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【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】  作者: 浦田 緋色 (ウラタ ヒイロ)
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幕間 嘘つきとプレイヤーネーム

自宅の私室。

ヘッドギアを外し、ウォーレンのリアルであるその人間は手元にあるイラストを見た。


「もっと上手い、プロの人に描いてもらえって言ったのになぁ」


それは、ジルの絵である。

EEOの生みの親となる前の、まだ無名だった頃のミズキに頼まれてウォーレンが描いたイラストだった。

そのためプロのイラストレーターが描いた商業作品のジルとは、デザインが異なっている。

腹ぺこジルの物語。


ミズキとの合作のひとつだった。

この作品を作っていた時の会話を鮮明に覚えている。

そう、あれは、全く作品を手に取って貰えなかった頃。

それでも、楽しさだけで創作活動をしていた頃の話だ。


『ゲームの中の隠し要素のことを、イースターエッグって言うんだよ』


『へぇ。じゃあ次はそれを題材にしてなにか創作しようかな。

イースターエッグを探す冒険物語。

それこそ、このジルを登場させたり、アウストロやほかのキャラを出したり』


『いいんじゃない?

書き手が楽しければそれでいいと思うよ』


受け取り手が楽しめるかはまた別の話だ。


『でも、産みの苦しみはあるよねえ』


ミズキはそう言った。

ウォーレンはこう返した。


『そりゃあねぇ。

でも、必ずどこかにある宝物なら、それを探す冒険は楽しいと思うよ』


直後、ミズキはこう聞いてきた。


『ゲームのイースターエッグについて、ほかに面白い話は無い?』


『面白い話かはわからないけど、人類初とされるゲーム内のイースターエッグの話ならあるよ。

それを仕込んだ人はね……』


この会話のことを、ウォーレンはずっと後悔していた。

なぜなら、あの時ウォーレンが【イースターエッグ】の雑学を教えなければ、ミズキはゲーム制作はしなかっただろう。

ゲーム制作をしなかったなら、きっと過労で死ぬこともなかったはずだ。

そして、ウォーレンがこの名前でEEOをプレイすることも無かったはずなのだ。


「でも、うん、おどろいたなぁ。

まさかあの子(ミズキ)の話していた子達がシャーロットとスーだったとは」


【腹ぺこジル】はこの世に二つしか存在しない作品だ。

一つはミズキが、もう一つのコピーはウォーレンが所持している。

しかし、ミズキが保管していたであろう方は何度も読まれてボロボロになったと聞いた。

コピーのコピーをとる予定はない。


「そっかぁ、もう十年経つんだなぁ」


あらためて思い知る。

彼女が、ミズキが亡くなって十年。


「早いなぁ」


あっという間だった。

この十年は、本当にあっという間だった。

だというのに、ウォーレンは未だミズキの墓参りに行けていない。

罪悪感で、リアルでの墓参りには行けていない。

代わりにとばかりに、合作のひとつだったアウストロが出てくる物語。

それを流用したEEOの月世界に入り浸るようになった。

アウストロが仲間になるイースターエッグがあるとは、知らなかった。

だから、シャーロットの仲間になってとても驚いた。

ジルもだが、アウストロもウォーレンが描いたキャラクターである。

ミズキに頼まれて、描いたキャラクターだ。

何度もクエストを受けて、アウストロに会っていた。

アウストロを見るのは、とても恥ずかしい。

自分の至らなさと下手さがそのまま動いているのだ。

あの動きやゲームキャラとして作った人たちには悪いが、見る度にのたうち回りたくなる。

でも、それでも、楽しい思い出の一つでもある。

思い出に、過去にしがみついているのは自覚している。


視線を天井から目の前に移す。

そこには、机がある。

机の上には、考察厨から連絡があってすぐ引っ張り出してきた、ミズキの初期作品が全て所狭しと並べられ、積まれている。


いまや作る人も珍しくなった手作り感満載なコピー本だ。

そして、かなりのプレミアが付くだろう作品達である。

なにせ、ウォーレンと交換したもの以外、頒布されることはなかったのだから。

誰も手に取ることは、無かったのだから。

全てを売り払ったなら、かなりの金額になるだろう。

なにせ、頒布できたオフ本ですら数十万の値がついているのだ。

けれど、それを実行する予定は無い。


わざわざそんな古本を引っ張り出してきたのは、考察厨からDMがあったからだ。

EEOの世界を旅し、攻略するためのヒントが詰まっているだろうその作品を、もし持っていたら情報を開示してほしいと。


「……さて、どうしようかねぇ」


考察厨には、なんかの折に捨てたかもしれないから、期待はするなと伝えてある。


「はぁ」


ため息を吐いて、もう一度初期作品達をみた。

考察厨含め、ガンター達からすると喉から手が出るほど価値のあるお宝だ。


EEOは、この初期作品群からのネタの転用、キャラの転用がされている。

隠し要素の発生条件こそ載っていないが、EEOの世界を歩くためのナビゲーションくらいにはなる。


「いや、そうじゃない」


考え直す。

この作品群は、EEOの世界観の根底に関わるものだ。

復刻イベント【黄昏の大侵攻軍】で、初お披露目された魔王と魔族の存在。

そして、あの執事キャラ。


「……まさか、エドまで使われてるなんてなぁ」


名前こそ出ていなかったが、あのキャラのデザインはウォーレンがしたものだ。

あの魔族執事【エド】が出てくる物語も、ミズキと一緒に作った作品である。

エドだけではない。

【暗黒大陸探索】イベントのときに登場した、【幻の都】に住む龍神族と黒竜族の姉弟。

あちらも、名前こそ出ていなかったけれど、あの二人もウォーレンがデザインしたキャラクターだ。


「ゴンスケとドンベエまでいるなんて、ねぇ」


姉がゴンスケ、弟がドンベエという名前なのだ。

なんでこの名前にしたのかは、ちょっと理解に苦しむ。

もっと相応しい名前があっただろうに。

思ったことをそのまま口にしたら、ミズキは笑って、あの名前がいいのだ、と言い切った。

なにか思い入れのある名前だったのかもしれない。

けれどこの2人が出てくる作品も、誰にも手に取られることはなかった。

しかし、ここまで初期作品のキャラが揃っているとなると。


(そうなると、魔王はきっと)


心当たりのあるキャラがいた。

きっと、あのキャラだ。


「さて、どうしたものか」


ボリボリと頭をかいて、現実のウォーレンは、今度は盛大なため息を吐いた。

考察厨から届いたDMを確認する。

とある文面を読む。

そこには、ミズキの初期作品のついでとばかりに、こう書かれていた。


【ところで、dogwood氏と親交のあったウォーレンなら、何故、このゲームに、EEOに吸血鬼がいないのか知らないか?】


「…………」


そのメッセージと、ミズキの初期作品を交互に見る。

ウォーレンは、考察厨の知りたいことを知っている。


「世界観のネタバレになっちゃうから、言わない方がいいよなぁ」


それにおそらく、その答えはあのゲームの中にちゃんと隠されている。

どこかでガンター達は、いつかそこにたどり着くはずだ。

そして、きっとその情報に一番乗りするのは、


「シャーロット、だろうなぁ」


そんな気がするのだ。

もしかしたら、スーということも考えられる。

EEOに吸血鬼がいない理由。

それは、少なくとも【暗黒大陸探索】イベントで【幻の都】に到達した者なら触れている情報だ。


ウォーレンへDMをくれた考察厨だってそうだ。

おそらくあのイベントに参加していたのなら、気づいているだろう。

けれど、決定的な情報がない。

それを手に入れたくて、初期作品を、そこに載っているだろう情報を得たいのだろう。


黙考すること数秒、ウォーレンの考えは固まった。

在宅ワークだが、休憩時間はあらかじめ決めてある。

時計を確認して、まだ少し休憩時間が残っていたのでウォーレンは手早く考察厨へとDMを返した。


【悪い、探したけど初期作品は見つからなかった。

実家だ、でも親が終活ついでに処分してるわ。

この前、俺の本も捨てていいかって連絡きて、いいよって返したからさ。

あと、吸血鬼がいない件についてはネタバレになるから言いたくない。

でも、EEOのどこかに必ずその疑問の答えはあるはずだ。

遊びつつ探せ、ガンターなんだからそれくらいできるだろ?】


返した後で、つくづく自分は嘘つきだな、とウォーレンは微笑んだ。



***



「あ、返事来てる」


考察厨はゲームにログインすると、すぐにウォーレンからの返信に気づいた。

リアルとプライベートを分けるために、メッセージの連動はさせていないのだ。

EEOをプレイする上で、羅針盤の役割を果たすだろう作品。

EEOの生みの親、dogwoodの初期作品を所持しているかもしれないウォーレンからの返信だ。

メッセージの内容を確認する。


「ダメかぁ」


ウォーレンからの返信には、すでに紛失してしまっていると書かれていた。

どうやら実家に置いておいたため、親の終活ついでに処分されただろうとのことだった。

それなら仕方ない。

メッセージの最後には、


【EEOのどこかに必ずその疑問の答えはあるはずだ。

遊びつつ探せ、ガンターなんだからそれくらいできるだろ?】⠀


と、かなり挑戦的な事が書いてあった。


「まぁ、たしかにその通りなんだけど」


しかし、引っかかることもある。

ウォーレンは、EEOについて詳しすぎるのだ。

それに気づいたのは、あの復刻イベント【黄昏の大侵攻軍】の時だ。

ウォーレンは、あの魔族執事について明らかに知っている風だった。

もしかしたら運営なのかもしれない、とも考えた。

けど、それにしては、


「守秘義務が守られてないというか、ザルなんだよなぁ」


ウォーレンがこちら側にしている説明は、あくまで同人時代のdogwoodとの交流と、その際の合作のことくらいしか知らないというものだ。

特定班を頼れば、もしかしたらその辺のこともわかるかもしれない。

けれど、それはなんと言うのだろう。

最後の一線を超えるようなものだ。

誰だって暴かれたくないものはある。

ましてや、ウォーレンは一般人だと思われる。

そんな人物を徹底的に調べあげることは、さすがにできない。


「ま、案外、合作した作品に出てきたキャラが転用されてたとかかな」


しかし、それならなぜdogwoodはウォーレンを制作陣に招かなかったのだろう?

合作のときにウォーレンがどんな役割をしていたのかはわからない。

けれど、創作はしていたのだ。

ウォーレンの過去話から察するに、dogwoodと喧嘩別れした訳でもなさそうだ。

何よりもウォーレンは、このゲームでは古参の中の古参と言ってもいいだろう。

制作陣、運営といった関係者ではなく、プレイヤーのままなのは何故なのか。


「まぁ、これは謎じゃなくて秘密だからなぁ」


それこそ案外、ウォーレンは制作陣として勧誘されたけど断ったのかもしれない。


「でも、ウォーレン、か」


偶然の一致だとは思う。

なんなら同じ名前のプレイヤーはごまんといる。

けれど、イースターエッグの名前を冠するゲームに、その生みの親と関係のある人物が使う名前としては中々意味深だと感じてしまう。


「今度、名前の由来でも聞いてみようかね」


教えてくれるかは分からないが。

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