【幕間】シャーロットとスーが気づいたこと
数日後。
月にて、シャーロット、スーはパイルバンカーニキが来るのを待っていた。
やがて、約束の時間になる。
プレイヤーの一人が近づいてきた。
パイルバンカーニキこと、プレイヤー名【はぽたん】である。
「よぉ、きたぞー」
「あ、こんにちは」
「どうもです」
シャーロットとスーが軽く挨拶する。
それから、スーが今回、わざわざメッセージで彼を呼び出した理由を告げた。
「……は?!わかった?!
俺がどのクエストで【神子族】と出会ったか、わかったのか?!」
【はぽたん】の驚きようは凄まじかった。
なぜなら、スーはまだゲームを初めて本当に日が浅い。
シャーロット達がいるからといって、隠しクエストに詳しいかと言われると否である。
そんなスーが、【はぽたん】の気になっている答えに早々にたどり着いたのだ。
「まぁ、はい。
たぶん、というか、おそらく、が頭に付きますけど。
この数日、俺たちなりに調べて裏付けをしたので。
まぁ、掠ってるかな、程度ですが」
シャーロットが言いつつ、【はぽたん】を見る。
「だから、伝えておいた方がいいかなって思って」
「そりゃ、教えてくれるならありがたいけど。
よく気づいたな」
【はぽたん】の返しに、シャーロットは気まずそうにする。
一方、スーはちょっと楽しそうだ。
「こいつの、ポーカーフェイスも中々でしょう」
なんて、スーは言ってくる。
スーは続けて、
「ほら、吸血鬼のクエスト……【永遠の夜を歩く存在】をプレイ中の時のことです。
ルチルにせがまれて、今まで受けてきた隠しクエストについて語る場面があったでしょう?
覚えてますか?」
「あぁ、覚えてる。
それが?」
「あの時、話す隠しクエストが貴方とシャーロットで違っていたのも覚えてますね?」
「そうだったな。
で、掲示板に俺とシャーロットがそれぞれ、話す内容が違うってことを書き込んだんだ」
そこで、【はぽたん】は察した。
あの中にあったのだ。
【神子族】という、このEEOの世界では失われた十の種族の1つが出てくるクエストが。
しかし、【はぽたん】はそれに気づけなかった。
クエスト内で言及されなかったから、気づけなかった。
シャーロットがデスサイズを手に入れたクエストのように、わざわざ種族名が出てこなかったのだ。
「おい、まさか……」
「えぇ、想像の通りかと。
あの時でたクエスト項目、その中にあったんですよ。
そして、シャーロットはそのクエスト名を見ていたから、どのクエストかすぐに察することができた。
けど、点と点がつながって、こいつ動揺しすぎて結果的にポーカーフェイスになっちゃって」
スーの巨体を、シャーロットは小突いた。
それから【はぽたん】を見て、続けた。
「サングリアル」
「え?」
「ありましたよね?
ルチルに話をねだられた時に、【旧神の血脈を辿った冒険について話す】って項目が」
確かにあった。
そして、そのクエスト内容のことも覚えている。
「旧神の血脈と書いて、サングリアルと読む。
……【はぽたん】さん、クエスト内でサングリアルという名称の説明はありましたか?」
「一応」
「教えてもらってもいいですか?」
他ならないシャーロットの頼みである。
「たしか、旧神、つまり先代神様が隠した宝物。
その宝物を隠すために使った道のこと、別名【薔薇の道】とも呼称された、その道を探し出し辿るクエストだった」
ローズ・ラインと聞いて、シャーロットの顔がピクリと動く。
キラリと目が光り、そこにワクワクとドキドキの色が灯る。
「へぇ!なるほど!!
なるほどなるほど、そういう……。
あ、すみません。
色々細かい説明をすっ飛ばして、端的に言うと。
【サングリアル】とは、【聖杯】のことなんです」
「聖杯は、カリスじゃね?」
「あ、それは知ってるんですね。
まぁ、他の言葉で言うと【サングリアル】になるんですよ。
で、この【サングリアル】ですが」
言いつつ、シャーロットは空中に指を滑らせて文字を書いた。
S、A、N。
ここで間をあけ、続ける。
G、R、E、A、L。
つまり【SAN GREAL】
「こういう綴りになります。
でも、古い書き方にすると」
また同じように空中に指を滑らせる。
しかし、今度は文字をあける位置が違った。
【SANG REAL】とシャーロットは書いた。
書いてる最中、そして説明しようとしてる今も尚、シャーロットの顔はワクワクとドキドキに染まったままだ。
「これ、訳すと【王家の血】って意味になるんですよ」
「へぇー、そうなんだ」
感心しつつも、【はぽたん】は難しい話が苦手なので、ノリとしてはイマイチだった。
「で、なぜこの【サングリアル】と【神子族】を繋げて考えたのかって話をしますが。
世界各地で権力者がその権威や血筋の箔付け、あるいはそれらに説得力をもたせるため、彼らには特別な血が流れている、という設定を組み込むことがあります。
日本で言うなら天孫降臨からはじまるやつになりますかね。
ここから神の子、神の子孫、つまり【神子】と繋がるわけです。
神様の血を継ぐ子供、子孫たち、血脈のことをそのまま指していると思われます」
「…………」
「続けます。
貴方はここまであからさまな言葉を目にしながら、【神子族】にあった覚えは無い、と言っていた。
ルビの方ではなく、【旧神の血脈】という言葉です。
つまり、クエスト内容は子孫の行方を探したり、その存在を指摘したりするものではなかった、と推測できます。
だから、血脈というのは血統や血筋ではなくもっと別の意味でクエスト内では使われていたのだろう、と考えられるんです。
そして、先程【はぽたん】さんがクエスト内容を答えてくれたおかげで答え合わせが出来ました。
そんなわけで、わざわざ【サングリアル】表記をしていることから、そのクエスト内に【神子族】が出てきた可能性は高いかな、と。
旧神の血脈とは、そのままの意味だったんじゃないかと思うんです。
つまり、魔神族と先代神様の子孫たちの足跡を辿る物語でもあった可能性です」
これが、シャーロットとスーが気づいたことの一つ目である。
その後、【はぽたん】はもう一度、サングリアルのクエストに挑戦してみると決めた。
どのNPCが、【神子族】なのか確認するとのことだ。
シャーロット達には、情報料としてサングリアルのクエスト発生条件を教えた。
そして、月に残された二人は視線を合わせる。
「……もう一個の方は言わなくてよかったのか?」
スーに聞かれ、シャーロットは答える。
「だって、聞かれなかったし。
気にしてもいなかったみたいだし」
「でも、検証班さん達は先代神様は女神官だって思い込んでるだろ」
「まぁ、うん、掲示板見るとそんな感じだな」
「いいのか?
本当は、違う可能性があるって教えなくて」
「聞かれたら答えるけど。
盛り上がってるところに水を差したくないし。
それに、気づいてる人達なら居そうなんだよなぁ」
「誰だ?それ??」
「考察厨さんと迷探偵さん達。
気づかないわけないだろ」
「まぁ、うん」
ヒントはジルの言葉だ。
ジルは先代神様の事を指して、時折【あの子たち】と複数形で言っていた。
つまり、女神官だけを指すなら【あの子】だけで良かったはずなのだ。
その複数形が、二人のことを指すのか三人のことを指すのかはわからない。
でも、確実に言えることは、女神官=先代神様とは言えない、ということである。
参考文献&作品
【ダ・ヴィンチ・コード】
ダン・ブラウン作
越前敏弥 訳
【レンヌ=ル=シャトーの謎:イエスの血脈と聖杯伝説】
マイケル・ベイジェント /リチャード・リー 他著
林 和彦 訳
【楽曲】
サングリアル~テンプル騎士団と聖杯伝説~
作詞・作曲じょるじん
https://karent.jp/album/3820
https://youtu.be/ns1nw1nEOns?si=TIBuleBX4U-fOhav