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青春と起きていたこと。

 希璃弥と晴輝は校内の駐輪場まで来ていた。


「わざわざこっちまで来てくれなくてもよかったのに」


 神ヶ崎高校に駐輪場は一つしか存在しない。しかも、希璃弥がいつも通っている校門とはほぼ真反対に位置するので、希璃弥にとって駐輪場は学校生活の中で絶対といっていいほど行かない場所なのである。


「まぁこんな早い時間に帰ってもやることないしな」

「白雪さんもいないことだし、寂しいのか?」


 晴輝が自転車に鍵を刺しながら、希璃弥をからかう。


「冗談よせ。確かに今日は白雪見てないけど」

「ん? 朝いつも一緒に来てるんじゃないのか? 同じ家住んでんだろ?」

「まるで同棲してるかのような言い方やめろ。同じマンションだ。それに朝はバラバラに登校してる」


 希璃弥は晴輝の発言に訂正を入れる。


「そうなのか。まぁ学校には来てるだろうから、レッツ七組!」


 晴輝は親指を立てて笑い、自転車にまたがる。


「ここに来るとき七組の前通ったし、いなかったし」


 希璃弥は目を逸らす。


「まぁ、羽澄さんのことちゃんと決着つけろよ。生徒会室が静かになるのは嫌だからな。じゃあ」


 そう告げると、晴輝はペダルに力を入れた。


「おう。また来週な」


 希璃弥と別れの言葉を交わした晴輝は、自転車に乗って校門を通って走り去っていった。

 晴輝を見送った希璃弥は、帰ろうといつも帰っている校門の方へと足を向けた。


(あー。そういえば来週の月曜日って小テストだっけ?)


 来週の月曜日に、英語の小テストがあることを思い出した希璃弥は、教室に戻って英語の教科書を取りに行こうとした。


(せっかくさっき靴履き替えたのにな)


 昇降口で靴を履き替え、階段を昇ってホームルーム教室へと向かう。

 自分の教室の前まできた希璃弥は、教室の中からの声に気付き、そっと足を止めた。

 その声は、クラスメイトの女子数人の声だった。


(誰が残ってるんだ?)


 希璃弥は半開きになっている教室のドアに張り付き、バレないように中を覗いた。教室の中では、三人のクラスメイトが机を並べて座りながら雑談していた。すると運が良いのか、悪いのか、その雑談の内容が希璃弥の耳にも入ってきた。

 しかし、その内容は希璃弥の耳を疑うものだった。


「それでさーそんときの羽澄の顔がさー」

「ちょっと幸羅(ゆきら)ぁー! いつまでそのネタ引きずってんのよ」

「だって……だってっ……あんなに必死な顔でさ、許してくださいって。許すわけないでしょ」

「ほんっと性格どうにかしてるよアンタ。一回病院行った方がいいんじゃない?」

「病院行けってのは羽澄でしょ! 元はと言えばアレが全部悪いんだから」

「それはそう」


 キャハハハと高い声で笑いながら、三人はこの調子で喋り続けていた。


(なんだこれ……。羽澄?)


 希璃弥は息を殺して会話の続きを聞こうとする。


「生徒会だかなんだか知らないけど、あんなにくっつき回していい加減にしろよっての!」

「まー確かにあれは腹立つよねー。名前呼び捨てまでしてさ」

「アンタみたいなやつに晴輝くんを狙えるわけねーっつのによ!」


 どうやら、紫里が晴輝に恋愛感情を寄せていると思った彼女たちは、紫里を問い詰めていたようだ。


「今日は全然喋ってなかったしねー。やっぱこれが効いたんだろうね」


 三人のうちの一人が、他の二人にスマホの画面を見せる。画面を見た二人は笑い声を上げる。


「あはは、アンタ最高。それに、晴輝くんと一回会話することに一発だから。ね、新薔(わかば)?」

「任せなよ! もと空手部の私がいるんだから。前に一回やっただけでもうビクビクしててさ」

「見てるこっちが痛くなんだよ」


 そんな会話を続けながら、三人はずっと笑っていた。


(なんでもないって言ってるでしょ! もうあたしに話しかけないで!)


 走り去っていく紫里と紫里の声が、はっきりと希璃弥の脳裏に走った。


(なん……だよこれ……。ふざっ……けんな……っ!)


 希璃弥はドアに寄りかかって上を向いた。が、立っていられず、ズズーとドアに寄りかかったまま腰が落ちる。


(……っんでこんなこと……。羽澄も、晴輝も……お前らのものじゃねーだろうが)


 怒りと憎しみ、後悔の念が渦を巻いて、希璃弥の中を駆け巡る。

 また気づいてやれなかった。

 希璃弥の視線の先にある、廊下の蛍光灯がふにゃんとぼやける。いろいろな感情が入り混じる希璃弥の目は、少しばかり光るものがあった。


(……っ! これじゃ上向いた意味ないじゃねーか)


 そのあとも、しばらく希璃弥は天井を眺め続けていた。自分が今何をすべきなのか、何をしてあげるべきなのかを必死に考えていた。


(羽澄は、どうしてほしい? ……俺だったら、こんなときに何をしてほしい? 匿う、助言する、先生に伝える、親に伝える、相手をいじめ返す、身代わりになる……) 


 希璃弥は考え続けた。そして、ひとつの答えにたどり着いた。


(違うっ……。そうじゃない。こんなときは、味方だ。上っ面の協力者じゃない、本当に気持ちに寄り添ってやれる人材(やつ)が必要だ)


 希璃弥は決意した眼で立ち上がる。


(よし、そうと決まれば早く羽澄を探し出さないと)


 希璃弥は昇降口に向かって走り出した。


「っと、その前に白雪にも連絡を」


 希璃弥は走りながらポケットに入れていたスマホを取り出して、メッセージアプリを開く。が、開いて数秒、希璃弥はとんでもないことに気がついた。


「……ってか俺、白雪の連絡先知らねぇー!!」


 メッセージアプリの友達欄に、かぐらの名前がなかったのだ。それもそのはず、希璃弥とかぐらはクラスこそ違えども、家は同じマンション、放課後は生徒会室で会う。つまり、連絡先など交換する必要さえもなかったのだ。


「仕方ない。一旦あやめ先輩に連絡を」


 希璃弥はあやめとのチャット欄を開いて、かぐらに自分の連絡先を教えてほしいとメッセージを送った。

 しかし、待てど待てど返信はおろか既読さえもつかない。普段のあやめなら遅くとも五分後にはなんらかの反応があるのだが、もうかれこれ十五分ほど経っている。


「おかしいな」


 ふとチャット欄に目を落とすと、希璃弥はまた重大なことに気がついた。


「……今日あやめ先輩たち、校外学習行っててスマホ見れないんだったー」


 こうして、紫里の前にかぐらを探す旅が始まる希璃弥であった。

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