおおおおおお!!!!!!」
私の蹴りとセプティムスの大振りな斬撃が激突する。衝撃波が巻き起こり、空間を揺らした。地面も割れるほどの衝撃だった。私たちの早さは、世界を震撼させる。
「おおおおおお!!!」
セプティムスが吠えた。私もだ! もう誰にも私達は止められない。私たちは世界の理から外れているのだから!!
「はあああ!!」
「ぬううううう!!」
互いの衝突が今、古城を崩していく。
「終わりだああああ!!」
セプティムスの一撃が、私の胴体を貫いた。
「……か……は……」
私は口から血を吐きながらゆっくりと膝から崩れ落ちた。だが……まだだ! この程度で終われるか!!
「まだ……まだあ!」
私は最後の力を振り絞って立ち上がる。そしてそのまま飛び上がり……渾身の右ストレートを繰り出した。しかしセプティムスも同時に動き出し、大剣を振り下ろした。
「くぅ……………………出血する血も…………遅くしてやろう!!! 森羅万象よ、我が意に従い、その流れを止めよ。時間停滞」
出血が遅れる。私から離れていく血からせき止められていく。この身体が壊れるなんて…………壊れ切ったとしても……………………
「お前を倒せるなら……………………それでいいさ!!!」
「ぬ!?」
私は大剣を突き抜けて身体に風穴を開ける。即死するより前に身体を…………
「動けえええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」
私は身体を風穴の修復にあてる。その間もセプティムスは大剣を振り回して私を引き離そうとするが……遅い!!
「済まないなセプティムス。お前の敗因はただ一つ。お前と私の生きる時代が重なったことだ」
私はセプティムスの首を刎ねた。そして……私の身体は限界を迎えたようだ。
「あ……ああ……」
セプティムスは倒れた。彼の背後の壁が崩れそこではアクイラとリーナが監禁されていた部屋なのだろうか。二人はまだ壁が壊された事にも気付いていない。私はアクイラを抱き締める。
「済まない、私はここまでだ」
後は任せた。魔将は一人討ってやった。バトンタッチだアクイラ。
ああ、身体に風穴があいているのに、まだ意識がある。私は…………自分の死すらも追い越しているんだな。
ならばせめてアクイラよ、君に抱かれて…………逝かせてくれたまえ。我がひ孫を任せたぞ。最後に…………君に私のもう一つの魔法を……………………




