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解決と青春

「きゃあ!」


 かぐらの悲鳴がビル内に響く。


「!? 白雪っ!」


 希璃弥が今までいた階段を見返すと、かぐらの首にナイフが突き立てられていた。その男は、おそらく敵グループのリーダーであろう。


「こいつは白雪あやめの妹らしいな。こいつの首が飛びたくなかったら、白雪あやめを大人しく差し出せ」

「かぐらっ!」


 あやめが叫んで、走り出そうとするが、ノースがそれを止める。


「待てあやめ」

「離してよ! かぐらが」


 あやめは必死にノースの手を振りほどこうとしたが、力の差を感じて唇をかみしめて動きを止めた。


「おい、お前らの目的はなんだ? あやめをどうする気なんだ!」

「そこまで、お前が知る必要はない」

「いや、ある。大切な彼女のことだからな」


 ノースがあやめより一歩前に出る。

 ビル内には、張り詰めた空気が漂い、そこにいる人たちは緊迫した表情を守っている。


「それは、白雪あやめをこっちに寄越してから話してやるよ。さぁ、渡すか渡さないか、どっちなんだ!」


 男の声がだんだん荒ぶってくる。


「あやめ逃げ……」


 ノースはあやめをこの場から逃がそうとしたが、ノースの手を振り解いて、あやめが前に出る。


「私はどうなってもいいっ。だから、かぐらを……妹を離してっ!」


 あやめが叫んで、敵グループの方へと歩き始める。


「そうだ。それでいい」


 そう言って男は、かぐらに突き立てていたナイフをおろす。


「あ、そうだ。注意しなきゃいけない子はまだいるよ」


 急にノースがそんなことを口走った。


「は?」

「だから、もうお前は脅威でも何でもないって言ったんだ」


 その瞬間、後ろにいた晴輝が金属バットくらいの長さのプラスチックパイプを振って、男のナイフを弾く。動揺した男の手からかぐらが離れた瞬間、上から階段を降りてきた希璃弥がかぐらの手を引っ張り、そのまま階段を駆け降りる。


「なっ……お前、どこから」


 かぐらを捕らえていた男は、希璃弥がなぜ二階から姿を見せたのか理解できずに、キョロキョロと周りを見渡している。


「このビル、裏口を出たところに非常階段があるんだよ。一旦外に出て、そこから二階に上がっただけ。さっき非常階段があるのを見てたからね」


 希璃弥は得意げに話す。晴輝はうろたえる男の両手に手錠をかけ、辺りを見回す。


「リーダーを確保した。まだ暁月に歯向かう意思のある奴はいるか?」


 辺りがしんと静まりかえる。微かにパトカーのサイレンの音が、近づいてくるように聞こえた。


「じゃあ、これは暁月の勝利だな。ほら、お前らの迎えが来ているぞ」



 ──こうして、後の処理は警察に任せ、希璃弥とかぐら、晴輝にノース、あやめはビルから少し離れた小さな公園へとやって来ていた。


「じゃあ、お姉ちゃんと高輝さんは付き合ってないってこと?」


 かぐらがあやめに聞く。


「そうだよ」

「付き合ってないし、なんなら初対面だ。今日初めて会った」


 ノースこと、音喜多高輝(おときたこうき)もそれに便乗する。

 ノースというのは異名で、音喜多高輝というのが本名だ。暁月というグループを立ち上げた五人のうちの一人で、他の四人がグループを離れた今、暁月のトップを担っている。ノースという異名は、グループ結成初期の頃に、他のメンバーに名前を教えたくなかったため、自分でおときたのきたの部分を英語に直し、ノースと名乗ったのが始まりだ。以後、暁月が名を挙げるとともに、暁月のノースとして有名になっていったというらしい。


「彼女が、誰に聞いたかは知らないけど、僕のところに来たんだよ。狙われてるから助けてほしいって」


 高輝がブランコに腰掛けながら苦笑いする。


「でも、なんで彼女って?」


 晴輝はそこがずっと引っかかっていた。高輝の性格上、恋人を作ることは絶対にないはず。


「あぁ、そう言った方が雰囲気出るし、あいつらのやる気も上がるだろ?」


 確かに、あやめを守るぞって勢いはあったよな。と、晴輝は変に納得していた。


「そういうことね。会長はなんか言ったんですか?」

「私は、特に何も。でも、高輝くんがそうした方がいいって」

「良かった。お姉ちゃんが彼氏なんて作るわけないもんね」


 かぐらは安心しきったような顔をしている。

 さっきまで死にそうな顔してたくせに。と、希璃弥は内心ツッコミながらも、あやめの無事に安堵していた。


「そういえば、なんで晴輝は顔なじみだったんだ? あの態度はただの知り合いって域超えてるだろ」

「まぁ、一時期リーダーやってたしね」

「はぁ!?」

「僕が仕事の時とかに、晴輝を置いてたら、いつの間にか統率しちゃっててね……」


 高輝が苦笑いしながら話す。


「だから、中学時代は暁月に出入りすることが多かったんだよ」


 晴輝は下を向いて、恥ずかしそうに言いきった。


「まぁ、あやめ先輩が無事で良かったですよ」

「希璃弥くんもありがとう。あ、血は大丈夫?」

「はい。さっき高輝さんが消毒してくれました」

「そう。みんなありがとう」


 あやめが助かった。はずなのに、かぐらはどこか浮かない顔をしているし、希璃弥と晴輝も納得のいかない表情をしていた。


「どうしたの? みんな表情が暗くない?」


 あやめが心配する。少し沈黙があったが、かぐらが口を開いた。


「お姉ちゃん……会長してるの、辛くない?」


 かぐらはずっと、晴輝の言葉を気にかけていたのだ。

 でも、あやめは少し笑って返答する。


「変なこと聞くのね。会長の仕事は大変な時もあるけど、やってて楽しいよ。今は希璃弥くんたちもいるしね」


 今まで下を向いていた希璃弥が、顔を上げて晴輝にアイコンタクトを送る。


「今なら、いいんじゃないか?」


 小声で返してくる晴輝を確認して、希璃弥はあやめの顔をのぞき込む。


「あやめ先輩……もう、作り笑顔やめてください」

「希璃弥くん? 何を言って……」

「もう、一人じゃないんです。僕だって、晴輝だって、白雪だっているんです。もう、自分に正直になってみても、いいんじゃないですか?」

「どういうこと?」


 唐突の希璃弥の言葉に、あやめは理解が追い付かない。


「ちょっと気になったんで、知り合いの先輩に頼んで調べてもらったんですよ。会長……選挙に無理矢理出されてますよね。生徒会が校則を決めれるこの高校だからこそ、校則を変えたいが、会長にはなりたくない。大方そんな人たちに利用されたってとこですか」


 入学二日目で、よくそんな情報にたどり着けるな。と希璃弥は感心しつつ、晴輝からもらった情報を続ける。


「でもあやめ先輩は言われる通りにせずに、政策を進めた。けどそれが原因で、変な噂を流され、先生からも他の生徒からも信頼を無くした。学校でのあやめ先輩の居場所は……」


 この事実をかぐらの目の前で言うのには、抵抗大ありの二人だった。だが、真実は真実。ぶつけておいた方が良いと、晴輝が決断したことだ。


(だからこそ、すべて暴く。こんな陰湿なことを放っておける訳がない)


 晴輝が続ける。


「副会長やってた先輩が転校したのは、この事実を知ってしまったからです。いや、正確には転校させられたんでしょうね」

「生徒会が校則を決める……っていうこの学校の伝統が、あやめ先輩を追い込む一番の原因になったんです。でも、それを……あやめ先輩は一人で……」


 希璃弥の声も震える。だが、それ以上に、あやめの声は震えていた。


「あはは。知っちゃったんだ学校のこと。入学二日目でここまで辿り着けるなんて、君たち名探偵になれるよ」


 あやめの頬に、一筋の涙が流れ落ちる。


「お姉ちゃん……」

「ごめんね。かぐらにだけは、心配かけたくなくて」


 涙を拭うあやめを、かぐらがそっと抱きしめた。


「かぐら?」

「お姉ちゃんは充分過ぎるほど頑張ったよ。もう休んでもいいんだよ」


 かぐらも涙じみた声を出す。


「うん……うんありがとう……」


 あやめは生徒会にくる仕事をすべて一人で対応していた。こうなるのも無理はない。


「白雪、先輩を家まで送っていってやれ」

「へ?」

「こっからは、姉妹で過ごす方がいいだろう。俺と晴輝はその辺でご飯食って帰るから」

「うん。その方がいい」


 希璃弥の意見に、晴輝も賛同する。


「分かりました。ありがとう音喜多さん」


 かぐらは立ち上がって、あやめの手を取る。


「希璃弥くんも晴輝くんもありがとう。あと、高輝くん……最高の彼氏だったよ」


 あやめは少し微笑んで、立ち上がる。


「じゃ、俺たちはここで」


 希璃弥と、晴輝、高輝は公園を出ようと歩き出す。三人が公園を出ようとしたタイミングでかぐらは気付かれないように、入り口に向かって歩き出す。

 もちろん、三人は気づかずに公園を出て、向こうのほうへと歩いていっていた。かぐらは、公園の入り口のところまで来ると、希璃弥たちの後ろ姿を静かに眺めた。



「……ありがと。新川くん……」


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