幕間 珍しい光景
その日、新太が帰宅すると兄がテレビを見ていた。
旅番組だ。
「珍しいね、テレビ見てるなんて」
新太がそう声を掛けると、
「んー」
兄が曖昧な声で返してきた。
テレビ画面には、広大な砂漠と有名すぎる三大ピラミッドが映し出されている。
この時は、それだけで終わった。
しかし、兄の珍しい行動は続いた。
その日の夜、夕食を終えた後、兄は母と並んで映画を見ていた。
これまた砂漠を舞台にした映画、【ハムナプトラ】である。
そこに、弟もやってきて珍しい光景に目を丸くしていた。
兄がこうして映画を観ることは珍しい。
(そういえば、昔から古代遺跡は好きなんだよな、兄ちゃん)
そこから繋がっているのか、兄は世界史が好きである。
そんな兄と母の会話が、新太の耳に届く。
「でも呪いはあるのよね」
これは母だ。
母は続けた。
「ほら、ツタンカーメンの呪いって本当にあったことでしょ??
ツタンカーメンの墓を見つけた人が呪いで死んだって聞いた事あるわよ」
母は、そういうのを信じる方らしい。
「……墓を暴いたら、とか墓に入ったら~とか、それで呪われる祟られるって話?」
兄の颯太が聞き返した。
「そうそう、それそれ」
兄は黙って携帯端末を取り出し、操作する。
それから、観光地にもなっているツタンカーメンの墓の画像を出して、母にみせた。
「仮に墓に入ったら呪われたり祟られたりするとして。
少なくとも、ここに写ってる観光客全員を呪い殺すことになるけど、死後のファラオはそこまで暇じゃないと思うよ」
一刀両断である。
母はつまらなそうに、映画へ視線をもどした。
それでもいい足りなかったのか、こう続けた。
「でも、ハワードって人は呪われて死んだんでしょ?」
「ハワードって、ハワード・カーターのこと?
ツタンカーメンの墓を見つけた?」
「そうそう、その人」
「違うよ。
呪われただのなんだの、当時のメディアに好き勝手書かれたのは、カーナヴォン卿の方だよ」
「だれ、それ?」
「ハワード・カーターに、発掘のお金出してた人。
パトロンだよ、パトロン。
実際掘り起こしたのは、ハワードと手伝いの人達なのに、お金出してた人が真っ先に呪われるってのも変だし。
本当に暴かれたくなかったから、発掘調査中に不可思議な事故死が相次ぐと思うけどね」
兄の方が上手だった。
兄は本をあまり読まないのに、こういうことは何故か知っているのだ。
あとで何気なく、新太がこの時のことを母にたずねたところ、旅番組を見て触発されたのか。
気づいたら兄の颯太が、配信されている映画を観ていたらしい。
自室で積読を消化しつつ、新太はEEOのことを思い出していた。
そういえば、新しいエリアは砂漠の大陸だった。
(あとで久しぶりにログインしてみようかな)
すでに月は変わり、10月となっている。
ハロウィンイベントのお知らせが、届いていたことも思い出した。
(読書の合間の休憩には丁度いいし)
そんなことを考えながら、新太は手にした本へ視線を落とした。
作中引用作品
ハムナプトラ(1999年)