幕間 EEOに表向きいないモンスター
EEOの夏季イベントもクリアし、その後はガンターに言われた通り、月でレベリングか探偵クエストを受けたりしつつ、シャーロットとスーは過ごしていた。
そんな中、シャーロットの神官のレベルが50、探偵のレベルが85となった。
その翌日のことだった。
シャーロットはスーとともに、EEOへとログインした。
そして、探偵クエストを受けようと、私立探偵の事務所にやってきた。
事務所に入ると、そこには二人の私立探偵がいた。
片方はこの事務所の主であり、初めて探偵クエストを受けた時からの付き合いである私立探偵。
もう一人は、あのテケリ・リの骨を渡してきた、シャーロットが勝手にオールドマンと読んでいる私立探偵だった。
「なんだ、優秀な助手というのはお前さんのことだったのか」
シャーロットの顔を見るなり、オールドマンはそう呟いた。
その横で、私立探偵がオールドマンのことを紹介する。
「彼は古くからの友人でね。
でも、いかんせん癖が強くて助手がすぐやめてしまうんだ。
だから私の助手を貸してほしいと懇願されてるところだ」
私立探偵が説明した直後、クエストが発生した。
「クエストだ」
思わず呟いたシャーロットに、スーが訊ねる。
「受けるの?」
スーは今回、シャーロットのパーティ仲間としてここにいる。
そのため、クエスト受注の条件を満たしていないので、どんなクエストタイトルがシャーロットの前に提示されているのかわからない。
「受けてみようかな。
たぶん、スーも好きそうなストーリーだと思う」
「俺も?」
不思議そうに首を傾げるスーを見る。
そんな二人を取り囲むのは、二匹の神狼と兎の亜人であるアウストロだ。
「クエストタイトルは?」
「永遠の夜を歩く存在」
そのタイトルにピンとくるものがあったのだろう。
スーがシャーロットを見た。
「これって、もしかして……」
スーの呟きに、シャーロットは楽しげに返す。
「……さて、どうだろ?
とりあえず、はい、を選んで、と」
その直後。
クエストを受けるか否かを選んだ直後。
久方ぶり過ぎる、あの【予告】の光景が二人をつつんだのだった。
賑わう港町。
広がる海の先には、ボロボロとなった船がゆらゆらと波に揺れていた。
幽霊船とはまた違う雰囲気のボロ船だ。
続いて映像が切り替わる。
新聞記事の映像だ。
ボロ船の絵があり、この船が難破船だと言うことが書いてある。
船の名前は【ΔΗΜΗΤΗΡ号】というらしい。
途中で嵐にあったからか、乗組員は全員死亡していたらしい。
また映像が切り替わった。
今度は夜だ。
月がでている。
月と赤い霧が港町を包み込んだ。
そして、耳をつんざくような女性の悲鳴があがった。
映像が暗転する。
暗転の後、現れたのは男の背中だった。
しかし、顔は見えない。
男の前には女神像。
男はその女神像を真っ直ぐに見つめているようにみえた。
展開されたその予告に、シャーロットとスーは言葉を失った。
驚きで、言葉を失ってしまったのだ。
予告の光景は、容赦なく二人へ叩きつけられた。
予告が終わり【to be continued】の文字が表示される。
そして、シャーロットとスーは顔を見合わせたかと思うと、
「「うそだろ……」」
息ぴったりにそう呟いたのだった。
その、予告の光景を二人は知っていた。
読んで、知っていたのだ。
予想通りと言ってしまえばそれまでだ。
しかし、本当に予想通りのものが来た時、この2人の場合は困惑するのだった。
「なぁ、新太、確認なんだけど」
スーがついシャーロットの本名を口にした。
シャーロットはしかし、それを咎めることはしなかった。
どのみち、ここにはお互い以外、NPCしかいないのだ。
身バレの心配はほぼ無い。
「なに?」
「このゲームって、あのモンスター出てきてなかったよな??」
「……たぶん」
「公式サイトでモンスター一覧表見たことあるけど、あのモンスターっていなかったよな?」
「……わからない。確認しないとわからない」
なにせ、勘違いなど普通にしてしまうのが人間の脳みそだからだ。
ある意味、その勘違いを利用しているのがこのVRゲームにも使われている技術でもあるのだけれど。
そんなことは、いまの二人にはどうでもいいことだった。
「じゃあ、確認しよう!」
言うが早いか、スーがログアウトする。
シャーロットもそれに続く。
オートセーブなので、気兼ねなくログアウトした。
そうして現実に戻った二人は、ヘッドギアを取り払い、投げ捨てたのだった。
次に二人がしたのは、パソコンを使ってEEOの公式攻略サイトを確認することだった。
今しがた見つけた隠しクエスト。
それに関係しているだろうと思われるモンスターが、EEO内に存在するのかどうか。
それを調べるのだ。
モンスターの一覧表があるページを表示して、二人は目的のモンスターの有無をたしかめた。
「いない、よな?」
新太が呟くように、双子の片割れであり、現在は従兄弟へと確認する。
従兄弟は頷いた。
「見落としてはいないばすだけど」
「と、ゆーことは。
EEOには表向き」
早鐘のように、二人の心臓がドキドキと鳴った。
「「吸血鬼がいない」」
そしてまた、2人の声と言葉が揃ったのだった。