幕間 古典文学
新太は夕食と風呂を済ませて、部屋に戻る。
本棚を眺めて、一冊手に取った。
それは、漫画本だった。
小学校中学年から高学年向けの古典文学、その漫画版である。
タイトルは【雨月物語】。
本棚にはシリーズなのだろう、ほかの古典文学の漫画が納められていた。
【今昔物語】、【竹取物語】、【枕草子】、【源氏物語】、【古事記】、【日本書紀】といったタイトルが並んでいる。
ただ、その漫画は普通の書店では手に入れられない漫画らしい。
学校図書としての漫画だと、随分後になって新太は知ったのだ。
なんでも、彼の亡くなった母方の伯母が母校の処分予定だったものを譲り受けたと聞いた。
伯母が急死したあと、形見分けで漫画なら子供たちが読むだろうと母が貰ってきたものだった。
その時点で随分読み込まれていて、なんならゴミに見えても仕方なかっただろうに、新太の母は姉の形見として思うところがあったのか今まで捨てずにいた。
それを新太が自分のものにして、部屋の本棚に並べたのである。
「…………」
新太の古典文学好きは、覚えていない伯母の影響が大きかった。
なんなら、海外古典の文学作品のいくつかは伯母のものである。
今でも時折、母方の実家に片付けの手伝いにくっついて行くと貰ってくるのだ。
母方の祖父母も高齢で、終活を始めているのである。
ゲーム内で転職もした。
人伝に聞いた話では、【雨月物語】をベースにしたクエストがあるということなので、その予習だった。
高校生の新太が読むには子供向け過ぎるが、それでも面白いことには変わりない。
サラサラとページをめくり、やがて読みおえる。
「……あの話もあるのかな??」
呟いて、【雨月物語】を棚に戻す。
それから視線をずらして、今度は同タイトルの文庫本を手にした。
こちらは、大人向けの現代語訳された【雨月物語】であった。
文庫本には、内容が刺激的すぎると判断されたのか漫画版には収録されていない話が載っているのだ。
新太は文庫本を開く。
現れたのは、【青頭巾】というタイトルの作品だ。
これは、漫画には載っておらず新太の手元にある本では、文庫本に載っているのだ。
またパラパラと読み進める。
もしかして、この話がクエストで体験出来るのだろうか、とちょっとワクワクする。
ほかにも【菊花の契】も体験できるだろうか。
【吉備津の釜】に【仏法僧】、【浅茅が宿】と【蛇性の婬】はクエストに盛り込まれているだろうか。
期待は高まるばかりである。
【雨月物語】だけではない。
【小泉八雲】作品のクエストもあるらしいから、是非とも【ろくろ首】や【耳なし芳一】のクエストがあることを期待したい。
因習村系のクエストもあると聞いている。
「どんなクエストがあるのか、楽しみだなぁ」
それらのクエストは、これまた聞いた話では一部はイースターエッグらしい。
探すのもまた、新太は楽しみなのだった。