青春は放課後デート(仮)で
「…………」
紫里によって店を出された三人は、言葉を失って店前に立ち尽くしていた。
「これからどうしますか?」
「そうだな……学校戻ってもいいけど。晴輝どうする?」
「まぁ、戻ってもいいんじゃないか? ちょっと予定確認する」
晴輝は鞄からスマホを取り出し、予定を確認する。
が、すぐに顔色を変えて焦り始めた。
「あ、今日五時から塾だわ……」
今の時刻は四時四十分。
「てことで、俺先に帰る。悪いな!」
晴輝はあっという間に、走り去っていった。置いていかれた希璃弥とかぐらは、お互いにやれやれといった顔を見せあった。
「……白雪はこれからどうする?」
「どうしましょうか……。あなたはどうしますか?」
「そうだな……冷蔵庫の食材がなくなってきてるから、買い物ついでにショッピングモールでもぶらついて、家に帰ろうと思ってる」
希璃弥は転生しているので、この世界線にもちろん親は存在しないし、お手伝いさんがいるほど大層な家にも住んでいない。つまり、希璃弥はいつも自炊をしているのだ。
もともと、新川希璃弥という人間、料理は得意の部類に入る。転生する前の世界線では、家から離れた大学を受験し、下宿することになっていたため、とりあえず自炊できるほどの料理を身に着けていた。
「そうですか。……それ、付き合ってもいいですか?」
「ん? 別に構わないけど……いいのか?」
希璃弥にとっては意外な返答だった。
「えぇ。私もこの後大した用事はないので」
「そうか。なら行くか」
こうして、希璃弥とかぐらは近場のショッピングモールに向かって歩き出した。
希璃弥たちの住むこの街、意外となんでもある。神ヶ崎高校は山の麓に建っており、そこから坂道を下ると、大きな市道にでる。その市道沿いには、結構大きな駅や、ショッピングモールだけでなく、映画館、ボウリング場、市民プール、市営グラウンド等の娯楽施設も充実している。
特に神ヶ崎駅周辺は、ショッピングモールを中心にこの街一番の賑やかさを見せる。
ショッピングモールは、スーパーはもちろん、雑貨店、洋服店、スポーツ用品店、楽器店等もあり、そこそこの規模のフードコートも持つ大型モールである。
二人はショッピングモールまでやってきていた。モールに入ると、希璃弥はスーパーとは反対の方向へと向かって歩き出した。
「あれ、スーパーってこっちですよ?」
「その前に色々見ておきたいものとかあるんだよ。スーパーで買い物を先にしたら、その荷物持って歩かなきゃいけないだろ?」
「あぁ、なるほどです。で、どこに行くんですか?」
「本屋だな。追ってる漫画の最新刊が出てないか、見に行くんだ」
追ってる漫画。人間誰しも好きな漫画の一つや二つあるだろう。希璃弥はショッピングモールに来たときには、必ず本屋に立ち入るようにしている。
「…………うわ、人間プログラム十六巻、もう出てんのか」
書店で希璃弥とかぐらは、最新刊が並べられている棚の方へと来ていた。希璃弥は目についた漫画を手に取る。
「あぁ、それ知ってます。結構前にアニメ化されてましたよね」
「そうだな。だいぶ話題にはなったはずなんだけど、二期やってくれないんだよな」
「内容が内容ですもんね。主人公が殺人鬼って発想は、良いと思いますけど……」
「お、これも最新刊出てる」
希璃弥は、手に持っていた漫画を棚に返し、別の漫画を取る。
「『異世界でパソコン作ったのでYouTuber目指します』。これ……話題のラノベって記事で紹介されてましたね」
「へぇ……よく知ってるな。最近コミカライズ化した作品なのに」
「ラノベも結構読むんですよ私」
「そうなんだ……」
希璃弥は今持っている漫画を棚に返す。
「あれ、買わないんですか?」
「あー今はいいかな。家帰っても忙しいし」
「そうですか」
希璃弥とかぐらは、一通り最新刊コーナーを見たあとで、書店を出ようとした。
「あ……」
「どうしたんですか?」
「……これ、映画の公開もうすぐなんだと思って……」
希璃弥が指を指したその先には、一枚の映画のポスターが壁に貼られていた。
「『雪が舞う日、僕は君とあの夏を過ごした』ですか。これってめちゃくちゃ売れた小説のやつですよね」
「あぁ。刊行時は色々なところで話題にされてたな」
「それはそうですよ。この神作を高校生が書いたんですから」
そう、この作品。実は高校生が書いた小説であり、刊行時から多くの話題と人気を獲得してきた超有名作品なのである。
「天才女子高生作家、工藤姫奈。今や高校生でこの名前を知らない人いないほどですよね」
「あぁ。俺もこの小説買って読んだけど、普通に泣けるし、面白いし、これを同世代が書いたなんて信じられないくらいだったよ」
「ゴールデンウィークに公開ですか。暇なら見に行きますかね……」
「そうだな。俺も誰か誘っていくか……」
二人は書店を出る。
「次はどこ行くんですか?」
「うーん……どうしようか……」
「じゃあ私、あそこ行きたいです」
かぐらが指さした方向へと向かい、二人はフードコートの一席に着いた。
(なんで食べた後にまた食べる?)
「なぁ、白雪……俺たちさっきまで喫茶店でアイス食べてたよな?」
ノリノリでパフェを買って、テーブルに戻ってくるかぐらに希璃弥は突っ込んだ。
「いいんです。甘いものは別腹ってよく言うじゃないですか」
そう言って美味しそうにパフェに食いつくかぐらに、希璃弥は少し笑いが込み上げてきた。
「何笑ってるんですか?」
「笑ってない……」
「さっきからニヤニヤしてるじゃないですか」
「だから、笑ってないって」
「絶対に笑ってます。何が可笑しいんですか?」
そう言うかぐらは、プクっと頬を膨らませて希璃弥を見つめる。
「そういうとこだぞ」
「どういう意味ですか?」
「なんでもない」
「教えてください。さもないと、このパフェあなたにあげませんよ?」
え、てことはくれるつもりだったのか。と一瞬動揺した希璃弥だったが、すぐに我に返る。
しかし、少しからかってやろうと、希璃弥は攻撃を開始することにした。
「……それは、嫌だなぁ。パフェ食べたいなぁ」
「じゃあ言って下さい」
「言ったらくれるんだな?」
「えぇ。何口でもあげますよ」
「よし。えっーと、パフェを食べる白雪って意外と可愛いんだなって思ったんだよ」
「!? 可愛っ……?」
「ほら言ったぞ? パフェくれよ」
「……えっと、えっと」
かぐらは、唐突に言われたことに対して頭がオーバーヒートしたみたいで、頭が回っていなかった。
「……あ、あの……」
「ははは、いつものお返しだ」
「……酷いですよ……いきなり可愛いだなんて……」
「だって……なんか面白かったから」
「……やめて下さい。人を笑うなんて酷いですよ」
「それは、いつものお前に言ってから言うことだな」
希璃弥は笑いながら、かぐらを眺める。
(まぁ……可愛いと思ったのは本当だけどな)
──その後、二人は洋服店で服を見て、スーパーで食材を買い、家であるマンションまで帰ってきた。
「じゃあ、今日はありがとうございました」
「あぁ。お疲れ様。じゃあな」
「はい。おやすみなさい」
希璃弥はエレベーターを降りて、自分の部屋に戻ってくる。
「はぁぁ。疲れた。くそっ……俺もなんかフードコートで食べてきたら良かった。もうご飯つくる気力もねぇよ……」
希璃弥はシャワーを浴びたあと、自分のベッドにダイブした。
(放課後に白雪とこんなに過ごしたのなんて初めてだな。何気に楽しかったし、たまにはこんなのもありかな)
一方、かぐらの部屋では。
(疲れました……新川くんと、こんなに過ごしたのなんて初めて……なんか楽しかった…………)
こちらもシャワーを浴びて、ベッドに寝転がっていた。
それぞれ思うこともあるが、一つだけ思考が被ったものがあった……。
(放課後に喫茶店行って、一緒に買い物して帰る……。これって実質、放課後デートってやつなんじゃ……)