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青春といじめ

「白雪のやつ……いざというと、どこにいるのか本当に分からねぇ……」


 とりあえず希璃弥はかぐらのクラスである、一年七組の教室まで行ってみることにした。五組と七組では、教室のある校舎が違うため、希璃弥は階段を駆け上がり、渡り廊下を突っ切る。

 七組の教室の前まで来た希璃弥は、教室の中を覗く。しかし、かぐらはおろか、誰一人として見つからず、がらんとした教室が広がっていた。


「そりゃそうか。いたらさっき気がついてるもんな……」


 希璃弥はトボトボと七組の教室の前を去った。


(じゃあ、どこにいる? この時間なら、まだ家に帰っている可能性は低い。図書館か?)


 希璃弥はいま来た廊下を戻り、図書館を目指した。

 カラカラカラ。

 図書館のドアを開けて、希璃弥は中に入る。カウンターを通り過ぎて、本棚の間を抜ける。

 あたかも本を探しているというふりをしながら、この図書館の中にかぐらがいないか、あたりを見回す。

 しかし、ここも三年生と思われる数人が静かに勉強しているだけであり、かぐらのような人は見つからなかった。


(んー。やっぱりここも違うか……)


 静かに図書館を出た希璃弥は、そのまま図書館の入り口においてあるベンチに腰を下ろした。


「さっきから羽澄とあやめ先輩には、何度も送ってるんだけどな……」


 希璃弥はスマホを見る。紫里とあやめのチャット欄は、希璃弥からのメッセージだけが表示された状態になっていた。


(調子乗って飛び出してきたけど……俺一人ではなにもできないのか……?)


 ふーっと息を吐いて、希璃弥はまた天井を見上げる。


(白雪の行きそうなところ……)


 希璃弥はかぐらと出会ってからの、かぐらの行動をもう一度考え直してみることにした。


(教室と図書館にいないってことは、学校に残っている可能性はほとんどないだろう。かと言ってこんな早い時間に家に帰っている可能性もない)


 かぐらは、なぜか放課後すぐに家には帰らない。生徒会室で放課後を過ごすことがほとんどであり、テスト期間でさえ図書館で勉強をしてから帰っていたほどである。


(ショッピングモール、いや人混み嫌いのあいつが一人で行くわけがない。そもそも駅前には行っていないはず。……となると)


 そのとき、希璃弥の頭の中に、一つの場所が浮かんだ。

 そこは、人混みもなく、学校からも近く、勉強もしやすくて、そしてなにより時間が潰せる。


「喫茶店『なつかぜ』だっ!」


 以前、希璃弥はかぐらと晴輝の三人で放課後に行ったことがあった喫茶店だ。学校から徒歩五分ほどに位置し、紫里のバイト先でもある。

 階段を駆け降り、昇降口で靴を履き替えた希璃弥は、いつも家に帰る方向とは反対の校門を出て、喫茶店『なつかぜ』に急いだ。

 ──カランカラン。

 喫茶店の扉を開けるとすぐに、かぐらは見つかった。


「いらっしゃいませー」


 店員の声を聞きながら、希璃弥はかぐらの座っている席へと足を進める。

 希璃弥に気づいたかぐらは、ふっと頭を上げ、顔をしかめる。


「ついにストーカーしましたか……」

「んなこと言ってる場合じゃねぇ。羽澄が……っ」


 スマホの電話番号画面を開いていたかぐらは、紫里の名前が出た途端、手を止めた。


「羽澄さんが、なんですって?」

「……いや、ちょっとな。様子がおかしくて」

「……あの、さっき聞こえたんですけど」


 かぐらは声を小さくして、囁やこうとする。


「どうした?」


 希璃弥も小声で聞き返す。


「ここって羽澄さんのバイト先ですよね?」

「ああ、そうだな」

「今日、バイトあるのに来るどころか……連絡もないみたいで……」


 紫里は毎週金曜日に、この店に来ている。今日が金曜日だってことは言うまでもないが、紫里はまだ店に姿を見せていない。


(嫌な予感がする……)


 希璃弥は背筋が冷たくなるように感じた。


「……新川くん?」


 急に無口になった希璃弥に、かぐらは自然と言葉がこぼれる。

 希璃弥は口をつむんだまま、思考を巡らせた。そして。


「…………。白雪、出るぞ!」


 希璃弥はかぐらの手首を掴んで、立つように促した。


「え……え? えっ?」


 かぐらは何もかもが突然すぎて、理解が追いついていない。しかし、希璃弥に手を引っ張られたまま、席を立ち、店から出る扉に向かう。


「店員さん、お金はテーブルに置いときました! 失礼します」


 扉の前をほうきで掃除していた店員に、希璃弥はそう声をかけると、かぐらの手を持ったまま、店の外に出た。


「ちょ、ちょっと! な、なにするんですか!」


 店の外に出て、かぐらは少しだけ正気に戻った。


「勝手に連れ出したことは悪い……。謝る。けど」


 希璃弥は顔を一旦伏せて、もう一度かぐらの方に顔を向けた。


「……羽澄はもう……戻ってこないつもりかもしれないっ……!」

「……どういうこと……ですか」


 かぐらはまた思考がぐるぐるになる。


「落ち着いて聞いてくれよ。俺がさっき聞いた光景を……」


 希璃弥は教室で起こっていたことを話し始めた。


「……今日もホームルーム後、羽澄に声をかけた。来ないのかって。でも、大丈夫だからって言い張るだけで、何も言ってはくれなかった」


 希璃弥は話しながら、胸の中でいろいろな感情が複雑に入り混じっていた。


「最後にはもう話しかけないでって、廊下の向こうに走って行って……」


 希璃弥は紫里から言われた言葉を、はっきりと思い出す。


「そのあと……用事があって五組に戻ったんだけど、クラスメイトが羽澄の悪口を話の種にして、談笑していた……」


 かぐらの表情もだんだんと曇ってくる。


「おそらく、悪口を言われてるだけじゃなくて、お金や暴力も加わっている可能性がある……」

「……それって、つまり……」

「…………いじめだ」


 かぐらの身体が崩れ落ちた。両手で顔を覆っている。


「…………なんで……そんな、こと…………」


 かぐらの声も震える。いや、もうとっくに震えていた。

「原因は、晴輝に近寄りすぎたってのらしい。いじめてる主犯が晴輝に好意を寄せている……」

「……なんで、そんな理由で、羽澄さんが……」

「……こんなまま、羽澄を苦しめたくない。だから、探そう、羽澄を。こんなときに立ち上がらなきゃ、なんのための生徒会副会長(おれたち)だよ」


 希璃弥は座り込んでいるかぐらに、手を伸ばす。


「…………えぇ」


 かぐらは希璃弥の手を取り、立ち上がる。その手で涙を拭いて、大きく深呼吸をする。


「行きましょう!」

「おう!」


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