第1章1話 焔、纏いし者
俺は深い森の中を歩いていた。木々の隙間から差し込む光が地面にまだらな模様を描き、足元の枯れ葉がカサカサと音を立てる。孤独と静寂に包まれたこの森は、俺にとって馴染みの場所だ。いつものように剣を腰に下げ、ギルドの依頼を終えた帰り道を進む。
だが、今日は何か違う。風が穏やかに頬を撫で、鳥のさえずりが耳に心地よく響く。そして、ふと――微かな音が聞こえた。魔法のような、どこか不思議な響き。俺の足が自然と止まる。
「何だ……これ?」
興味をそそられて、音のする方へ歩を進める。音は次第に大きくなり、木々の間を抜けた先、湖畔にたどり着いた瞬間、目の前に広がった光景に息をのんだ。
そこには、幻想的な美しさを持つ少女が立っていた。長い銀髪が月の光を浴びて輝き、腰まで流れるその髪は柔らかな波のようだ。深海のように澄んだ蒼い瞳が、静かに俺を見つめている。小柄で華奢な体つきからは、どこか秘めた力強さが感じられ、透き通るような白い肌が月光に照らされて輝いていた。
彼女の服装は、青銀の魔導士服で、胸元が大胆に開き、月と星の刺繍が施されている。肩を出したデザインに、首元には月の装飾が施されたチョーカーが光る。前短後長のアシンメトリースカートが風に揺れ、満月模様のロングケープが彼女の背後で優雅に広がっていた。足元には白銀の膝下ブーツが、彼女の華やかな姿を引き立てている。
俺が呆然と立ち尽くしていると、彼女が微笑みながら近づいてきた。そして、細い手を差し出す。
「こんにちは? 森に一人で何をしているんですか?」
その声は風のささやきのようで優しく、でもどこか芯のある響きが俺の胸に刺さった。
俺は彼女の手を取って応える。
「俺はアクイラだ。ここ最近、この森に住み着いてる。普段は近くの街のギルドで傭兵をしている」
彼女の蒼い瞳が俺をじっと見つめる。その視線には深淵のような奥行きがあって、心の奥を覗かれているような気分になる。言葉に詰まりそうになりながらも、俺は彼女の姿を改めて見つめた。まるでこの森に生まれた精霊みたいだ。それに彼女はどこか…………懐かしい。
「私はルーナ。ずっと……この森に住んでいます」
彼女がそう自己紹介した瞬間、俺は軽く目を丸くした。
「ルーナか。良い名前だな」
月のような美しさを持つ少女にぴったりの名前だ。だが、ずっとこの森に住んでるってのは驚きだ。この森は治安が悪いわけじゃないが、獣も多いし、少女が一人で暮らすには危険すぎる。俺だって最近住み始めたばかりで、そう感じてるくらいだ。一緒に誰かと暮らしてるのか?
俺の疑問を察したわけじゃないだろうが、ルーナが静かに口を開く。
「私は……この森で一人。ずっと一人だと思っていました。アクイラさん、この森はお好きですか? 私は好きです。家のようなもの……失えない場所なんです」
その言葉に、彼女の強い意志が滲み出ていた。見た目の美しさだけじゃない、心の強さも持ち合わせてるらしい。俺は小さく頷いて、遠くに見える一本の高い木を指さした。
「隣人ってほどじゃないが、同じ森の住民のよしみだ。困ったことがあったら声をかけてくれ。あの大きな木が見えるか? あのすぐ近くに小屋を建てて暮らしてる。何かあれば来てくれ。ただし、お前の家は聞かない。会ったばかりの男に家の場所を教えるなよ」
「……わかりました」
ルーナの瞳に光が宿る。彼女は優しく頷き、ほのかに微笑んだ。不安げだったその表情が、少しだけ和らいだ気がする。本当は家も知りたいがおそらくこの近くだろう。互いに同じ森に住むなら長い付き合いになるだろうし、ゆっくり信頼関係を築くのも悪くない。
「ありがとうございます、アクイラさん……よろしくお願いしますね?」
どこか不安そうに俺を見つめる彼女の瞳に引き込まれそうになりながら、俺は彼女の銀髪を軽く撫でてやった。
「心配すんな。俺はこう見えて傭兵だ。お前を守れるくらいの力は持ってる」
だが、ルーナははにかむだけで、ちゃんと笑ってくれなかった。近所に知らない男が住み始めたことが不安なのかもしれない。少し悪いことしたかな、と一瞬思う。
別れ際、彼女が微笑みながら言った。
「また会おうね」
その言葉には社交辞令じゃない、心からの温かさが感じられた。俺は頷き、手を振ってその場を後にする。ルーナも手を振り返し、魔法をまとって森の奥へ消えていく。その背中を見送りながら、俺は家路についた。
翌日、ギルドの仕事帰りに森を歩いていると、ルーナが小屋の前に立っていた。
「アクイラさん! おはようございます!」
彼女が俺を見つけて、嬉しそうに駆け寄ってくる。まだ出会って二日目だ。警戒されてる雰囲気はないし、むしろその笑顔は眩しいくらいだ。
「ルーナか。俺に何か用か?」
彼女は少し照れた様子で首を振る。
「いえ、その……特に用はないのですが」
その言葉に軽く驚きつつも、安堵感が胸に広がった。俺の考え過ぎだったらしい。彼女が警戒してるわけじゃないなら、それでいい。俺は小さく笑って返す。
「そうか。ならいいさ。俺も暇だから、話し相手になってくれ」
ルーナが嬉しそうに頷き、俺たちは昨夜の湖畔へ移動して座り込んだ。他愛もない会話が始まる。彼女の使う水の魔法のこと、この森に住む動物のこと。話題は尽きなかった。
ルーナは積極的に話すタイプじゃない。家族や故郷の話題は濁す癖があるみたいだ。逆に、好きなものの話になると目を輝かせる。星が好きで、よく夜空を眺めてるらしい。
日が落ちるまで語り合った後、別れの時が来た。
「またね」
手を振る彼女の背中を見送りながら、俺は思う。この美しい森で、こんな出会いがあるなんて悪くない。これからもルーナとの時間が楽しみだ。
だが、その瞬間――ルーナの目の前に紫色の熊型の魔獣が現れた。
ウルシウスだ。この森では比較的温厚な性格と言われるが、今は違う。舌なめずりしながら低い唸り声を上げ、ルーナを獲物と見定めて襲い掛かる気配が濃厚に漂ってる。
「まずいな!」
俺は瞬時に拳を握り、ルーナに叫んだ。
「今すぐ逃げろ! 俺が引きつける!」
ルーナが驚いた顔で俺を見るが、すぐに意図を理解して踵を返した。ウルシウスが怒りの咆哮を上げて俺に突進してくる。俺はそれを軽く躱し、彼女が逃げ切ったのを確認して拳を構えた。
「よし! 来やがれ!」
ウルシウスが飛びかかってくる。俺はその動きを読み、横に避けてカウンターで拳を繰り出す。だが、奴は素早く身を引き、攻撃を躱した。再び突進してくるそのスピードに、俺は舌打ちしながら反撃の隙を窺う。こいつ、ただの魔獣じゃない。高い知能を持ってる――人間の言葉さえ理解してるかもしれない。だが、今は戦いに夢中で、そんな様子はない。
奴の動きを予測し、先読みして拳を叩き込む。徐々に追い詰めていく中、俺は感じていた。このウルシウスは強敵だ。油断したら一瞬でやられる。
「魔力を集中しろ……!」
両手に意識を向け、叫ぶ。
「炎焔の鎧!」
俺の手足を炎が覆い、灼熱の鎧が完成する。ウルシウスの爪が振り下ろされる瞬間、それを炎の拳で受け止めた。奴の毛並みが焼け焦げ、激しい痛みに咆哮を上げて後ずさる。
だが、こいつは簡単には倒れない。俺は炎の鎧を活かし、動きを読みながら反撃の機会を伺う。ルーナはもう安全な場所に逃げ切ったはずだ。なら、あとはこいつを仕留めるだけだ。
ウルシウスが怒りに燃えて再び襲い掛かる。俺は身を翻し、炎の拳で応戦する。だが、戦いは簡単じゃない。奴の力が強すぎて、俺の体も徐々に疲弊していく。傷を負いながらも、俺は立ち続ける。逃げればルーナが危ない。なら、戦う理由は十分だ。
「くそっ……熱くなりすぎた!」
炎のエネルギーが溢れ出し、このままじゃ森ごと燃やしかねない。俺は冷静さを取り戻し、魔法を制御して引火を防ぐ。ウルシウスもその危険を感じたのか、さらに凶暴化してきた。
そして、ついに――奴が疲弊した瞬間を見逃さず、俺の拳がその巨体に突き刺さる。右手の炎の鎧がウルシウスを包み込み、燃え尽きるまで焼き尽くした。
息を切らしながら、俺は湖畔に膝をつく。ウルシウスの焼けた毛皮がまだ燻ってる。ルーナが駆け寄ってくるのが見えた。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫……ありがとう、アクイラさん」
彼女の服と髪は少し乱れてるが、怪我はない。俺は胸を撫で下ろしつつ、思う。俺はまだ弱い。ウルシウスごときにこれほど苦戦するなんて、自分の限界を痛感した。もっと強くならなきゃいけない。
俺たちは湖畔に座り、星空を見上げながら少し話した。彼女の横顔を見ながら、俺は決意する。この出会いを大切にしたい。そして、守りたいものを守れる力を手に入れたい。
「また来るよ、ルーナ」
「…………うん」
彼女の優しい声に癒されながら、俺は立ち上がった。家路につく途中、力不足を噛み締める。もっと強くなるにはどうすればいい? 水属性の魔法使いでもいれば……そういえば、ルーナは水の魔法が使えるんだよな。でも、彼女を戦いに巻き込むわけにはいかない。
翌日、ギルドで水の魔法使いを探すも見つからず、途方に暮れていた時――
「アクイラさん!」
聞き慣れた声に振り向けば、そこには銀髪を揺らすルーナが立っていた。
名前: アクイラ
二つ名: 灼熱の拳
一人称: 俺
性別: 男性
年齢: 19歳
容姿: 黒髪、紫の瞳(戦闘時赤紫)、黒地に炎の刺繍が施された戦闘ジャケット、黒のタンクトップ、耐熱・耐久性のある戦闘ズボン、耐火加工のブーツ、魔力を通しやすい鉱石が埋め込まれた籠手、すね当て、右手首に炎の紋様が刻まれた革のバングル
体型: 筋肉質で無駄のない身体(身長約180cm、体重75kg)
出身: アスカリ(険しい自然環境に囲まれた街)
身分: ルナリス傭兵ギルドの中級傭兵
職業: 傭兵
武器種: 徒手空拳(魔力を込めた炎の拳と脚)
武器: 特になし(籠手とブーツが戦闘装備)
属性: 火
趣味・特技: 野営での火起こし、簡単な料理、鳥(特に鷲や鷹)を見ること
好きな食べ物: 鶏肉(特に焼き鳥)
嫌いな食べ物: 甘いもの