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青春の行方は

 希璃弥たちのマンションから川沿いに進んだ先には密集住宅街があり、そこを抜けると、雑居ビルが立ち並ぶ細い道に出る。ここは、この辺りでも有名な無法地帯と呼べる場所で、とある界隈の人たちが、毎晩人目もくれず騒いでいる。この街で一番治安の悪い道だ。

 学校には、市道を通っていく方が安全なのだが、希璃弥たちのマンションからの道だと、市道に出るためにここを通らなければいけないのだ。


「あぁ? 誰が帰っていいなんて言ったよ」


 その道にいきなり怒声が響き渡る。声に釣られて希璃弥とかぐらは、路地裏をのぞき込む。そこには、一人の少女を複数人の男が囲う、そんな姿があった。


「ったく典型的なことを……」


 よく見れば両方とも中学生だろう。希璃弥は割って入ろうとしたが、かぐらの手が止めた。


「なにするんだよ」

「あれはこの辺りでも人目置かれている不良グループ。関わらない方が身のため……」

「おい、なに見てンだよ」


 少女を囲っていた男のうち一人が、こちらを振り向く。危険を感じたが、もう遅い。希璃弥とかぐらは完全に包囲されていた。

 全員で八人。学校の制服の上に、黒い羽織を羽織っている。


「人の領地で勝手にコソコソされちゃ困るんだよ。お前らもまとめて」

「おい、ちょっと待て。こいつらの制服、神ヶ崎じゃねぇか!」


 包囲している男たちのうち、一人が叫んだ。その言葉に他が反応して、さらに距離を詰めてくる。


「おい、お前ら……この質問に答えたら解放してやる。ただし、嘘をついたら、今すぐここで病院送りにしてやるからな」


 このグループのリーダーであろう男が、希璃弥たちの前に出てくる。


「……白雪あやめについて、知っていることをすべて話せ」

「!?」


 突然あやめの名前が出てきて、動揺を隠せなかった希璃弥とかぐらだが、すぐに答えてはいけない質問だと察知した。


「…………」


 二人はしばらく沈黙していた。だが、一分もしないうちにしびれを切らして男が催促してきた。


「何か言えよ。まさか知りませんとか言うんじゃねぇだろうな?」

「…………」


 二人は、まだ沈黙を貫く。


「何か言えやコラァ!」


 だんだん男の声が粗ぶってくる。流石にもう無理だと思ったかぐらは、希璃弥に小声で話しかけた。


「私が時間を稼ぐので、その隙になんとか逃げ道を見つけてください」

「へ?」


 かぐらは、今いた場所から一歩男たちに近づいた。かぐらの髪がサラサラとなびいて、瞳が隠れる。一瞬下を見たかと思うと、ふっと顔を再び上げ、前髪の間から瞳が見えるようになった。そして、希璃弥と初めて話したときのような冷淡な声で話し始めた。


「……白雪あやめ。ええ、知っていますよ。うちの学校の生徒会長ですから」


 その口調、そして話し方に、希璃弥の背筋が冷たくなった。かぐらの瞳から生気が消え、淡々と喋る彼女の表情は、まさに無。感情を失ったと言えるその表情と喋り方は、まるでAIを彷彿とさせる。


「容姿端麗で、身体能力は抜群。だけど学力は中の下。生徒会長としての振る舞いは完璧に近く、十人の生徒会メンバーを卒なくまとめ、生徒、教師ともに信頼も厚い」


 今 ならいけそうだ。希璃弥は、かぐらが淡々と話している間に、突破口を見つけていた。

 今、男たちはかぐらの話に夢中になっている。つまり、かぐらが向いている方と反対の警備が薄くなっている。


「白雪走れっ」


 希璃弥はかぐらの手を取って、走り出した。かぐらは一瞬戸惑うような顔を見せたが、すぐに希璃弥の手を振り払って走り出した。


「おい、待て!」


 男たちが追いかけてくるが、もう遅い。暗い路地裏を抜けた先は、朝日に照らされた明るい市道だった。

 希璃弥は、走りながらかぐらに問う。


「なんであんなにぬけぬけと嘘を?」

「奴らは、おそらくお姉ちゃんを狙っています。理由は分かりませんが。なら、欲しい情報は外見や特徴です。あんな情報撒いたところで、特に問題ありませんよ」

「でもあんな嘘、あやめ先輩を知っている人がいれば、バレないか?」

「なら、わざわざ私たちに言わせることはないでしょう」

「でもそれが相手の意図だったら? 今向こうで嘘がバレていたら?」

 

 希璃弥は妙な胸騒ぎがしていた。


「考えすぎです。……バレない嘘をつくには、十パーセントの真実を混ぜることが大切なんですよ」


 かぐらはそう言って立ち止まった。


「ここまで来れば、もう追ってはこないでしょう」


 かぐらは前を向いて、再び歩き出した。その少し後ろを、希璃弥は考え込みながら、ついていく。

 かぐらが言った白雪あやめは、実際とは似ても似つかない人物だった。容姿端麗であることは認めよう。勉強もそんなに出来ないと言っていた。だが、生徒会メンバーは十人もいないし、生徒や教師からの、信頼や期待も薄い。おまけにそこまで運動が出来るわけでもない。

 現生徒会が、深刻な人手不足に陥っているのも、あやめが会長をやっているからだという意見もあるらしい。


「あやめ先輩は、いい人なのに」


 希璃弥はかぐらに聞こえないように、小さくそう呟いた。


 今日もホームルーム、そして講演会があり、希璃弥たち新入生は、延々と長い話を聞かされた。

 そして放課後。

 希璃弥と晴輝、そしてかぐらは言われていた通り、生徒会室に向かっていた。


「そういえば希璃弥って、中学の時部活とかやってたのか?」


 廊下の壁に貼ってある、『新入部員大募集』なんて書かれたポスターを見て、晴輝が希璃弥に質問を投げる。


「中学か、一応野球部にいたよ」

「一応ってなんだよ」

「幽霊部員ってこと」


 希璃弥は、そこまで運動が嫌いという質ではない。中学一年生の頃は、部活にも顔を出していたし、レギュラーとして活躍していた時もある。だが、とある事件以来、部活に興味が無くなり、一切部活に顔を出すことも無くなった。退部届を提出するのが面倒で、そのままにしていたら幽霊部員になっていたのだ。


「白雪さんは?」


 晴輝はかぐらにも聞く。晴輝は二人の仲を察して、希璃弥とかぐらの間に入っている。


「……私は、部活やったことないです。中学の頃は勉強漬けの日々でしたから」


 かぐらは、いつも通り淡白な声で返す。かぐらのいた中学は、先川中学校といって、全国でも五本指に入る超エリート校である。そんな学校にいれば、自然と勉強漬けになるということは言うまでもない。


「そういう晴輝はどうなんだよ?」

「あー俺のことは聞かんでくれ」

「おい言い出しっぺ」

「言い出しっぺでも、言いたくないことはあるんだよー」


 半ば棒読みな感じで、晴輝はふいと横を向く。


「でも音喜多さんって、成績いいですよね」


 かぐらが晴輝の顔を見つめる。


「あれ、話したことあったっけ?」

「昨日お姉ちゃんと話してたじゃないですか」

「あーそゆこと。まぁいい方ではあるとは思うが」

「どれくらいなんだよ」

「オール五」

「完璧じゃねーか!」


 そんなやり取りをしている間に、希璃弥たちは生徒会室の前まで来ていた。


「失礼します」


 希璃弥を先頭に、三人は生徒会室に入るが、誰もいない。


「あれ、あやめ先輩いるって言ってたのにな」


 希璃弥は、スマホを見て不思議に思う。すぐにメッセージアプリを開き、あやめにメッセージを送る。


「よし、これで来るだろう」


 希璃弥たちは椅子に腰かけて、あやめを待つことにした。だが、何分待っても、あやめどころか、紬生も姿を見せない。

 こうして三十分程が過ぎた。


「おかしいな」


 流石に三人とも、違和感を覚える。


「私、電話してみます」


 かぐらが席を立ち、廊下へと出る。しばらくしてかぐらが帰ってきたが、その様子は応答がなかったという感じだった。


「出ませんでした」

「だよなぁ。俺のメッセージも既読すらつかんし」


 あやめはスマホをあまり見ない人間ではなく、電話をすれば必ず出るし、割と返信も早い。だからこそ、かぐらは焦っている。そのとき、廊下の方からこちらに向かって走ってくる音が聞こえてきた。


「白雪かぐらさん、白雪かぐらさんはいるか!?」


 生徒会室のドアが乱暴に開けられ、二年生だと思われる男子生徒が、かぐらの名前を呼んだ。


「白雪は私ですが」


 目の前でスマホを持って立っていたかぐらが即座に答える。


「白雪あやめが不良グループのもとに!」

「えっ?」


 その男子生徒は話し始める。


「さっきまで、学校の前にいたんだけど、ランニングから戻ってくるといなくなってて」


 どうやら、あやめは不良グループに絡まれていた女の子を助けようと、自らグループのリーダーのもとへと行ったらしい。


「お姉ちゃん……」

「おい白雪、行くぞ」


 希璃弥は椅子から立ち上がって、振り返る。かぐらは少しきょとんとした顔を見せたが、すぐに立ち上がった。


「行きましょう」


 希璃弥、かぐら、そして晴輝は学校を飛び出し、不良グループの元へと走った。


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