第1章 生まれ変わった私
微ざまぁ主義の作者ですが、この話は流れの関係上、残酷な場面もあります。
主人公は幸せになり、罪を犯した者は、それなりの報いを受けます。
読んで頂けると嬉しいです。
私は生まれ変わったらしい。以前の侯爵令嬢……ではなくて、その侯爵令嬢の親戚の伯爵令嬢に。
しかも半年前から何故か自分の屋敷からこの王宮に連れ込まれて住んでいる……らしい。
どうして何故……と連呼するかというと、今の私は現在七歳らしいのだが、生まれてから現在までの記憶がない。全くないのだ。
不思議なことに以前の記憶の方は、死んだ時のことまでしっかりと覚えているというのに。全くもう……
以前の人生の時、私は今と同じ僅か七歳で、同じ年の王太子に見初められて婚約をした。
ひたすらお妃教育に励んで王太子にも尽くしたが、学園入学後、聖女だという転入生に王太子を奪われた。そしてなんと学園のダンスパーティーの衆人環視の中で婚約破棄をされた。
優等生で淑女の鑑と称されていた私も、さすがに取り乱し、泣きながらこれまでの恨みつらみを全て吐き出し、『二人を一生許さない、恨んで呪ってやる!』と叫んでから、ホールから飛び出した。
そしてその直後、何と私は大きな悲鳴と共に階段を転げ落ちた。
その後王太子は、頭から血を流して横たわる元婚約者である私を見下ろすこととなったようだ。
そして目がバッチリ合ってしまったそうだ。この事で王太子は私に呪われる、祟られると思い込んだらしい。
この出来事の後、王太子だけでなく、私の周辺の人々の人生の歯車が狂い始め、次々と不幸になって行ったらしい。
そしていつしかそれは、王太子に棄てられた元婚約者の呪いだと、実しやかに囁かれるようになった。
しかし………
私が呪った?
いやいや確かに恨めしかったし、呪ってやると捨て台詞を吐いたけれど、それはただ、それまで溜め込んでいた怒りを爆発させただけに決まっているでしょ。腹立ち紛れに叫んだだけよ。
いつまでも怨んでいたら昇天できずに、死後の世界まで不幸になっちゃうじゃない!
そんなのごめんよ!
だからなんとかそれを否定しようとしたけれどそれも叶わず、私は意識が戻らないまま、その半年後に天に召された……と思ったら、その後すぐさま生まれ変わっていたようだ。そう、それも七年も前に。
✽✽✽✽✽
朦朧とした状態の中から徐々に覚醒していく中で、何故か私は、今の自分はやり直しの人生を生きていると感じていた。
目を開けると、私専属侍女のエリーが泣きながら私の手を擦っていた。
そういえば前回私が目を覚まさずに寝たきりだった時も、こうして体を擦ったり、マッサージをしてくれていた。
目覚めた時、私の体が固まっていたら困るからといって。
あの時、意識だけはずっとあったんだよね私。
「エリー、泣かないで…」
私がそう声をかけると、エリーは大きく目を見開き、それからまたポロポロと涙をこぼした。
「良かった、ローズリーお嬢様が目を覚まして。メグ様のようにこのまま目が覚めなかったらどうしようと、心配で心配で」
メグ様のように?
んん?
今の私はエリザベス(メグ)ではないの?
エリーに握られていない右手をなんとか持ち上げてみると、その手がまだ小さいことに気が付いた。まるで子供の手だわ。
過去の記憶はあるけれど、それは巻き戻ったのではなく、前とは違う人間になって別人として生まれ変わったということなの?
私はまだ身動きがとれないらしく、思うように身体も顔の表情筋も動かなかったし、喉が乾いて声も出にくかったが、心の中で叫び声を上げていた。
『一体今の私は誰なの?』
そう言えばエリーは私の知っている彼女より、少し年を取っている気がする。
「すみませんでした。お嬢様が王太子殿下を苦手になさっていたことをよく知っていたのに、殿下をお部屋の中に招き入れてしまって。
正直私もあの方が嫌いでたまりませんでした。以前私が仕えていた方を不幸のどん底に陥れたのですから。
でも、私情を入れてはいけないと思い過ぎていたのです。
ですから大切な話があると言われて拒否ができなくて。
でもまさか、お嬢様があれほどあの方をお嫌いだとは思ってもみませんでした。
いいえ言い訳ですね。わかっておりましたよ。これまでもずっと婚約のお話を断っておられたのですから。
それでも、面倒をみてもらっているのだからと、ずっと我慢していらしたのですよね。
それにしても、まさか毒を飲んで自殺を図ろうとするほどだったとは……
お嬢様、私とアルトと一緒にこの城から出ましょう。王家や伯爵家のような贅沢な暮らしはできませんが、死ぬよりはましでしょう?
アンディーも喜びますわ」
「毒? アンディー?」
私は自ら毒を飲んだの? 信じられないけど。それに、アンディーって本当に誰?
「お嬢様は私の息子のアンディーのことをお忘れなのですか?
あんなに仲良くして頂いていたのに」
エリーは衝撃を受けたように目を見張った。
さっき彼女が口にしたアルトとは、私がエリザベスだった時にコンラッド侯爵家の庭師をしていた人だ。
そうか、エリーはアルトと結婚したのか。付き合っていたとは知らなかったが、彼は誠実で優しくて、それでいてしっかりした人だった。
良い人と結ばれたんだな。本当に良かった。しかも息子まで生まれていたとは。
「ごめんなさい、エリー。あなたとアルトのことはなんとなくわかるけれど、二人が夫婦で息子がいるっていうことは覚えてないの。
というか、自分の名前も分からないの」
私がこう説明すると、エリーは驚いた顔をしながらも、今の私のこと、何故お城に住むようになったのか、その経緯を教えてくれた。
しかしエリーには記憶があやふやだと説明したが、実際のところはエリーが漏らしたエリザベスという名には記憶はある。
つまり、今の記憶はないのだが、前世の記憶はしっかり覚えているのだ。
私の前世の名前はエリザベス。愛称はメグ。コンラッド侯爵家の令嬢であり、王太子オルゴットの婚約者だったわね。
しかし学園のダンスパーティーで、突然いわれなき寃罪で婚約破棄された直後、階段から落ちて瀕死の状態になり、その後意識が戻ることなく死んでしまったはずだわ。
そしてその後、どうやら私は、コンラッド侯爵家の親戚のマルソール伯爵家の令嬢ローズリーに生まれ変わっていたらしい。ただしその記憶がない。
今現在の状況がはっきりしないうちは前世の話はしない方がいい。咄嗟にそう判断した私は、今自分の記憶はとても不明瞭で、何を覚えていて何を覚えていないのかがわからない、とエリーに伝えたのだった。
読んで下さってありがとうございました!