暇すぎる公爵令嬢はブリジットさんの邪魔をしている事に気づいていない
いつも有り難うございます
本作は、ネトコン11の一次審査通過作品です。
よろしくお願いします
「はぁ…」
あぁ…心の底から退屈ですわ…何か面白いことでもないかしら…
学園の中庭に咲く薔薇を楽しみながらの散歩も…もう飽きました。
「はぁ…」
この、ニーナ・ロウ学園を卒業したら、隣国の王太子と結婚する事が決まっているわたくし。
「ニーナ・ロウ学園の常識は、ニーナ王国の常識」
当然の事です。
王立学園とは、その国の縮図、社会そのものです。
同じ時間を過ごした人たちと、のちに国を作り、守って行くのです。
私は、王妃教育として隣国の常識やマナーも学びました。
学園での学業も既に終えていまして…
暇です。
誰かとお茶でもしたいのだけれど、友人達はまだ学業が残っているので、時間があるのは私だけ。
あまりにも退屈なので、こうして学園の中庭を散歩していますの。
「あら?」
少し先に見えるのはこの国の第二王子、アーサー殿下ですわ。
アーサー様が側近の方と談笑しながら歩いています。
そして…
アーサー様が進む先、建物の陰にピンク色の髪の毛の女の子が待ち伏せているのが見えました。
…あれは…
サンデース男爵家の…ブリジットさんですわね。
このままアーサー様が気付かずに歩み進まれれば、お二人はあの角でぶつかってしまいます。
どうしましょう…
そうだわ…
アーサー様の気をこちらに向けましょう。
こちらから呼び止めるのは失礼なので、私は転んだ振りをしました。
「きゃっ」
私の声を聞いたアーサー様が足を止めてこちらを向きました。
ペタリと座る私を見つけたアーサー様は、急いでこちらに来て下さり、お手を貸してくださいました。
「大丈夫ですか?どちらへ?送りましょう」
「ありがとうございます…」
ブリジットさんにぶつからなくて良かったわ…。
アーサー様の腕に手を乗せたまま、そっとブリジットさんを見ると、彼女は目を見開き、鬼の様な顔をしてこちらを見ていました。
あらあら。可愛いお顔が台無しです。
私は彼女に、にっこり微笑みました。
するとブリジットさんは顔をさらに赤くして…
走って行ってしまいました。
…恥ずかしかったのかしら?
別の日。
「暇ですわ…」
私はまた時間を持て余し、学園の裏庭を歩いていました。
読みかけの本を裏庭の木の下のベンチに座って読もうと思ったのです。
いそいそとそちらに向かうと、先客がいることに気が付きました。
ブリジットさんです。
彼女はまだ私に気づいていない様でした。
あっ!
ブリジットさんがするすると木に登りはじめましたわ!
貴族の女子で木に登れるなんて…しかもスカートで登るなんて!
なんてすごいのかしら!
ワクワクしますわ。
幼い頃からマナーに厳しく育った私には、ブリジットさんがキラキラして見えました。
何をするのかしら…
落ちたりしないかしら…
私は万が一の事を考え、このまま隠れて最後まで見守る事にしました。
彼女は低い太めの木の枝に跨がり、そこで紙の風船を膨らませ、そっと枝に挟みました。
そして、手を伸ばして紙風船が届くか届かないかのギリギリの距離に座り直しています。
ちょうど良いポジションを探っている様ですわ。
細かく前後を繰り返し念入りに調整されています。
しばらくすると彼女はしっかり座り、スカートの裾を直しました。
どうやらベストポジションが決まったようですね。
キョロキョロと辺りを見ています。
もしかして…
人に見られたら困るのかしら…?
何かに気づいた様子のブリジットさんが姿勢を低くし、手を伸ばし風船を取る仕草を始めました。
すると誰かが来るのが見えました。
「あれは…」
宰相のご子息のダニエル様ですね…
いけませんわ。
ブリジットさんの見られたくない秘密が知られてしまいます。
なんとかしないと…
私は今来た風を装い、ダニエル様に向かって歩き出しました。
「まあ…ご機嫌様ダニエル様」
「やあ。こんなところで何をしていたのかい?」
私は、ダニエル様からブリジットさんが見えない様にさりげなく立ちました。
「読みかけの本を読もうと思い、こちらに来たのですが…先程からあの辺りを蜂が飛んでおりまして…諦めて図書室へ向かうところですわ。
ダニエル様こそどうされましたか?」
「ベンチに座って本でも読もうかと…」
ダニエル様が持っていた本を見せてくれました。
ブリジットさんの為にも、ダニエル様を一刻も早くこの場から引き離さなければ。
「お辞めになられた方が良いかと存じます…」
「…そうですね。では今日は外で本を読むのはやめておきます。図書室へ行きましょう」
ダニエル様はブリジットさんに気付く事なく、そのまま図書室へ向かいました。
やりましたわ!
なんてスリリングなんでしょう!
ダニエル様に知られる事なく、ブリジットさんを守りましたわ!
こんなワクワクした気持ちになれたのは、ブリジットさんのおかげですわ!
ダニエル様の肩越しにチラリとブリジットさんを見ると、動いて暑くなったのかお顔が真っ赤でした。
瞬間、風が吹いてポトリと風船が落ちました。
ああっ!残念!
どうなるのか最後まで見届けたかったですわ!
私はブリジットさんにもわかる様に口パクで
「残念でしたわね」ニコリ。
ねぎらいの言葉を掛けました。
次回は頑張って欲しいですわ!
私はブリジットさんに心からエールを送りました。
。。。
ザンッッッ!!!
私は木から飛び降り仁王立ちしたまま、去り行くダニエル様と公爵女の後ろ姿を睨んだ。
毎回毎回なんなのよあの女っっ!!!
ダニエル様の気を引く計画が台無しじゃないっ!!!
この前の“偶然を装ってアーサー様にぶつかる計画”も、あの女に潰されたし!!
「残念でしたわね」ニヤリ…
ふ、ざ、け、る、なあああっ!!
次こそは絶対に成功させてやるんだからっ!!
。。。
「やはり今日でしたわね…」
私の予想は当たったようです。
ブリジットさんが校舎の大階段の上にいます。
そこへ…
「ソフィア様よ…」
私の背後にいる友人が呟きました。
アーサー様の婚約者、ソフィア様が通ります。
ソフィア様がブリジットさんの横を抜けようとした時。
ぐらり…
「きゃああああーーーーっっっ!」
悲鳴をあげながらブリジットさんが階段から落ちました。
ゴロゴロと階段を転がり落ちるブリジットさん。
ソフィア様を迎えに来たアーサー様も、階段から落ちるブリジットさんを見て驚かれています。
下まで転がり落ちたブリジットさん。
「……うう…あの人が…あの人が私を突き飛ばしたのよっっ!!」
泣きながらソフィア様を指差しています。
シンとした静寂に包まれ、誰も動こうとしません。
ああっ!
私、もう我慢できませんわっ!
「ブラボーーーっっ!」
思わず拍手をしながら、階段下にへたり込んでいるブリジットさんのもとへ向かいます。
「ブラボーーー!ブリジットさんっ!
素晴らしい演技でしたわ!
皆さまも迫真の演技に驚かれたでしょう?」
私はその場を見渡しました。
皆様の驚かれた顔を見ればわかります。
誰も演技とは思っていなかったようですわ。
「演技?……どういう事ですか?」
ソフィア様を胸に抱くアーサー様が私に問います。
私は力強く頷き答えました。
「はい。これは演技でございます。
私は数日前からここで階段から落ちる練習をしているブリジットさんを毎日見ていました。
ほら、あちらの図書室の窓からです。
図書室には、大階段がよく見える窓があるのです。
人気のないのを確認したブリジットさんは、何度もここから安全に落ちる練習をしておりましたわ。
最初は私だけで見ていましたが、何度も華麗に階段から転げ落ちるブリジットさんの姿を独り占めにするのは良くないと思いまして、常に数人の友人と一緒に見ておりました。
階段からの落ち方が日に日に上達して…。
昨日5回目に転がり落ちた時、ブリジットさんが満足そうに頷いたのを見て、いよいよ本番だと思ったのです!
そして今日、こうして私と友人達とこちらに隠れて待っておりました。
ブリジットさんは階段の上の掃除道具入れの横にスタンバイされていました。
そしてソフィア様がいらして…
ブリジットさんは歩き出し…
ソフィア様とすれ違う時に見事に落ちて見せたのですっ!」
ね!皆様?
と、少し興奮気味に振り返ると、友人達もうんうんと頷いておりました。
「ブリジットさんっ!本当にお見事でしたわ!
遠い図書室の窓から見るより、近くで見ると迫力があって…
今まで見てきた中で一番の最高の落ち方でしたわ!
でも、何故ソフィア様が突き飛ばしたなどと嘘をついたのですか?
そこはどうぞ胸を張って「自分から落ちた」と言って下さいませ!」
「う…
うるさぁあああーーいっっ!!!!
あんた!よくも邪魔してくれたわねっ!
どうしていつもいつもいつもっ!私の邪魔をするのよ!」
突然、ブリジットさんが叫びました。
「えっ!?
邪魔…?ですか??
なんの邪魔をしていましたか?
あっ…
その…もしかして…
まだ続きがあったのですか?
私、演技の途中で飛び出してしまった…のでしょうか…
それでしたら謝りますわ…」
まだ続きがあったなんて…
私が謝ろうとした時、アーサー様が一歩前に出てこられました。
「その必要はない。その女から詳しく話を聞くとする。衛兵、連れて行け」
アーサー様がそう言うと、まだ怒ってジタバタと暴れるブリジットさんを連れて行ってしまいました。
。。。
あの日以降、ブリジットさんを見かける事はなくなり…
また退屈な日々に戻ってしまいました。
「君の活躍を聞いたよ。やっぱり君は目が離せないね。
早く私のもとに来ておくれ」
隣国から届いた婚約者からの手紙にそう書かれていました。
「私も早くお会いしたいですわ…」
。。。
隣国の王太子がご成婚されたのち、二重帳簿による不正や貴族の不正行為など、様々な悪事が暴かれる事になりました。
(「暇でしたので、数字の計算をしていたらどうしても合わない数字がありましたの…」
「お茶会に呼ばれましたが、暇でしたので屋敷の裏に行きましたら、コソコソと裏口から…」)
そのおかげで国がクリーンになり、国民を苦しめていた無駄な重税などが廃止になり、とても暮らしやすい国になりました。
拙い文章、最後までお読み下さりありがとうございました。
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☆誤字のお知らせありがとうございました!
修正致しました