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11 虹の彼方④

「ワケがわからないのはこっちなのですよ!」


 ぷんすか、とオトマトペが浮かんできそうな勢いでムジナが頬を膨らますとお猪口の冷酒を呷った。しかし、さすがに幼女型の生体ボディにはアルコールはきつかったのか、くらりと揺れるとそのまま湯舟の中に倒れ伏した。


「ニアお姉さま、お冷奴はいかがですか?」

「いやいや、スルーするな。管理人が溺死しかけているぞ」

「もうお姉さまったら、出歯亀なんて放っておけばいいのにー」


 イーの文句たらたらな様子を無視してムジナを幼い身体を助け起こすと白くてつるつるの肌が指に食い込む。髪も新品で絹のようにサラサラであった。


「…………ニア様、手つきがいやらしいのです」

「……ハッ、うっかり合法ロリを堪能してしまった!」

「ニア様……、外では絶対にやらないでくださいよ。ペドフィリアは隔離と矯正が必要な準犯罪予備軍の病理なので」

「盗撮犯のあんたにだけは言われたくないわー」


 結局、宗教団体「神の貌」が所有する温泉保養施設は一夜にして壊滅した。

 トラブルに巻き込まれて右往左往する宿泊客たちを八王子や立川、町田などからやってきた無人タクシーが連れていき、そして、最後の一人がいなくなる頃には空は白み始めていた。


「結局、ニア様は記憶を消去しなくていいのですか? そこで飲食物の持ち込みを無視してアホ面で食べている馬鹿女の記憶は、私の持ち得る限りの技術を使って跡形もなく消してみせますが」

「えー、別にいいよー。そもそも私がここに来たのは仮想空間にインできない原因を取り除きたかっただけだからさー」

「ええ、お姉さまが仮想空間に入ってきたときは何時でもわたくしがお相手しますわ♡」

「うーん、そう言われると微妙なんだよねえー。イーの身体はきれいすぎてミロのヴィーナスみたいに性的対象として認識しないというか」

「そんなことはありませんわ! さあ、お姉さま! わたくしを堪能してくださいまし!」

「お客様! お風呂場での不純異性交遊は禁止されています! というか、とっとと出ていけ、キュクロプス!」


 空は白々と明け、白夜のように時が止まったかのよう。しかし、甲高い叫び声が上がり、お湯がじゃばじゃばと宙を舞う。まったく女三人寄ればかしましいというが、本当にうるさい。もっとも3人とも精神的にはともかく、身体的には雌雄同体といえる身体なのだが。


「あー、イーの作る豆腐は美味しいなー。日本酒に相性バッチリだね」

「ニア様、普通に食べていないでくださいよ」

「えー、ムジナも食べなよー。美味しいよ」

「いや、それ醤油と大豆の味しかしないじゃないですか。それの何処か美味しいんですか?」

「お姉さま、コイツをブチ殺してもよろしいですか?」


 友達とこんな風にワイワイ騒ぐのはいつ以来だろうか?

 ひょっとしたら中学3年の頃まで遡るのかもしれない。中学3年のときの修学旅行の記憶が今の風景と重なっていく。あの頃も仲の良い友達がちょうど2人いた。でも、高校が分かれたことで疎遠になり、山本似愛はそれ以来友人と呼べる人間に出会えていない。


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