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第2章 噂のネタにされた私

少し長めです!


 私は生まれた時から、王侯貴族から特別視される存在だったという。だから幼い頃からやたら他人にまとわりつかれていたらしい。

 その中でも特に王太子は、暇を見つけてはやって来て、幼い私の後ろ姿を物陰に隠れてそっと覗いていたらしい。まるでストーカー。怖いわ。

 そして半年前に私の今の両親であるマルソール伯爵夫妻が、領地で事故に遭った。そして大怪我をして療養生活に入ったために、私は王都の屋敷に一人残されてしまった。

 すると王太子は、他に身内のいない年少の私を保護する名目で、半強制的に城に呼び寄せたらしい。

 何せ私は『コンラッド侯爵家の()()()()()唯一の希望である子供』だったからだという。

 

 前世での私の元婚約者であった王太子は、現在二十七歳で未だに独身。

 えっ? オルゴット殿下ってロリコンだったの? と一瞬私は思った。

 しかし話を聞くとそうではなかった。

 王太子はただ単に、私と婚約しないと今の地位が危うくなっているために、必死に七歳の少女に迫っていたようだった。なんか情けないわね。

 

 というのも、十年前にエリザベスだった私が事故に遭って寝たきりになった後、オルゴット殿下はまさしく窮地に陥ったらしい。

 何せ筆頭侯爵家の令嬢だった私との婚約を、陛下の断りもなく勝手に婚約破棄したのだから。

 しかも彼は私のことを悪役令嬢だとかわけの分からない呼び方をし、やってもいない冤罪をでっち上げた。

 しかしこう言ってはなんだが、私は王太子よりもずっと世間からの評判が良かったのだ。才色兼備の上に慈悲深い令嬢だと。

 だから最初から王太子やその側近達の言い分など誰も信じてはいなかったそうだ。

 

 そもそもいくら国が召喚した聖女とはいえ、リカという女性は常識外れで我儘で男好きだった。そんな聖女と王太子が浮気をしていることを、周りの人々は前々から快く思っていなかったのだ。

 しかも聖女リカは王太子だけではなく、多くの高位貴族の令息を侍らせていたので、彼らの婚約者達は皆辛い思いをしていたのだ。

 

 それでも王太子と聖女相手では、誰も苦言を呈することができなかった。

 だからこそ王太子の婚約者で筆頭侯爵家の令嬢だった私が、皆の気持ちを代弁するためにも、彼らのその非常識な行動に対し注意喚起をしていたようだ。

 それを元婚約者である王太子やその取り巻き達は逆恨みしていたのだろう。

 

 しかし、一人矢面に立っていた私が、理不尽に婚約破棄をされ、その直後に事故に遭い意識不明の状態に陥ったことで、みんなが怒り心頭になったらしい。

 

 そしてその卒業パーティーでの出来事を後で知らされた陛下は、さすかに異常だと感じ、遅まきながら聖女と息子を含む取り巻き連中の調査を開始した。

 すると聖女リカは癒やしの魔術だけではなく、禁術である魅了の力も持っていて、それを王太子を始めとする高位貴族の令息に使っていたことが判明したらしい。

 

 聖女本人は、魅了の力などではなく、自分自身の魅力によって彼らに愛されていたのだと、頑なに主張したそうだ。

 しかし魔術師によって魅了を解呪された令息達は、皆一様にリカに対して激しい憎悪を向けたようだ。

 彼女のせいで彼らは皆嫡男の地位と輝かしい未来と大切な婚約者を失ったのだから。

 

 そんな彼らを見て、聖女リカは訳の分からない言葉を叫び続けていたらしい。

 

「こんなのおかしいわ。こんな可愛い私を嫌いになるなんて信じられない!

 私は王太子と結婚していずれ王妃になって、たくさんの男を侍らせて、みんなに愛されて幸せになるのよ。

 誰かに愛されたくて、優しくされたくて、ホスト通いして、そのために毎日バイト三昧! 

 あんな思いをもうしなくても、ここでは皆に愛されると思ったのに。なんで? なんでよぉ〜

 みんなあのエリザベスが悪いのよ。あの女さえちゃんと悪役令嬢の役割を果たしてくれさえいたら、私はシナリオ通り可愛そうで健気なヒロインとして、みんなに守られて愛されて幸せになれたのにぃ〜」

 

 結局彼女は危険な狂人として扱われ、隣国の魅了研究所へ送られたらしい。

 

 そして王太子は、他のお仲間と同様に本来なら廃嫡されるところだったのだが、あいにく王家には彼しか男子がいなかった。

 王家の血を引く筆頭公爵家の嫡男さえも、今回の騒動の渦中の人物の一人だったために、大切な跡取りに決まった次男を王家に差し出すわけがなかったからだ。

 そのため仕方なく、オルゴット殿下には厳しい罰を与えた後に再教育を施して、そのまま王太子の地位に留まらせることにしたらしい。

 

 しかしこのことが高位貴族の不満を買う結果となった。それは当然だろう。自分達は息子を廃嫡せざるを得なかったのに、王太子だけがそのままの地位でいるなんて。

 そもそも聖女どころか、あんな魔女のような醜悪な女を召喚したのは王家ではないか。その責任は一体誰が取るのかと。

 

 そしてそんな彼らの不満を一層高める原因となったのは、私が意識不明になってからというもの、我が国には次々に色々な災難が降り掛かってきたからだという。

 

 

 日照りが続いて農産物がだめになったと思ったら、その後は反対に大雨による水害や山崩れが起きたり、大風が吹いて木々や建物を壊したり、あちらこちらで火災が発生したり……

 

 次々襲ってくる災いに人々も国も疲弊した。何故こんなことになったのだろう。誰もがその原因を知りたがった。

 これが女神の怒りであるのならば、女神を怒らす原因が何かきっとあったはずだと。

 そう。いつしか人々はその原因探しに躍起になっていった。その災いの原因の多くが自然現象だったにも拘らずだ。

 

 しかし本来ならば、聖女がいなくなったせいだと考えるのが妥当だろう。聖女の加護がなくなったせいだと。

 ところが、聖女リカは元々加護の力など持っていなかったことを皆が知っていた。だからと言って闇に落ちた聖女の呪いか、とも思わなかったようだ。

 何故なら、これらの災害を引き起こしたのが、もし呪いによるものならば、呪った者が支払う対価はかなり膨大だったに違いない。たとえば自分の命を引き換えにするとか。

 ところが、聖女リカが死んだという話はまだ聞こえてこない。

 そもそもあんな大罪を犯しながら彼女が処刑されなかったのは、その死によって何らかの呪いをかけられたのでは堪らない、と王家と城の上層部の者達が考えたからに違いない。

 それ故に王侯貴族達は、この呪いを発したのが聖女リカだとは誰も思わなかったのだ。

 

 すると、やがて平民の間ではこんな噂が出回るようになっていた。

 これまでの災いは全て、コンラッド侯爵家令嬢だったエリザベス嬢の呪いだと。いや、正確に言うとエリザベス嬢を憐れんだ女神の怒りだと。

 

「あのご令嬢はあんなに王太子のために精進して尽くしてきたのに、王太子に冷遇された挙げ句に冤罪で婚約破棄され、最後は事故に遭って今も意識不明のままだって」

 

「エリザベス様は教会にもよく奉仕活動に来てくれた。食事を作ったり、掃除をしたり、親のいない子の世話をしたり、勉強を教えたり。

 あのご令嬢の方がよっぽど聖女様みたいだったよ。あの魅了持ちの男狂い聖女よりもさ。

 王家や貴族の目は節穴だよね」

 

「実の両親や兄弟までエリザベス嬢に関心を示さずに、虐げていたらしいよ。お辛かっただろうね」

 

「神様が怒ってるのは、きっとエリザベス様を奴らが蔑ろにしたからだよ。そうに決まっているよ」

 

「それじゃあ私達平民は、王家や貴族達のせいでこんな不運な目に遭っているのかい?」

 

「酷い!」

 

「くそっ!」

 

「もしエリザベス様が目を覚まさなかったら、どうなるのかしら?」

 

「今までよりもっと酷い天変地異が起こるよ、きっと!」

 


 元々多くの国民が王家や貴族達に対して不満を抱いていたが、コンラッド侯爵家令嬢の受けた仕打ちの話が広まるに従って、さらに大きくなっていった。

 やがて国中から人々が王都に集まり出して、王城近くの広場に集結するようになった。そして、連日のようにみんなで大声で叫び声をあげた。

 

「エリザベス様を助けて!

 もし、死なせたら承知しないよ!」

 

 城から騎士団が出動したが、広場に溢れ返った人々の群れに、彼らは為す術がなかった。

 普段威張りくさっている王侯貴族達も、さすがにその群衆の数に恐れ慄いた。そして慌てて名医と呼ばれる医者を個々に探し回ったらしい。

 それを聞いてなるほどと、私はようやく合点がいった。

 

 意識不明でベッドに寝たきりになっていた時、取っ替え引っ替え人がやって来て、あちこち体に触れてきて気持ち悪かったのよね。

 あれってお医者様だったのね。私の意識がないからって、いやらしいことされているかと思っていたわ。

 

 それにしても、私が王太子やその側近連中を恨んで呪ってるだなんて、本当に失礼しちゃうわ。

 いくら世をはかなんでいたとしても、関係のない人達に迷惑をかけるような呪いなんてかけないわ。

 もし恨んで呪ったとしても、それは直接の加害者にだけよ。

 

 王太子にその側近にあのニセ聖女、そしてあの王太子と私を婚約させた両親と国王に。

 とはいえ、私が呪ったなんていう噂が蔓延するなんて、いくらなんでもおかしい。何か作為的なものを感じるわ。

 女神様に対しても不敬極まりないわ。意図的に噂を流した者がいるのなら、おそらくそれは異教徒ね。

 私の死後に起きた未曾有の悲劇の話を聞いて、私はそれを確信した。

 

 私が死んだ後、この王都ではなんと疫病が蔓延し、多くの死人が出たのだという。

 ただし、王都で流行り始めてすぐに、マクレール公爵家が王都の城壁の門を閉じて人の出入りを禁止したので、地方にまで疫病が拡大せずに済んだことだけが不幸中の幸いだったようだが。

 

 その疫病の流行で生前の私の両親と兄は亡くなって、コンラッド侯爵家は消滅したそうだ。

 私をずっと虐げてきた彼らが亡くなったことで、私の呪いの噂が一層現実味を帯びて、親類縁者が誰一人として後継者を名乗り出なかったからだという。

 というか、コンラッド侯爵の一門はマルソール伯爵家以外、ほとんどその疫病で途絶えてしまったようだ。

 

 読んで下さってありがとうございました。


(作者のぼやき)


 季節の変わり目か、天気のせいか、気候病(自己診断だが間違いない!)で激しい胃痛。辛い。

 ようやく投稿しましたが、明日は体調を見てになります。スミマセン!

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 普通は筆頭公爵家が家ごと継いで新王朝を興せばいいのだが、多分今の呪われた国を継ぐのが嫌だったんだろうな
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