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財閥と青春


「……無駄です。恋鳥家の人間には……」


 かぐらは、つばめにも紫里にも聞こえないくらい小さな声で吐き捨てるようにつぶやいた。


「っ!? 白雪なんて……っ」


 そのつぶやきがギリギリ聞こえた希璃弥は、かぐらの言葉に反応する。


「新川くんは恋鳥財閥ってご存じですか」

「恋鳥……財閥……。知ってる。最近できた財閥で、西日本を中心に勢力を伸ばしてるって……」


 小声で問われた問いに、希璃弥も小声で答える。


「そうですね。日本五大財閥の一角である菊野財閥から最近独立して、新たに財閥を起こしたのが、あの恋鳥つばめの父、恋鳥柊なんです」


 菊野財閥。

 戦後間もない頃に作られ、今日まで現存し続けている財閥。総資産は一兆円を超え、日本五大財閥の一角として日本経済に影響を与えてきた。

 そんな菊野財閥の現在のトップが、菊野秀壱(きくのしゅういち)。江戸時代前期から続く菊野家の十三代目当主であり、父が作った菊野財閥を受け持った。

 しかし、菊野財閥が誕生する前から菊野家に仕えてきた家系が存在する。

 それが恋鳥家である。恋鳥家の現在の当主である恋鳥柊(ことりしゅう)である。

 そして、つい二年前、菊野財閥から独立を宣言し、恋鳥財閥を作った。独立と言っているが、その実態は菊野家と恋鳥家の対立が原因であり、言うなれば菊野財閥が二分裂したという方が正解に近いだろう。

 現在は菊野財閥と肩を並べるほど勢力を強めており、近いうちに総資産を追い抜くだろうと言われている。

 そんな恋鳥家の次女として生まれたのが、恋鳥つばめである。

 彼女はその名に相応しいほどの才女であり、有智高才で、ありとあらゆる分野において人一倍飛び抜けている。スポーツをやらせればダントツで活躍し、勉強をやらせれば九教科九百点満点中九百点をとり、料理をやらせれば和菓子洋菓子、中華料理におせち料理を作るなど、なんでもこなす。それでいて、努力家。

 お嬢様らしく気品のある振る舞いを見せ、冷淡な性格で、あまり人との関わりを好まない。


「……でもそれが彼女の態度となにか関係してるのか?」

「……恋鳥つばめが『女神様』って呼ばれてる理由ってわかりますか?」


 疑問を呈する希璃弥に、かぐらはわざとらしく質問をぶつけてみた。


「……うん? 単に容姿が女神みたいに美しいからってことじゃないのか」

「……それもあるんですけど、誰に対しても表情を変えず、笑うこともなく、他人行儀で接するので、人間を超越した存在であるって意味もあるんですよ」


 そんなことないと思うけどな。と一度女神にあったことのある希璃弥は心の中でツッコんだ。


「私に何かおありですか? ……白雪かぐらさん」


 気がつくと、希璃弥とかぐらの眼の前につばめが立っていた。


「あ……いえ、なにも…………」


 つばめの急接近に、かぐらのコミュ障スキルが発動した。

 なにも喋れなくなったかぐらの代わりに、希璃弥がつばめに質問を投げかける。


「あなたにとって、俺たちは何なんですか? さっきだって、羽澄が褒めたのにほとんどなにも返さずに……」


「私はあの回答が適切だと考えたので、ああやって言っただけです。それ以外にあなたたちと会話をする理由はなかったはずでしょう?」


 つばめは冷たく返す。


「それは……俺たちとは話す意味がないってことか?」


 希璃弥は初めてかぐらに会ったときを思い出しながら、つばめの話にのる。


「そうは言ってません。あの場面において、あれ以上の会話は必要ではなかったと言ってるのです」


 さっきより少し強い口調でつばめは言い放つ。


「きりやん言い過ぎだよ。あたしはそんなに気にしてないってば!」


 紫里が会話に入ってくる。


「そうか。悪かった。ちょっと気になったんで」

「私は恋鳥家の人間として、気品ある行動を心がけているだけです。私の行動をとやかく言うのは構いませんが、それについて話しかけられるとこちらも困ります。それでは」


 それだけを告げて、つばめは向かっていた方向に向かって歩いていった。

 つばめの姿が見えなくなってから、紫里が口を開いた。


「なんていうか……すごい人だったね……」

「あれが本物のお嬢様ってやつか。初めて会ったよ」


 晴輝もなんとも言えないような表情を浮かべる。


「じゃあ……帰ろっか……」

「だね」


 一同はその後、すごすごと生徒会室に引き上げていったのだった。

 


 しかし、最後までかぐらは何かを思い詰めたような表情をしていた──



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