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3 人間嫌い③


 ―――面倒なことになる前にいっそ殺してしまおうか。


ニアは身体のリミッターを解除することで常人には叶わないような怪力を出すことができる。借り物だらけの生体パーツゆえの裏技だが、変態から身を守る手段ぐらいにはなる。もっともパーツへの耐久性が落ちるので(金銭的にも)切り札なのだが。

 しかし、今は100キロ近いスピードで走行中で、ヘッドライトに照らされたガードレールは瘡蓋のように張り付いているだけでその先は谷底。下手なことはできない。


「君は世界で一番人を殺した殺人鬼は何人殺したか知っているかい?」


 そして、時山もまた下手なことをする気はないようだ。小気味いい音をたててシフトレバーが動いていく。本当に運転が好きなようだ。

 ニアの脳裏に様々な陰惨な事件が思い浮かんだ。あれらよりももっと惨たらしいことがこの81年間の間に起きていたに違いない。だから、何も答えなかった。


「…………正解だ。アルフレッド・ノーベル、ライト兄弟、オッペンハイマー、彼らの遺した偉業が後世でどれだけの大量殺戮に繋がったか、その正確な数は誰にもわからない。まあ、僕なんかでは彼ら天才たちと比べるのはおこがましいにも程があるけどね」

「あなたも科学者?」

「そんな上等なものじゃない。僕は無人兵器の技術者(エンジニア)さ」


 トキヤマは山本似愛の時代にも知られていた兵器関連企業に在籍しているという。無人兵器の技術はすっかり進み、あとは機械に自我が目覚めるのを待つだけなのだが、最近の流行(トレンド)は有人操作なのだという。


「遠隔操作のロボット兵器を個人が購入して、それを紛争地帯で義勇兵として運用するのさ。紛争の当事者は資金も兵器も出してくれて大助かり、兵器で”遊ぶ”金持ちも虚栄心と正義心を満たせるし、何より合法的に人が殺せる」


 聞かなければよかった、とニアは後悔した。


「これほど胸糞の悪い話はない。給料は抜群にいいが、まともな神経なら三日も持たない。匿名のアイコンがミスショットした弾丸が、画面の向こうに映る子供を殺すんだ」

「…………それで記憶を?」

「ああ。半年に一度のペースで記憶を消してもらっている。どうやら僕には殺人鬼の才能はないらしい。本当の殺人鬼は爆撃のニュースで心を痛めながらモーニングコーヒーを飲める連中のことを言うのさ」


 …………本当に聞かなければよかった。疲労感を感じてシートに身体をもたれかかると、時山がくつくつと笑いをこらえるように笑っていた。高い鼻が上下に震えている。


「な・に・が、そんなに可笑しいんですか? 他人に話してみたから、意外と大したことがなかったことがわかったんですか? 良かったですね」

「ふふふ、本当に君は不思議な人だね」

「よく言われます」


 車のエンジン音が小さくなり、後ろに引っ張られる加重も心なしか弱くなった。どうやら上り坂は終わり、これからは下り坂が続くらしい。


「あれが『神の貌』の総本部、通称『顔なしの郷』だ」


 谷の向こうに橙色の灯火の群れがちらちらと揺れているのが見えた。

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