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第6章 正体を明かした私

誤字脱字報告、いつもありがとうございます。

 

「ローズリー様……」

 

 エリーに名前を呼ばれた気がしてゆっくりと目を開けると、私は三人から見下されていた。

 それはエリーと確かアルト、そしてもう一人は黒髪に緑色の瞳をした綺麗な少年だった。

 

「フィル……」

 

 私がそう呼び掛けると、三人は悲しげな顔をした。そして、

 

「お嬢様、この子の名前はアンディー、私達の息子ですよ。まだ思い出されませんんか?」

 

 エリーの言葉に私はハッとして、慌てて謝罪をした。

 

「ごめんなさい。そうよね、貴方はアンディーよね。思い出したわ。

 さっきね、私は夢を見ていたの。そして夢の中にアンディーにそっくりな男の子が出てきてね、何故か私はその子をフィルと呼んでいたの。

 多分エリーさん達の姓がフィルベルトだとお聞きしたからかしら?」

 

 すると彼らは、私のこの言葉にさらに悲しげというか、何とも言えない辛そうな表情をした。

 どうしたのかしら。それほど私は悪いことを言ったのかしらと私が戸惑っていると、徐ろにアルトがこう言った。

 

「ローズリー嬢、フィルベルトという姓は俺の亡くなった弟の名前から取ったのです。

 そして弟が亡くなった一年後に生まれたのが息子のアンディーなのですが、息子は弟の生まれ変わりではないかと思うほどフィルベルトによく似ているのです」

 

「フィルが亡くなった?」

 

 驚愕の事実に私は体が震え出した。流行り病には罹らなかったのでしょう? それなのに何故?

 

「弟のフィルベルトは、男爵位の叙爵が決まる直前に馬車に跳ねられて亡くなったのです」

 

「殺されたの? エリザベスのように?」

 

 思わずそう叫んだ私に、今度は三人が喫驚した。

 

「殺されたってどういうことですか? エリザベス様は階段から足を踏み外して、それがもとで亡くなったのではないのですか?」

 

 ここで初めてアンディーが口を開いた。

  

「夢の中で見たのです。誰かに足をかけられて階段から転げ落ちたのを」

 

「でもそれはあくまでも夢の中の話でしょう?」

 

 アンディーは眉間にシワをよせてこう言った。まあ、そう受け取られても致し方ないとは思った。

 しかし目を覚ました今、私は全ての記憶を取り戻していたのだ。

 

「ブレイズ先生が以前おっしゃっていました。人が何故夢をみるのか。それは寝ている間に頭の中で記憶を整理しているからだと。

 だから、夢に見たことが日常に無関係だとは決して言い切れないと」

 

「ブレイズ教授を何故ローズリー様がご存知なのですか! 

 オルゴット殿下の専属教授をなさっていたあの方は、十年前の王城での騒ぎの後、この国に絶望されて隣国へ戻られてしまいましたのに。

 お嬢様は当然お会いしたことはありませんよね? それなのに何故教授のお名前を知っているのですか?」

 

 エリーは何かを確信しているのか、私の目を覗き込むように見ながらこう問うてきた。

 私もエリーの目を見つめながら、このまま自分の秘密を隠していたのでは、現在の状況を変えられないと思った。

 それに王太子が軟禁状態になっている今こそ、行動を起こす良いタイミングなのかも知れない。

 王太子のあの焦り方を見ていると、早々に無理矢理婚約させられてしまうかも知れない。何も大人になるのを待つこともないのではないかと。

 

 私は全てをここで打ち明ける決意をした。そもそもこの三人は、私がもっとも信頼している人達であり、いずれ打ち明けるつもりだったのだから。

 私は上半身を起こしてベッドの上で背をぴんと伸ばすと、一つ深呼吸をしてから彼らにストレートにこう告白したのだった。

 

「エリーさん、アルトさん、アンディー。信じてはもらえないかもしれませんが、私はコンラッド侯爵家の令嬢だったエリザベスの生まれ変わりです」

 

「「「・・・・・」」」

 

 

 

 暫く沈黙が続いた後で、アルトがこう尋ねられた。

 

「俺の弟のフィルには左腕に傷痕があったのですが、それがどうしてついたかご存知ですか?」

 

 と。

 早くに両親を亡くしたアルトは、年の離れた弟のフィルベルトを育てながら、コンラッド侯爵家で庭師をしていた。

 アルトは、まだ幼かったフィルをいつも屋敷に連れてきていたので、私はフィルとはよく遊んでいた。

 

 私は非常に厳しかったという祖母に容姿が似ているという理由だけで、両親から毛嫌いされ遠ざけられていた。

 そして彼らは侯爵家の跡取りである兄だけを愛していた。

 それ故に、私が庭師の弟であるフィルと遊んでいても、別に何も言わなかった。後になって、それは不幸中の幸いだったと思ったものだった。

 

 三つ年上だったフィルは育った環境のせいか、年齢よりもかなりしっかりしていた。しかも兄の愛情をたっぷりもらっていたおかげか、とても優しくて面倒見のいい子供だった。

 私にとってフィルは幼なじみで親友で兄で、そして初恋の相手でもあった。そして更に英雄でもあったのだ。何故なら……


 

「フィルの腕にある傷跡は、狼に噛まれた時のものです。

 子供の頃、隣家で飼っていた狼が逃げ出して侯爵家に迷い込んで、丁度庭にいた私に襲いかかってきたのです。

 その時ちょうどフィルは、サナーレの木に登って無駄な枝の伐採をしていたのですが、私を助けるために狼の上に飛び降りて、持っていた斧で狼の首元を刺したのです。ところがそれでも狼はまだ暴れていて、フィルの腕を噛んだのです。

 そしてフィルは腕に大怪我を負ったのですが、そこで怯むことなく狼をやっつけて私を守ってくれました。

 フィルは私の命の恩人であり、英雄でした」

 

 私のこの返答で、エリーとアルトは私が嘘をついていないとわかってくれたようだった。

 そしてずっと難しい顔をしていたアンディーが、何故か真っ赤な顔をしていた。

 

「ローズリーお嬢様は本当にメグお嬢様の生まれ変わりだったのですね。

 メグお嬢様は金髪に碧眼で、それはもう太陽のように明るく華やかなご容姿でした。

 それに対してローズリーお嬢様は銀髪に淡い水色の瞳をなさっていて、まるで暗闇を照らす月のように神秘的でいらっしゃいます。

 ですから以前は、お二人が似ているだなんて思ったこともありませんでしたよ。

 そもそも何をやっても器用ですぐになんでもこなしてしまうローズリー様とは違って、メグ様は少々不器用でしたからね。

 それなのに何故淑女の鏡と呼ばれるようになったのかと言えば、メグ様が毎日地道にコツコツと努力されていたからですよ。

 それに比べてローズリーお嬢様が信じられないほどのスピードでの淑女教育をマスターできたのは、以前の努力のおかげだったのですね」


 ようやく合点がいったというように、エリーは何度も頷きながらこう言った。

 たった七歳で、すでに学ぶ必要がないほど淑女として振る舞えるだなんて、普通ありえないと思っていたという。


「近頃のお嬢様はどう見ても、洗練された立派な淑女でした。ですからもしやとは思っていたのですよ。

 ローズリーお嬢様の一挙一投足が、全てメグお嬢様を彷彿させるものでしたからね」

 

 エリーは泣きそうな顔をしてこう言った。私のことをやっぱり怪しいと思っていたのね。

 そりゃあそうよね。知っていることを知らない振りをするのって、本当に難しかったのですもの。

 それに所作や、ダンスなんて脳に染み付いていたから無意識のうちに勝手に動いてしまっていたし。この体と脳の連結が素晴らし過ぎたわね。

 

「それにしても、先ほどお嬢様がおっしゃった殺されたというのはどういうことですか?

 エリザベスお嬢様とフィルは事故死と判断されたのですが」

 

 アルトが厳しい顔を私に向けてきたので、私は過去の事実と自分の推理を語ったのだった。

 

 

 


 読んで下さってありがとうございました!

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