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暁月と青春

「私が、今朝……」


 かぐらは今朝言った情報で、あやめが狙われたと思っている。その表情は今にも死にそうな人のそれだった。


「白雪……大丈夫だ。あやめ先輩は絶対大丈夫だから」


 希璃弥はかぐらを励まそうと声をかけたが、今の彼女には逆効果だったようだ。


「あなたに何が分かるんですか! 何の保障もないのに、軽々しく絶対大丈夫なんて言わないで下さい!」


 彼女の目には涙が光っていた。それは、今朝の無情なかぐらではなく、感情のままの表情だった。


「……悪い。俺は」

「二人ともストップ」


 晴輝が希璃弥の話を遮って、立ち止まる。目の前には、錆びれた廃ビルが建っていた。三階の窓には内側から、『暁月(あかつき)』という文字を書いた紙が貼り付けてある。


「ここはやばい……」


 晴輝が唾を呑んで後退りする。


「なにがやばいんだ?」

「暁月って聞いたことないか? この辺りの不良グループたちのトップに君臨する巨大な組織で、盾ついたものは、女子供関係なくその日の夜に消される」

「やけに詳しいな」

「この街に住んでるんなら、暁月の名前くらい聞くことあるだろ」

「あはは……」


 いやーこの街に転生してきたんで、何も知らないですね。なんて言えるはずもなく、希璃弥は笑って誤魔化した。


「入るぞ」


 晴輝は廃ビルの入り口らしきドアの取手に手をかける。


「おいばか、なにして」

「大丈夫。知り合いを呼んであるから」


 そう言って晴輝は廃ビルに入る。希璃弥とかぐらも恐る恐るその後をついていく。

 廃ビルの中はひんやりとしていて、殺風景が広がっていた。以前は何かの事務所だったのだろうか。古びたデスクが無造作に何個か置いてあった。

 晴輝たちは、階段を上って上の階へと進んでいく。カンカンという階段を上る金属音だけが、ビル内へと響き渡る。


「誰だっ!」


 そのとき、階段の上から荒ぶった声が飛んできた。見ると、上の階にナイフを持った男が三人、こちらを見下ろしていた。今にも斬りかかってきそうな目つきをしている。


「手を挙げろ」


 見ると、階段の下にも男が立っている。完全なる挟み撃ちにあっていた。


「おい、どうするよこれ」


 希璃弥は小声で晴輝に囁く。晴輝は「静かにしてろ」と言わんばかりに、人差し指を立てる。


「ノースさんに会いにきた。俺たちは敵対組織の者じゃない」


 晴輝は堂々と言い放った。もちろんそれに反応して、男が聞き返してくる。


「お前は誰だ。名乗れ」

「音喜多……といえば分かるだろ」

「お前みたいなやつが、音喜多の名を使うんじゃねぇ!」


 急に男がナイフを振り上げて、階段を降りてくる。


「希璃弥退がれ。白雪さんを後ろに!」


 晴輝はそう言うと、男をひょいとかわす。


「このっ!」


 男が振り向いて、ナイフを晴輝に突き立てようとするが、晴輝がそれより早く男の手首を掴んでいた。


「音喜多晴輝と言っても、分からないか?」


 晴輝が前髪を上げて、上の階の男に問いかける。その面影で気づいたのか、男の声が大人しくなった。


「あ……晴輝さんでいらっしゃいましたか。これは本当に失礼しました。上へどうぞ」


 急に男たちの反応が下手になる。


「うん」


 晴輝は階段を昇り始める。希璃弥とかぐらは、戸惑いと驚きを隠せないまま、晴輝に続いて階段を昇る。そのまま三人は、上の階の部屋に通される。


「すみません。ノースさんは今外出中でして……」

「あぁ知っているよ。ここで待たせてもらおう」


 晴輝は用意された椅子に座る。


「おい、晴輝。これはどういうことなんだよ?」


 状況が全く掴めない希璃弥とかぐらは、晴輝の言動に違和感しか抱かなかった。


「ここの組織のトップが、俺の兄なんだよ」

「はぁぁ?」


 晴輝はたまにとんでもないことをサラッと言う。これには流石の希璃弥も言葉を失った。


「じゃあ、あやめ先輩は」

「あぁ、それは大丈夫。彼女は兄が守ってるはずだから」

「音喜多さん。それはどういうことですか?」


 まるで返答次第では生きて返さないと言っているかのように、かぐらは晴輝を睨む。


「会長が本当に狙われていたからだよ」

「え?」

「誰かは知らないが、どこかの不良グループと組んで、会長を殺そうとしてた奴がいたんだよ。もちろん神ヶ崎の生徒がね」

「嘘……そんな」

「殺すっていうのは、言い過ぎかもしれないけど、怪我くらいはおわせるつもりだったらしいね」

「なんで……そんなこと知って」

「生徒会の政策に反対勢力がいるらしいんだ。今朝たまたま一緒に登校した先輩たちが話してくれた。会長のもともとの支持率も低かったらしいし」

「……」


 希璃弥とかぐらは、晴輝の説明を淡々と聞くことしかできなかった。


「でもそいつらは、自分の手を汚さずに会長を引きずり下ろそうとした。だったら、不良グループの抗争に巻き込まれて負傷しましたって筋書きにすれば、奴らにとって全てがいい感じに解決できる」

「……なんでそんな」

「白雪さんは知らなかったのか? 会長が学校で孤立してること」

「……え」


 かぐらは今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 白雪かぐらという人間。プレッシャーにとても弱く、さらにちょっとしたことで心が折れるほどで、メンタルが豆腐以下なのである。


「おい晴輝、喋りすぎだ。こいつのメンタルも考えろ」

「え、あ、悪い。言い過ぎた」


 晴輝はかぐらの顔色を見て誤った。そのとき──

 ガシャァンと大きな音を立てて、窓ガラスが飛び散った。それと同時に、室内に何かが転がってくる。どうやらこれを投げて、窓ガラスを割ったらしい。だが、それは。


「煙幕弾だ。みんな部屋を出ろ!!」


 その場にいた一人が叫ぶ。希璃弥とかぐら、晴輝、その場にいたグループの人も、全員が怒涛のように部屋から流れ出る。そのまま階段を降って、一階に避難しようとする。しかし、階段の下、つまり一階には既に敵対グループの姿があった。

 希璃弥たちは、階段上に取り残されることを余儀なくされる。


「奇襲か。お前ら落ち着け。下手に騒ぐな」


 リーダーらしき人が宥める。

 この状況で希璃弥たちは、何もできないまま突っ立っているしかなかった。


「白雪あやめを出せ」


 一階にいる人たちの中の一人が叫ぶ。すると、誰が予想しただろうか、外につながる裏口のドアを開けて、あやめと背の高い男がビル内に入ってきた。


「動くな。お前は誰だ!」


 ナイフを持って、二人に近づく。しかし。


「僕はこの暁月のリーダー、ノースなんだけど? それに、あやめは僕の彼女だけど、何か?」


 落ち着いた、でも威厳のある冷ややかな声がビル内に響く。


「誰?」


 かぐらが警戒心をマックスにして晴輝に問う。


「俺の兄だよ。心配しなくていい。会長と恋人なのは初耳だけどな」


 晴輝は優しい声でそう囁く。


「お前は……暁月のノース。なんで、アメリカに行ってたんじゃ」


 ナイフを持っていた男が声を震わせて、一歩ずつ退いていく。


「昨日、帰国したんだ。今日、ここに顔を出そうとしていたら、あやめが来たんでね」

「ノースさん、やっちゃっていいっすか?」


 希璃弥の後ろで声がする。


「あぁ、構わない。彼女の脅威は全て根絶やしにする。それが僕のやり方なんでね」

「そう来なくっちゃ」


 階段にいた男たちが一階に降りて、乱戦が巻き起こった。

 階段に取り残された希璃弥とかぐら、晴輝は何をしていいのか分からなかった。


「リーダーの彼女さんをお守りしろっ!」

「暁月に盾突く怖さを思い知れっ!」


 などと叫びながら、暁月のメンバーたちが敵グループを圧倒していく。だが、相手も馬鹿ではない。相手の狙いはあやめただ一人。猛攻の間を縫って、あやめに近づこうとする。だがそのほとんどは、横にいるノースによってバタバタと倒されてしまう。

 しかし、ノースは普通の人間。複数人を同時に相手をすることはできず、あやめの側を離れてしまう時がきた。相手はもちろんそれを見逃さない。


「貰った!」


 あやめに斬りかかろうとしその瞬間──


「先輩!」


 希璃弥が動いていた。間一髪のところであやめを押し倒すが、希璃弥の腕にピッとナイフがかする。


「希璃弥くん?」


 あやめの視点からは、希璃弥たちが見えていなかったらしい。何故ここに希璃弥がいるのか分からないような、困惑した表情を浮かべる。が、すぐに希璃弥の腕から血が垂れていることに気が付いた。


「希璃弥くん、血が」

「大丈夫。かすり傷ですよ」

「よくやった」


 そんな声と共に、戻ってきたノースが目の前の男に蹴りを放つ。希璃弥は起き上がって、あやめに手を差し出す。あやめも、希璃弥の手を取って起き上がる。その様子を見届けてから、ノースが希璃弥に確認の言葉をかける。


「無事か?」

「はい。これくらいの傷ならすぐに治ります」

「そうか。あやめも大丈夫か?」

「うん。大丈夫。ありがとう」


 これで、あやめのピンチは乗り越えた。

 だが、この戦場で守るべき人はあやめだけではなかった。


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