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シャーペンと青春

 カラカラカラ……。

 翌週。いつものように希璃弥は、黒板の仕事を終えて、生徒会室のドアを開け、中に入る。

 今日から五月に突入し、世の中はゴールデンウィークモードに染まっている最中だ。そんな日だが、登校する生徒たちはまるでモチベーションがない。

 そう、世間では一般的に四月二十九日になると『大型連休』や『ゴールデンウィーク』などと騒がれるが、そのほとんどは連休の中間に、普通の平日が入りがちだ。特に五月一日や二日は普通に休みではない。

 大型連休というが、その実態はほとんど二週連続の三、四連休というわけだ。

 今日がその連休の真ん中の登校日だってことは、言うまでもない。


「おーお疲れ様―!」


 まだ五月だと言うのに、エアコンがよく効いた生徒会室のソファで希璃弥を出迎えたのは、紫里だった。


「おうお疲れ。てか、羽澄はもう当たり前のように生徒会室にいるよな」


 希璃弥は鞄をロッカーに置き、教科書とノートを取り出して机の方へと持ってくる。


「そうだよな。生徒会役員に申請してもいいんじゃないか?」


 紫里の目の前に座っていた晴輝も便乗してくる。


「えぇ……。でも、あたしは、生徒会なんて無理だよ」

「ずっとこの調子なんだよなぁ……」


 紫里の返答に苦笑いしながら、晴輝は言葉を返す。そんな晴輝の横に、教科書やらノートやらを置いて希璃弥が座る。


「ん? 勉強するのか?」

「いや、ちょっとね。ゴールデンウィーク中の数学の課題を終わらせとこうかなと思って」


 そう言って数学の問題集を開き、課題シートを見る。


「きりやん真面目だね」


 紫里が希璃弥の数学の課題シートを覗き込む。


「……羽澄、その変なあだ名やめてくれ」

「えー可愛いと思うけどなーきりやん。ね、晴輝!」

「えっ? あ、おぉ……」


 急に流れ弾を喰らい、とっさに肯定してしまう晴輝。


「なんでお前まで肯定する」

「俺なんか悪いことした……?」

「お疲れ様です」


 そんなことを話していると、かぐらが生徒会室の中に入ってきた。


「おーかぐらちゃんお疲れー!」

「羽澄さん、お疲れ様です!」


 実はこの二人、結構意気投合していて仲がいいのである。

 かぐらも同じようにロッカーに鞄を置くと、ノートを取り出して、紫里の横、希璃弥の真正面に座った。


「白雪も勉強か?」

「はい。化学のテストがあるので」

「へぇー。じゃあ俺もなんかやるかな」


 晴輝も立ち上がって鞄のもとに行く。


「みんなやるんなら、あたしも……」


 と、いうことで結局四人で勉強をすることになった。希璃弥が数学、かぐらは化学、晴輝が英語で、紫里は国語をすることにした。



 ──数十分後。

 エアコンの音と、シャープペンで文字が書かれる音、紙の音しか聞こえてこない静かな時間が続いていた。だが、集中力というものは、いづれかは切れるものである。


「はぁ……」


 希璃弥はシャーペンをノートに置いて、ソファにもたれかかった。


「きりやんどうしたの? もう集中切れた?」

「ただ背中を伸ばしたかっただけだ。そういうお前こそさっきから見てりゃ、同じ漢字しか書いてないだろ」

「あ、バレた。だって、晴輝だってずっと同じ英文書き続けてんだよ?」


 紫里は晴輝を、同罪に引き釣りこもうとした。が、すかさず晴輝もカウンターを違うところへと放つ。


「……白雪さんだって、元素記号しか書いてない」

「……結局全員じゃねーか」


 こうして、芋づる式に集中力が切れていたことがバレた四人は、それぞれ休憩タイムを取ることにした。


「てか羽澄、今日はバイトないのか?」


 希璃弥は水筒でお茶を飲んでる紫里を見て、ふと思ったことを聞いてみた。


「うん。バイトって言っても、金曜日だけなんだよ?」

「それでいくら貰えるんだ?」


 晴輝が純粋な疑問をぶつける。


「んーと……大体月に二万くらい?」

「多いな!!」


 希璃弥と晴輝、そしてかぐらまでもがツッコんだ。


「え、ちょっと待って下さい。羽澄さん、一日二時間ほどしか店にいないんですよね?」

「うん! 金曜日の四時から六時でやらしてもらってるよ」

「じゃあ単純計算で、時給二千五百円ってこと?」

「そうなるねー」


 紫里は申し訳無さそうに言葉を返した。


「マジかよ……。俺もバイトしようかな」

「やめとけ。お前がバイトしたら、絶対に店内荒れるから……」

「はい。もうそろそろ五分経つので、勉強再開しますよ」


 かぐらが話を切って、三人に勉強するように促す。


「はーい」


 すんなりとかぐらの言うことを聞き入れる三人だったが、席について、シャーペンを持った途端、紫里がふと話しだした。


「あれ……きりやん、シャーペン三回ノックするんだ……」

「ん? 三回が普通じゃないのか?」

「え、そうなの? かぐらちゃんは?」

「私は……二回です」

「えぇ……」

「聞いておいて引くなんて、酷いですよ羽澄さん……」

「いやぁ……でも」

「そういう羽澄は何回だよ?」

「……四回」

「一番無いわ!!」


 何回ノックするか問題。

 人それぞれ、シャーペンそれぞれと言ってしまえばお終いだが、これはその人の性格が出る、言わば一部の心理テストのような問題である。

 一般的には、二回ノックするのが一番効果的であると言われているが、三回でも四回でもする人はする。 

 だが、かぐらは知っていた。一般的なシャープペンシルの場合、二回ノックで出る芯の長さが一ミリであり、それが一番書きやすい長さだと言うことを。


「……三回も無いですけどね」

「なんだと……? シャーペンは三回ノックが基本なんだよ」

「へぇ……そうですか。なら、アンケート調査でもしてみますか? 二回ノックのほうが圧倒的に多いと思いますけどね」

「二回ノックなら、すぐに芯がなくなって、ノックする頻度が増えるだろう。でも三回ノックなら……」

「長い時間ノックなしで書ける……そう言いたいんですか」


 希璃弥の言葉を遮って、かぐらが反発する。


「そうだ。その分勉強に費やせる時間が増える」

「でも、芯が折れやすくなりますよね。折れたら時間が増えるどころか、またノックをして、芯の先を滑らかにするっていう二度手間がかかるんですよ?」

「それは折らなければいい。第一、五ミリの芯なら、よほどの力を加えないと折れないようになってるだろ」


 希璃弥とかぐらは、お互いに一歩も譲らない。この話は、本当にどうでもいいことなのだが、なぜか負けたくないという気持ちが全面に出ている。


「三回はどう考えても多すぎます。それに、使ってる人がどれだけ注意してても、ペンを落としたりしたら、その長さの分が無駄になるじゃないですか」

「二回は短すぎるんだよ。すぐに芯がなくなる。勉強してたら分かることだ。数式や、漢字練習の途中でノックをするなんてそれこそ勉強をする上での無駄だ」

「分かりましたよ。そこまで言うなら、校内でアンケートを取りましょう! そうすれば、明確な結果が得られるはずです」

「いいだろう。ゴールデンウィーク開けの生徒会だよりでアンケート調査を実施。早速記事に取り掛かるぞ」

「ちょっと待て!」


 勢いに身を任せ、生徒会だよりを作ろうとする二人の頭に、紫里からのハリセンが飛んだ。


「なにすんだよ?」

「こっちの台詞だよ! 何生徒会って立場を使って自分たちの喧嘩に全校生徒を巻き込もうとしてるのよ!」

「あぁ……はい……」

「もう、晴輝も言ってやってよ!」


 紫里は晴輝を指差す。


「二人とも騒ぎ過ぎだ。シャーペンはゼロ回ノックが基本だろうが。まだノックするシャーペンなんか使ってんのかよ」

「え……そこ?」


 この世には、もうすでにノックをしなくても書き続けられるシャープペンシルというものが出回っているのである。


「流石……オール五のやつは威厳が違う……」


 こうして、シャーペンの芯問題は意外な形で終末を迎えるのであった。




あやめ『今日、月曜日だから週一回の生徒会会議の日なんだけど……希璃弥くん既読つかないのは、なんで?』




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