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第4章 過去の気持ちを伝える私


 かつてコンラッド侯爵家令嬢エリザベスだった私は、マルソール伯爵家の娘ローズリーとして、この世に生まれ変わった。

 そしてそれはエリザベスが死んでから僅か二年後のことだったようだ。

 

 しかし母であるマルソール伯爵夫人には母乳が出なかったので、乳母を探したのだが、何せ疫病のせいで多くの人が亡くなっていたので、容易には見つからなかった。

 そんな時、旧コンラッド侯爵家の敷地を譲り受けて、そこでサナーレの実を栽培することになった新男爵であるフィルベルト夫妻に、赤子が生まれていたことを知った。

 そこで伯爵家は、縋るような気持ちで乳母になって欲しいと男爵家に懇願した。

 

 するとエリー夫人は双子を産んだと思えばどうということもないですよ、と快く引き受けてくれた。

 ただし貴族としての最低限のマナーを自分に指導してくれるのならば、という条件付きで。


 伯爵夫人と男爵夫人は年齢が近く、エリザベスという共通の繋がりがあったために、すぐに懇意の仲になった。

 二人は子育てをしながら、よくエリザベスの想い出話をしていたそうだ。

 そしてローズリーの七歳の誕生日が近付いてきたある日のこと、ふと思いついたかのように、マルソール伯爵はフィルベルト男爵夫人にこう言ったそうだ。

 

「もし、私達に何かあったら、どうかローズリーのことをよろしくお願いします。

 我が一族は皆もう亡くなっていて頼れる人が誰もいません。それに、あの娘のことを安心してお願いできるのはエリー様達しかいません。

 あの子は王家や高位貴族達に狙われています。あの娘を手に入れれば王位に就けると思い込んでいるのです。つまらない噂を真に受けて。

 こんなことをお願いするなんて迷惑だってことは重々承知しています。でも、貴女方しか信じられないし頼れないのです」

 

 と。

 

「虫の知らせだったのかもしれませんね。私はわざと明るく、何かなんてことが起きるはずがないじゃないですか。

 でも、もし奥様方に困ったことが起きたら、ちゃんとお嬢様の面倒は見させてもらいますから大丈夫ですよ、とお答えしたんですよ。

 それなのにその後間もなく、急に領地へ行く用事ができて、その領地に着く直前でご夫妻が落石事故に遭ってしまったのですよ。本当に信じられませんでしたよ」

 

 エリーは頭を振りながら、ため息交じりにこう言った。

 まあ、不幸中の幸いで両親は一命は取り留めたが、二人揃って大怪我をしていたために、当分の間領地で療養とリハビリをすることになってしまった。

 それ故に両親は王都には戻れなくなってしまったのだそうだ。

 

 その結果王都のマルソール伯爵邸は、当主夫妻が長期間不在することになってしまった。

 まあ、屋敷の切り盛りはベテランで信頼できる執事がいたので問題はなかったのだが、七歳になったばかりのまだ幼い令嬢をそのままにするわけにはいかないと周りは思ったそうだ。

 何せそのご令嬢は、あのたった一人残ったコンラッド侯爵家のエリザベス嬢と同じ血を引く尊い身なのだから。

 

 マクレール公爵家を始めとするそうそうたる高位貴族達が、ローズリーの面倒を見ると申し出てきた。

 するとそれを知った王太子が、彼らを差し置いて、その権力を用いてローズリーを王城へ連れ去ったのだった。もちろんエリー込みで。


 王太子はかつての婚約者の侍女だったエリーまで連れてくるのは避けたいと思っていた。

 彼女は、オルゴット王太子がエリザベスにしていた酷い仕打ちを全て知っている、唯一の人物だったからだ。

 それ故に彼女が自分とローズリーの仲を邪魔するであろうことは、火を見るより明らかだったのだ。

 

 しかしマルソール伯爵がエリーをローズリーの正式な後見人に指定していたために、彼女を排除することはできなかった。

 


 王城で暮らすようになってからというもの、私はオルゴット王太子から何度も婚約して欲しいとお願いをされていたらしい。しかしその度に私は、

 

「婚約なんてまだ私には早過ぎますわ」

  

 と言ってすぐにその場から逃げ出していたという。

 まだおねしょをしているからとか、人形を抱いてではないと眠れないような子供だからとか、恥ずかしさを我慢してまで、私はまだ幼い少女なんですよ、というアピールをしつつ逃げ回っていたらしい。

 

 そして三日ほど前に、私は王太子殿下と言い争いをし、その直後毒を含んで意識を無くし、さっきまで目を覚まさなかったのだという。

 

 

「容姿はともかく、何となく君はエリザベスに似ていると思っていた。声とかちょっとした仕草とか。

 でもやっぱり君は彼女とは違う。彼女は君のようにズケズケ物を言わなかったし、いつも相手を思いやっていた。君くらいの時からね」

 

「当たり前じゃないですか。私とその方は別人なんですから。

 でも殿下の言い草ではエリザベス様は貴方にとってとても良い方だったように聞こえますよ?」

 

「もちろん、その通りだ。彼女は素晴らしい女性だった」

 

「私が何も知らないと思ってそんな嘘をついては駄目ですよ」

 

「嘘ではない。彼女は本当に素晴らしい女性だった。彼女は誰もが認める最高の女性だった」

 

「はあ? それなら何故そんなに素晴らしい方を婚約破棄されたんですか?

 彼女より素晴らしい方がいらしたから破棄したのでしょ。つまり大した方じゃなかったということでしょう?」

 

「やめろ! 彼女を侮蔑するなんてゆるせない!」

 

「私は事実を言ったまでですよ! 殿下は彼女を捨てたんです! 殿下のために自分のしたいことを全て諦めて、家族(屋敷の使用人)や友人達と過ごすこともできず、一人で頑張っていた彼女を捨てたんです!」

 

「知ったことを言うな! 貴様は生前の彼女のことなんて何一つ知らないくせに」

 

「知っていますよ。彼女の気持ちは少なくとも貴方よりはよっぽどね」

 

「なんだと!」

 

「私は彼女の日記や手紙を読みましたからね。彼女は私の母を姉のように慕っていたんです。

 ですから、毎年ご自分の誕生日に、母の元に日記を送ってこられたのです。これがこの一年分の私ですとおっしゃって。

 最後の日記は、そう、エリザベス様が事故に遭う一週間前のものでした」

 

「なっ!」

 

「日記に書いてありましたよ。王太子殿下が聖女様と学園の温室で接吻していたと。

 満開のピンクの薔薇が咲き乱れている中で、ピンク色の髪をした聖女様と、深緑色の髪をした王太子殿下が抱きしめ合う姿は、まるで薔薇の花のように美しくて、絵画のようだったと。

 だから声をあげることもできずに逃げ帰ったと。

 もう、駄目かもしれない。今まで頑張ってきたことは一体何だったのだろう。私はあんな人のために五年も尽くしてきたのに、それは全て無駄だった! 

 憎い、憎い、憎い! 呪ってやる!って」

 

読んで下さっていればありがとうございました!

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