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青春はテスト終わりから

「こんにちは」


 中間テストが終了し、はや一週間。久しぶりに生徒会の面々は、生徒会室に集まっていた。かぐらもそんな生徒会室に入ってくる。


「早いですね、二人とも」

「おう白雪。あれ、羽澄は一緒じゃないのか」

「羽澄さん? 見てないですけど」


 かぐらは鞄を下ろし、希璃弥と晴輝が座っているソファに座る。


「おかしいな。白雪と一緒に行くって言ってたのに」


 希璃弥は少し不穏な雰囲気を感じたが、入れ違いにでもなったんだろうと思って話を続けることにした。


「で、白雪。数学は何点だったんだ?」

「音喜多さんは、何点でした?」

「おい、話を逸らすな。晴輝の点数聞いてもさらに気分落とすだけだぞ」

「まぁまぁ。俺は満点だったよ」


 希璃弥をたしなめつつ、晴輝はかぐらに向かって満面の笑みを見せる。


「ぐは」


 数学の点数に絶望したのか、イケメンすぎる笑みにやられたのかは不明だが、かぐらはソファに倒れ込んだ。


「言わんこっちゃない。少しは教えてやったんだから、点数上がってるだろ?」

「……三十二点です」


 かぐらはソファから起き上がりつつ、小さな声でそう答える。


「前から二点しか上がってないじゃねぇか。まぁ上がったことは認めるけどさ」

「上がったんですよ!? 中学生の一学期から下がり続けていた私の数学の点数があがったんです」

「そうか。それは頑張ったんだな、白雪さん」

「音喜多さんはちゃんと分かってくれますー!」


 かぐらは涙目になりながら、晴輝の顔を見つめる。


「それに、他の教科の点数では、新川くんに負けてませんからね!」

「じゃあ、全教科の点数言ってみて」


 希璃弥は別に点数で競うつもりはない。もともと平均値を目指してテストを受けたため、しっかり勉強していたかぐらには余裕で負けているのだ。そのことも希璃弥は知っている。


「現国八十五点。地理八十八点、古典七十九点、化学七十一点、英語七十点、数学三十二点です」

「やっぱ数学だけなんよなぁ」


 希璃弥はかぐらに聞こえないように、そう小さくつぶやいた。

「私は言いましたので、二人の点数も教えてください」

「俺は英語が九十二点、地理が九十四点、古典が九十八点。それ以外は全部満点だ」


 先に晴輝が答える。

 流石だなと思いつつ、希璃弥も続ける。


「俺は、まぁ全部平均くらいだし、どの教科も六十点台後半かな」


 そんな会話をしているうちに、紫里が生徒会室に入ってきた。


「おっ疲れさまー! ねえねえ、職員室前にテストの学年内順位が張り出されてたよ! みんなで見に行こうよ」


 紫里は鞄をソファに置いてから、生徒会室のドアの方を指差す。


「え、順位なんか出るのか」 

「希璃弥知らなかったのか? テスト前先生が言ってたぞ」

「全く聞いてなかった。じゃあせっかくだしみんなで行くか」

「えぇ。そうしましょう」


 かぐらも賛同する。

 と、いうことで、希璃弥たち生徒会メンバーは、職員室前の掲示板までやってきた。


「へー。どの学年も学年百位までが張り出されるのか」

「まぁ、一位はもちろん、音喜多さんでしょうけどね」


 一年生と書かれた順位表を見つけると、一同は百位から順に目で追っていった。


「新川くん、八十四位じゃないですか。私より全然低いですね」

「じゃあお前は何位だよ?」

「私は四十八位ですね。五十位位内に入ってます」

「あーかぐらちゃん五十きったんだー。あたし五十六位だったのにー!」


 ドヤ顔をするかぐらに、紫里は悔しそうに言う。


「まぁでも、どっかのストーカーさんに比べれば高いですよ」


 かぐらは希璃弥の方をチラッと見る。


「え、きりやんストーカーしてるの?」

「うるさい。そんなシスコン女の言うこと信じるなよ羽澄」

「え、かぐらちゃんってシスコンだったの?」

「そんなわけないじゃないですか。新川くんの妄想ですよ」


 口争が激しくなると予感したかぐらは、早めに話を断ち切っておくことにした。

 そんな中、一同は一位の名前に目を向ける。


「あれ、晴輝二位?」


 そこには、一位ではなく、二位のところに音喜多晴輝という名前があった。


「一位は恋鳥つばめという方ですね」

「白雪、知ってるのか」

「…………。いえ、全く知りません」


 かぐらは数秒『恋鳥(ことり)つばめ』という名前を細めた目で睨んで、希璃弥の問いに答えた。


「そうか」


 腑に落ちない返事を希璃弥は返す。すると、その横で今まで黙っていた晴輝が口を開いた。


「恋鳥つばめといやぁ、あれじゃないか。確か女神様って呼ばれてる四組の」

「女神様?」


 聞いたことのない異名を耳にした希璃弥は、しばし固まった。


「あ、聞いたことある!」


 紫里は耳にしたことがあったようだ。


「成績優秀、スポーツ万能、しかもめっちゃ美人!」

「いるのかよそんな人」


 紫里の真実味のない解説に、希璃弥は首をかしげる。

 その瞬間、少し向こうでどよめきが起こる。


「あ、噂をすれば」


 紫里が指を指したその方向には、恋鳥つばめと思われる女子生徒がいた。その少女はゆっくりとこちらに向かって歩いてきている。

 その可愛さ、いや、美しさに希璃弥を始め、晴輝も紫里も、かぐらでさえも目を奪われていた。

 白銀色に輝くサラサラのストレートヘアに、くりっとした丸い瞳、透けるように綺麗な白い頬。その姿は誰から見ても美しく、女神様と呼ばれるのに相応しすぎる容姿であった。

 希璃弥の周りからは確かに『女神様』と呼ぶ声がちらほらと聞こえていた。

 女神様こと恋鳥つばめは、希璃弥たちの前を通り過ぎていった。

 そんなつばめに、紫里は話しかけた。


「あ、あの……一位、すごいですね」


 紫里の一言に、つばめは後ろを振り返った。


「そう言っていただけて光栄です。では」


 それだけを口走ると、くるっと向き直った。


「え、それだけ……?」


 紫里は心の中でつぶやいたつもりが、つい口に出してしまっていた。


「まだ、何か用がおありですか」


 振り向きもせずにつばめはそう告げた。


「あ、いえ……」


 この対応には、流石の紫里もたじろぐ。


「……無駄です。恋鳥家の人間には……」


 かぐらは、つばめにも紫里にも聞こえないくらい小さな声で吐き捨てるようにつぶやいた。

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