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あらたな青春

「……ありがと。新川くん……」

 かぐらはしばらく希璃弥たちの後姿を眺めていたが、そう呟くとあやめのもとへ駆け寄った。



 ──こうして、後に会長襲撃事件と言われる事件の一端が終わり、希璃弥とかぐらの高校生活が改めてスタートした。

 結局、かぐらを襲わそうとした犯人は見つからず、希璃弥たちには納得のいかない終わり方を迎えたのだが、学校全体のあやめのイメージが少し良くなったと言えるだろう。

 それでも、生徒会の人数不足は解消されないのだが。

 そして、入学してはや二週間が経過した。

 新しいクラスにも仲の良い人たちで集まり始め、いくつかのグループが出来上がっていた。希璃弥のクラス、一年五組でも既にグループがあり、休み時間もワイワイ喋るような雰囲気があった。

 それは放課後も同様。校時がすべて終了すると、どこに遊び行くかなどといった声が飛び交う。部活も始まり、本格的に高校生活が始まるのが、入学から二週間ほど経ったこの時期なのである。


「希璃弥、行こうぜ」


 帰りのホームルームが終わって、放課後となる。希璃弥たちは、申請も通ってもう生徒会の役員だから、毎日放課後は生徒会室に行く習慣がついた。

 と、いっているが、毎日毎日仕事をしているわけではない。もちろん仕事がある日もあるが、それ以外は生徒会室に集まって団欒の時を過ごす日々が続いていた。

 あの日以来、あやめは生徒会どころか、学校にも顔を出していない。だが普通に元気で、電話をすれば出るし、メッセージアプリでのやり取りも続いている。週一回の生徒会会議には、ビデオ通話で参加をしている。ただ、学校に来るのに少しだけ抵抗はあるらしい。

 今日も同じように、晴輝は希璃弥に声をかける。


「あぁ。でも今日は黒板やってから行くよ。先行っててくれ」


 神ヶ崎高校では、帰りのホームルームの後に掃除が行われる。希璃弥はその時間に黒板を消す係になっていたのだ。


「分かった。生徒会室で待ってるからな」

「頼む」


 そう言うと、晴輝は教室を出て、生徒会室へと向かった。


「さて、やるかー」


 希璃弥はいつものように黒板を消していく。黒板は縦に消すより、横向きに消していった方がよく消えるのだ。

 それが終わると、日付、日直の欄を書き直す作業に移る。


「明日の日直は……お、晴輝じゃんか」


 そんなことを言いながら希璃弥は、黒板の日直の欄に、音喜多と表記する。


「よし、終わり」


 希璃弥はチョークを置いて、黒板消しを並べていく。

 すると突然、誰もいなかった教室に、女子生徒が戻ってくる。乱暴にドアを開け、入ってきた彼女は希璃弥を見るなり近寄ってきた。


「あれ? 新川くん、まだ残ってたんだ」


 明るい栗色をした髪を左サイドで結び、パチっとした可愛げのある瞳、白い頬。紺青色のブレザーはシワひとつなく、リボンひとつをとっても丁寧に結ばれている。この二週間で彼女は大体の人と仲良くなり、今やクラスのムードメーカー的な存在になっている。


「あぁ、えっと、羽澄さん……だっけ?」

「そ。あたしは羽澄紫里(はすみゆかり)! 羽澄って呼んで」

「俺は新川。ちょうど今から生徒会室に行こうとしてた」


 今のところクラスで一番知名度がある彼女だが、何気に希璃弥は二人で話すのは初めてだ。


「生徒会室ねー。なぁんだ、あたしの仲間かと思ったのにー!」


 ベーっと舌を出して、笑いかけてくる。


「仲間?」

「ほら、あたし帰宅部でしょ? だから、一緒に学校に残って喋ったりできる人を探してるの」


 羽澄さん帰宅部だったんだー。と、心の中で思いつつ、希璃弥は鞄を背負う。


「なるほどね。じゃ、俺は行くから仲間探し頑張れよ」


 教室を出ようとする希璃弥の手首を、紫里がガシッと掴んですがる。


「行かないでよぉ。あたしと新川くんの仲でしょー!」

「ただのクラスメイトだろ……」

「わーん。新川くんにフラれたー!」


 両目を手で覆い隠して、泣いたフリをする紫里。が、すぐに希璃弥の方に向き直る。


「じゃ、他の彼氏探してくる。バイバイ」

「切り替え早いな!! つか、いつの間に彼氏になってたんだ俺は」

「さっき!」


 何事もなかったかのように紫里は答える。

 天真爛漫という言葉とは、まさにこの子のためにあるんだな。なんて紫里を見ながら希璃弥は思う。


「はぁ。しゃーないな。今日だけ生徒会室来るか?」

「え? でも、生徒会室って生徒会役員じゃないと入れないんじゃないの?」

「そんなことはない。確かに生徒会室って聞こえは固いけど、一般生徒だとしても来れば、クッキーだってあるし、お茶だって出る。ただ周知されてないだけ」

「でも、会議とか邪魔になったり……」

「あー。会議は一週間に一回しかやらないし、仕事もない時はみんなでトークしてるだけだよ」

「え、生徒会って……」

「まぁ、実態はこんなもんだよ」


 とは言いつつも、希璃弥も実際には驚きを隠せていない。生徒会とはもう少し固い雰囲気だと思っていたからだ。


「じゃあ、行ってもいい?」

「多分な。一応晴輝に電話するから」


 希璃弥は教室を出て、晴輝に電話をかける。

 コール音がなり、晴輝はすぐに出た。


『どうした? 白雪さんも待ってるぞー』

「なぁ晴輝、羽澄さん分かるか?」

『はす……あぁ、あのテンション高いサイドテールの人か。分かる分かる』

「テンション高いサイドテールの人って……今日今からその人連れてっていいか?」

『俺は構わないけど、なんで?』

「なんか、絡まれてな。居場所もないみたいだし」

『分かった。白雪さんにも言っとくよ』

「あぁ、助かる。じゃ今から行くな」

『はいよー』


 晴輝との電話を切った希璃弥は、教室に戻ってくる。


「じゃ行くかー」

「うん!」


 この学校の生徒会室は、ホームルーム教室が並ぶ校舎とは別の校舎にある。そんな生徒会室は、誰でも入れるのだ。夏休みのような長期休暇などは完全に施錠される(生徒会役員のみ入室可能)が、それ以外なら職員室前に鍵があるので、鍵さえ取れば誰でも入ることが出来るというわけだ。

 だが、そこまで訪ねてくる人は少ない。現在の生徒会室においては、希璃弥たちの団欒場所と化しているくらいだ。


「着いたぞ」


 生徒会室と書かれた看板を見て、紫里が感嘆の声を漏らす。


「ここが生徒会室……」


 希璃弥はそんな紫里を横目に、生徒会室のドアを開ける。


「来たぞー」

「お邪魔します」


 奥からかぐらと晴輝が出てくる。


「その子が?」

「あぁ、羽澄紫里。俺と晴輝のクラスメイト」

「羽澄紫里です! 新川くんの彼氏です。よろしくお願いします」


 紫里が頭を下げる。


「その設定まだ生きてたのかよ。誤解を招くからやめてくれ」


 希璃弥は少し焦って、紫里の発言に訂正を入れる。が、当の本人はかぐらたちの方へと興味が向いたようだ。


「そっちの人は?」


 希璃弥に聞いてくる。希璃弥が答える前に、かぐらが口を開いた。


「白雪かぐら。一年七組です」

「白雪さん! よろしく。こっちは音喜多くんだよね。よろしく」


 紫里はかぐらの手を握って挨拶を交わした後、晴輝の方にも顔を向けた。


「まぁ、俺は紹介いらないよな。よろしく」


 と、こんな感じで、個々の紹介が済み、一同は生徒会室の内部へと入っていった。

 

(コミュ力高けぇな……羽澄さん。そりゃ入学二週間で、クラスの人気者にもなるわな)


 希璃弥は紫里にそんな感じの第一印象を抱いていた。



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