表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/19

第7章 ようやく繋がった彼と私


 私は三人にこう言った。

 エリザベスが階段から落ちたのは足を踏み外したからではなくて、確かに誰かに足を引っ掛けられたせいだった。それは夢の話などではなく事実であり、足をわざと出して私を転ばせたのは男性だったと。

 

 そして昨日エリーから、フィルが事故死したのがアルトの授爵が発表される直前だったと聞いて、もしやと疑問が湧いたのだと。

 

「それはどういうことでしょうか? 我が家の叙爵を止めたかった者がいたとしたならば、フィルだけを殺しても意味がなかったのではないですか?」

 

「ええ。ですが相手はそもそもフィルではなくて、アルトさんが叙爵されるのだということを知らなかったのではないかと思うのです」

 

 それからあくまでもこれは仮定の話だと前置きをしてから、私はこう話をした。

 

 かつて王太子の座を狙う者がいた。仮にその者のことを()とする。しかし、災害や疫病の流行で国は未曾有の混乱に陥っていたので、王太子を交代しようという世論の動きにはまだなっていなかった。

 それ故にまだそのXは動くことができず、イライラしながらその時期を狙っていた。

 ところがそんな中、突然この国に一人の英雄が登場した。彼は武器一つ持たないで、疫病という目に見えない敵をやっつけて、多くの国民を救った。

 しかもその英雄は見目麗しい若者で、すぐに女性達のヒーローになった。

 必ずや王家はその英雄に目をつけて、自分の人気取りに彼を利用しようとするだろう。

 そうなったら自分は王太子を引きずり落とすことができなくなる。とXは考えて、そうなる前にフィルを事故死に見せかけて殺したのではないだろうか。

 

 しかしフィルを殺してしまったのは悪手だった。

 フィルは死んだことでさらに悲劇の英雄、この国の救い主となり、王太子を狙うその人物Xの存在を顧みる者などいなくなってしまった。

 そのような社会の流れの中で、今さら危険を犯してまでフィルの兄の叙爵を邪魔しても意味がないと判断せざるを得なくなったのではないだろうか。

 

「つまりその犯人は、王太子の地位を狙える立場にいながら、王家から新たに叙爵される人物を知らされてはいなかった、そんな人物ということですか?」

 

 アンディーが思案顔でこう問うてきたので私は頷いた。

 

「ええ。そもそもアンディーも既にそれが誰なのか見当がついていたのではないですか?

 だからこそ私に『偽りの実』を食べさせ、騒動を起こさせて、その間に城内を調べていたのでしょう?」

 

 私のこの言葉にアルトとエリーは驚愕し、私とアンディーの顔を交互に見やった。

 するとずっと難しい顔をしていたアンディーが、表情を崩して参ったなと言う顔をした。

 

「ねぇ、いつからリーは僕の正体に気付いていたの? 正直に言うとあの実を手渡した時だって、僕はまだリーがメグの生まれ変わりだなんて半信半疑だったんだよ。

 だから四日前にリーが毒を飲んで自殺を図ったと聞いた時は本当に驚いたんだ。

 でも『()()()()』を食べたということは、僕がフィルベルトの生まれ変わりだということに気付いてくれたからだと確信したんだ。

 死にたかったからではなく、僕を信じてくれたからこそ食べてくれたんだろう。違う?」

 

「違わないわ。私は前回寝たきりだった時でさえ死にたいとは思っていなかったもの。

 今回はなおさらよ。今度こそフィルだったアンディーとずっと一緒にいたいと思っていたんだもの。

 そのためにもオルゴット殿下となんて二度と婚約なんかしたくはなかったし、この状況から脱するにはどうすればいいかをずっと模索していたわ。

 だからこそ、アンディーの作戦に乗ったのよ。『偽りの実』を食べて私が仮死状態になれば、殿下はその責任を問われて、一時的でも自由を拘束されるのではないか、という案に」

 

『偽りの実』の効能は、エリザベスだった頃にブレイズ教授から教えてもらって知っていた。

 アンディーがいつどうやってそれを教授から聞いたのかは知らないけれど。

 おそらく私の記憶がおかしくなっていたのは、あの『偽りの実』の副作用だったのだろう。

 そして、サナーレの実には病気予防や治癒だけでなく心や脳の働きまで回復させる力があるのだろう。

 アンディーはそれも知っていたから、私が目覚めたらすぐにサナーレの実を食べさせようとしていたのだろう。

 サナーレの実って本当に万能薬なのね。『奇跡の実』だとか『女神の実』とか呼ばれているのも当然のように思えた。


 それにしても、私の死が事故によるものだとか、自殺だとか思われているとしたら嫌だと改めて思った。

 その挙げ句に恨んで呪っているだなんて。災害や疫病を流行らせたのが私の呪いのせいだなんて、まるで私は本当に悪役令嬢じゃない。いいえ呪いの魔女だわ。

 

 確かにエリザベスの時は、オルゴット殿下に婚約破棄されて腹を立てて呪ってやると叫んだけれど、それは殿下を愛していたからではないもの。

 大好きなフィルへの思いを封印して自分の定めだと諦めて、立派な王太子妃になるために血の滲むような努力をしてきたのに、それを無駄にされたことに怒っていただけだわ。

 だから、私はベッドに眠りながらエリーさんやフィルに手を握られ、マッサージをされながら思っていたの。

 私はもう王太子の婚約者じゃない、これからは自由になれるって。こんな本当に傷物になった私が誰かに嫁げるわけがないもの。

 これからはフィルへの思いを無理矢理に抑えたり隠す必要はない、そう思うと涙が出るほど嬉しかった。

 

「信じてもらえないかもしれないけど、エリザベスだった私は目を開けられなかったけれど、意識はずっとあったのよ。

 だから、早く目を覚ましたかったし生きたいと願っていたけれど、その願いは結局叶わなかった。

 けれど、生まれ変わって気付いたの。女神様は別の形で私の願いを叶えてくれるおつもりだったのだと。

 だから生まれ変わった後、どんなに苦しい状況になっても、私は幸せになる望みを絶対に捨てなかったわ」

 

「リーは強いね。僕はフィルだった頃、馬車の事故に遭った時に自分の人生を諦めてしまった。メグのいない世界に耐えられなかったから。

 それに、愛するたった一人の女性を守れなかったのに、多くの人々を救った英雄と呼ばれることは本当に辛かったんだ。

 せっかく大変な思いをして育ててくれたのにごめんね、兄さん、エリー義姉さん。

 それにせっかく大好きな二人の子として生まれ変わったというのに、僕は始めは嬉しさより腹立たしかったんだ。メグがいない世界になんか生まれてきたくはなかったって。

 でも、その半年後にリーが生まれて貴女の乳兄妹になれた時は、心の中で女神に謝罪した後で深く感謝したよ。リーがメグの生まれ変わりだって何故か僕にはすぐにわかったから。

 それからは、僕の中にあった絶望だとか諦めるという言葉は消滅した。そして今度こそは、どんなことをしてでもリーを守って見せると決意したんだ」

 

 フィルベルト男爵夫妻は、ただもう驚いて声も出せないようだった。

 私のことは薄々何かおかしい、怪しいと思っていたのだろうが、まさか自分の愛する息子まで生まれ変わりだとは思いもしなかったのだろう。

 しかもそれが十年前に無惨に失われた大切だった弟の生まれ変わりだなんて。

 読んで下さってありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ