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青春は喫茶店で

 翌日。

 またいつものように、希璃弥たちは生徒会室にいた。


「今日は羽澄さん来てないのですね」

「うん。羽澄なら、用事があるとかなんとか言って帰ったぞ」


 希璃弥が答える。かぐらはさっき淹れたお茶をすする。


「おい、希璃弥。今からここ行かね?」


 そう言って、晴輝がスマホを見せてくる。


「あ、そこ喫茶店だろ? 見たことある」

「『なつびより』ですよね。私も一回行ってみたいと思ってたんです」 


 希璃弥に続き、かぐらも食いついてくる。


「ああ。半年くらい前に出来たんだけど、まだ行ったことなくてな」

「三人で行くか?」


 希璃弥が晴輝に聞く。


「ここから徒歩五分くらいだしな。行くか」

「はい」


 希璃弥とかぐら、晴輝は立ち上がって生徒会室をあとにする。

 こうして一同は、喫茶店『なつびより』へと足を運んだ。

 神ヶ崎高校からさらに山の方へと向かい、田んぼがちらほら見えてくる道へと出る。家の間隔もだんだん広くなっていくその道中に、その喫茶店はあった。

 ──カランカラン


「いらっしゃいませ」


 店に入った途端に店員からの挨拶が飛んでくる。

 決して広いとは言えないが、都会のカフェのような現代チックな装飾はなく、よく言えば静かな店内、悪く言えば田舎ぽい店内だ。建物全体も木材を多めに設計されており、観葉植物があることで、まるで森の中にいるような感覚を醸し出している。

 客の数は数人、六つあるテーブル席の二つが使われている。

 三人は一番窓際のテーブル席に座った。


「いらっしゃいませ。ご注文どうされますか?」


 飲み物(お冷)を運んできた店員が聞く。


「何にする?」


 晴輝はメニューを見る。


「俺は、アイスコーヒーと、このアイスパフェで」


 希璃弥はとりあえず、オススメ欄にデカデカと宣伝されているアイスパフェを頼んでみた。


「私は、アイスコーヒーだけにしておきます」

「じゃあ、俺は……紅茶で」

「かしこまりました」


 店員が去ってから三人はまた話し始める。


「へぇー。綺麗な店内だな」

「確かに落ち着きますね。勉強とかここでやってもいいんじゃないですか」

「まぁ、リア充たちの良いデートスポットにはなるだろうな」


 希璃弥が笑いながら言う。


「いつか希璃弥が初デートで、ここ来るんだろうなー」

「おい晴輝!」


 そんな話をしていると、注文の品が運ばれてきた。


「おまたせしましたー! チョコクリームと生クリームがかかったフルーツアイスパフェと、アイスコーヒー、紅茶でーす!」

「ありがとうございま……」


 三人、いや、四人はお互いの顔を見た瞬間、凍りついた。


「えっ? 羽澄?」

「な、なんで……ここにいるのー!」

「お前こそ……てか、それはこっちのセリフじゃあ!!」


 希璃弥とかぐら、晴輝はもちろん紫里も固まる。


「え、本当になんでいるんですか?」


 かぐらがもっともな質問をする。


「……バイト」


 顔を赤らめながら、紫里はうつむいて答える。


「意外すぎる。もうちょっと真面目なキャラだろ、羽澄って」

「キャラとか言わないで!」


 羽澄はまた恥ずかしそうに顔を背ける。


「家の事情があるの! もう聞かないでよ」

「そんなことないだろ。羽澄の家、結構裕福だって前言ってたよな?」

「…………。なんで覚えてるの……」


 紫里は顔を背けたまま、小さい声で答える。


「お小遣い、貯めたかったから」

「理由!!」


 希璃弥は吹き出した。


「面白すぎる……ここまでくると」

「お小遣い稼ぎって……月いくら貰ってんだよ?」


 晴輝が聞く。


「一ヶ月に千円だけ」

「確かに少ないな……てか、ここって個人営業だよな。バイト募集してんの?」

「募集してはないけど、あたしが受験期のときによくここに来て勉強してて、よく食べ物とかただで出してもらってたりしてたから……その分働かせてくださいって言ったら、いけた」

「いけたって……だいぶ軽いな」

「あの……冷めちゃうので、先にどうぞ……」


 そう言って、紫里は持っていたチョコクリームと生クリームがかかったフルーツアイスパフェと、アイスコーヒー、紅茶をテーブルの上に置いた。


「ご……ごゆっくりどうぞ……」

「やりづらそうだな……」


 少し苦笑をして、希璃弥は目の前の大きいパフェに目を移す。


「アイスパフェって言ったらこれ出てくるのか……すごいなこれ」


 そこには、商品名通り、いちご、メロン、バナナ、ブルーベリーが大量のアイスの上にのり、その上から生クリーム。そしてそのまた上にチョコクリームがかかっていた。


「どうやって食べるんだ? これ……」

「スプーンで食べたら良いだろ」


 晴輝はそう言って、紅茶をすする。


「なんで頼んだんですか」

「いやなんか、目に入ったから」

「じゃあちょっとだけ貰ってもいいですか?」

「あぁ、いいぞ。俺もまだ口つけてないからな」


 かぐらがスプーンで、パフェの半分くらいを皿に乗せる。


「お前、取りすぎだろ」

「食べたかったので」

「じゃなんで頼まなかったんだ?」

「人のお金で食べるパフェは、美味しいのかなと」

「うわ、こいつタチ悪りぃ……」

「冗談です。ちゃんと支払いますよ」


 アイスを口に運んで、かぐらは微笑み、アイス代の半分のお金をテーブルに置く。

 そして、無事アイスも食べ終え、それぞれスマホを眺め始める。


「これ、してみませんか?」


 突然かぐらがスマホの画面を見せる。


「なにこれ?」


 晴輝が反応する。

 そこには、『四名様の団体招待券が、八組様に当たる! 簡単抽選ゲーム!』と表示されていた。


「団体招待券? 何の?」

「えっと、愛里浜リゾート公園での一泊二日のキャンプです。一日目の夜はあの愛里浜花火大会が見れるって記載されてます」


 かぐらが解説する。


「え! 愛里浜リゾート公園?」


 希璃弥も反応する。

 愛里浜リゾート公園とは、三年前に愛里浜という海岸沿いに沿って建てられた、大きな公園である。

 敷地内には、遊園地や、キャンプ広場もあり、夏には花火大会が開催される。言わば、有名な観光地である。


「全部で三回できるみたいなので、一人一回やりませんか?」


 かぐらがみんなに聞く。


「じゃあ俺からやるよ」


 希璃弥がかぐらのスマホを取って、ゲームを始める。

 どうやらゲームをクリアすると抽選が始まり、それに当選すると団体券が当たるということらしい。


「これをこうして……」


 希璃弥はゲームをすいすいと進め、すぐにクリアした。


「おっけ。これでガチャを回すんだな」


 希璃弥は抽選画面に進み、ガチャを回した。

 ムービーが流れ、『はずれ』の文字が画面に表示される。


「あ、はずれた」

「次は私やります」


 かぐらがスマホを取り返す。かぐらもゲームをクリアして、ガチャの画面に進む。


「ここからですよ……」


 かぐらは、ガチャを回す。


「えっ」


 流れてきたムービーが少し違った。


「当たった?」


 しかし、『はずれ』の文字が。


「今のはずれなんですかー」

「ラスト一回だな。俺に任せてみろ」


 待ちに待ったと言わんばかりに、晴輝が言ってくる。

 晴輝も同じようにゲームを進め、クリアする。


「はい。これ当たります」


 晴輝は、調子に乗った顔でそう言い、ガチャをタップする。

 また、違うムービーが流れる。真ん中がキラリと金色に光る。


「えっ? えっ」


 三人はスマホの画面に注目する。

 すると、画面に、『おめでとうございます!! 当選いたしました』と表示された。


「えっ、音喜多さん!?」


 かぐらが叫ぶ。


「えっ、俺ガチで当てて……」


 晴輝は突然のことすぎて、少し動揺している。まさに瓢箪から駒とはこのことだ。


「お前流石だな。よく当てたよ」


 希璃弥も内心大喜びしながら、声をかける。


「まさか誰か当てるなんて思ってなかったです」


 かぐらも当たるとは思っていなかったようで、嬉しさを隠せていない。だが、この展開に一人、喜んでない人物がいた。


「お客様、食べ終わったらさっさと出てもらえませんかね?」

「お、おぉ。なんか顔が怖いぞ羽澄」

「ぜーんぜん怒ってないんだからね! あたし除いて楽しそうなことしてたことなんて、なんとも思ってないんだからね」

「なんだよその典型的なツンデレは」

「いいから帰ってくださーい! 君たちいるとやりづらいの!」


 こうして、バイト中の紫里によって、希璃弥たちは店から追い出されてしまうのであった。


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