第七話
「さて、そろそろ慣れてきた頃かね」
大型の鎌、グランド・サイズを振り回しながらつぶやく。
俺は今、1人で大鎌の立ち回りの訓練をしている。
セグメール大森林のボスを倒してから3日、毎日狩り場を変えているが戦っているモンスターは両生類や魚類のような見た目の敵ばかりである。
ここはエルムテルダム郊外。
エルムテルダムというのは、俺たちが倒して解放された新しい街で、水の上に浮いているようななんとも神秘的なところである。
昨日まではカザキも同行していたが、後衛が下手に手を出したりすると俺の練習にならないのでやることがなくなっていた。
その結果、今日は街で買い物をしてくる、と言って別行動になったというわけだ。
いつの間にかお日様も夕暮れに顔を変えている。
俺もそろそろ街に帰るか・・・
夜空に星々が顔を出し、街全体が明かりを帯びてまた一段と賑わってくるこの時間帯。
俺とカザキは夕食をとるため街角の、人通りの少ないレストランに来ていた。
なぜ人が少ないところが良いかというと、単純に俺もカザキもあまり人混みが好きではないからだ。
ボスを倒しこの街に来たときには誰1人と人がいなかったので、この町をのんびり堪能できるな~などと思っていたのだが、ボスを倒した者だけが次の街に入れるというわけでもなかった。
ボスが倒されたことが2時間後にアナウンスとして入り、全プレイヤーが次の街に行けるようになったのだ。
「ちょっと長く戦いすぎてませんかねぇ~?」
カザキは不満げな声をあげながら、不満げな顔で、不満げな上目遣いで、こちらを見てくる。
どんだけ不満あるんだよ・・・と声には出さないように努めた。
「で、大鎌は使い慣れてきましたか?」
「まぁまぁかな?一応俺とカザキの2人の時に使えるくらいには仕上げておいた」
「なんで私といるときだけしか使えないんですか・・・」
彼女はクスっと笑いつつテーブルの上に置かれた魚のムニエルのようなものを口に運び、「おいし!」と小さく声を上げた。
「この鎌大きすぎて前衛にいる味方ごとざっくり切りそうになるんだよな。でもカザキは後衛だから気にせず鎌振れるし良いかなって。まぁ、今後ボス攻略の時に支障が出るかも知れないけどな」
この鎌の問題点は範囲のでかさにある。
威力は高い。だがモーションの大きさとこのクソでかい範囲のせいで小回りは絶望的だ。
今まで避けれていた攻撃も体をかするようになってしまったのは言うまでも無い。
「何か良い感じに鎌のデメリットを消せるスキルないかな?」
と言いつつ両生類?の肉を一口食べる。
ぶよぶよしているかと思ったが現実で言う、コンビニの鶏皮串のような弾力だったので少し感動した。
「これ、この街で売ってたスキルの写真です」
カザキから写真が届く。
《水泳》《鑑定》《料理》・・・といろいろあるがその中の《軽業の心得》に興味を引かれた。
大鎌は小回りがきかず、攻撃を欲張りすぎると被弾が多くなってしまう。
なので、そこをリカバリーできるのが《軽業》にあるかも知れないと思ったからだ。
「カザキ、スキルの詳細はわかるか?」
「あ・・・写真撮ってくるの忘れました・・・」
・・・明日見に行こう。
午前9時、今日は嫌な天気で雨が降りそうな雲が流れている。
現実なら朝のニュースをしっかり見ていくところだが、あいにくこの世界には天気予報などというものは存在しない。
「そいえばカザキって何個スキルとってるの?」
スキル屋につくまでの話題として、それとなく聞いてみる。
「7個ですかね。《長弓の使い手》《氷結魔法》《閃光魔法》《旋風魔法》《料理》《暗視》《視力強化》の7つです」
「別に言わなくても良いけど・・・」
と苦笑しながら俺は答えるが、明らかに俺のスキルは少ない。ここで1つか2つ増やしておいた方が堅実だ。
そんなことを話している内にスキル屋に到着する。
《軽業の心得》はあるかな・・・?
ある!!
早速効果を見てみる。
《軽業の心得》・・・体が柔らかくなり、体が軽くなる。アクロバットな戦闘が行えるようになる。
・・・なんともしっくりこない説明文だ。
だが、俺はこの説明にも興味がそそられた。
この雑な説明文のスキルって実は当たりスキルなんじゃないか?
気づいたら俺は《軽業の心得》を買っていた。
スキルを買った直後、俺たちはエルムテルダムの西の方の湿地帯を探検していた。
「やっぱここら辺は両生類っぽいモンスターが多いな!」
____________________
スワンプ・リザード Lv.8 魔獣属
ミ=ゴ Lv.9 ???
ミ=ゴ Lv.9 ???
____________________
「空飛ぶカニ・・・みたいなやつも気持ち悪いし、変な動きしてるし、何かうなってるしで最悪です!!」
先ほどからミ=ゴというモンスターがわずかながらに言葉を話しているようにも聞こえる。
ノイズのようになっていて実際話しているのかどうかは定かではないが。
だがその仮説が正しいというかのように、先ほどから非常に厄介な連携をとってくる。
俺はヌメヌメのトカゲのようなスワンプ・リザードに対して回るように踊りながら切りつける。
大鎌は、先端部の刃の重量で攻撃するので必然的に遠心力が必要になる。
少し難しいが《軽業》のシステム的助けも相まって、回転しながら振るえば結構な威力となる。
以上の理由から、遠心力の乗った大鎌によって切りつけられたトカゲは、その流れに乗った2撃目でその体をポリゴンに変えた。
あとはミ=ゴ2体・・・
カザキが、新たに覚えた魔法「ツイスター」でミ=ゴがこちらに来ようとするのを防いでくれていた。
「トカゲは倒した!魔法を解除して弓に持ち替えてくれ!」
「了解!」という声と共に竜巻は消え、様々な属性の矢が飛んでくる。
が、ほとんどはミ=ゴに避けられてしまっている。
こいつら、やっぱり他のモンスターとは出来が違うな、???っていうのも一体何なんだ。
考える隙もくれず、ミ=ゴが2匹で襲ってくる。
「ウォーターボール」
俺はすかさず手前のミ=ゴに水の玉をぶつける。
「領域魔法」
直後、そのミ=ゴは凍りつく。だが、すぐにその氷は破られた。
その一瞬だけで時間を奪えれば良い。
「とった!!」
俺は1発目の斬撃で両方のハサミを切り落とし、勢いそのままの2連撃目で首をそぎ落とした。
制止した俺に対し、もい1体がチャンスと言わんばかりに攻撃しようとしてくる。
瞬間、カザキによる光の矢がミ=ゴのハサミを貫通した。
驚いたミ=ゴは動きを止めるが、次の瞬間には氷の矢が頭に突き刺さっていた。
やはりこいつらは出来が違うのか、ポリゴンになる前に少しバグのような、ノイズのようなものが入った。
____________________
ショゴス Lv.9 ???
ショゴス Lv.9 ???
____________________
「なんだこいつら!?気持ち悪すぎる・・・!?」
それは黒っぽく、2メートルほどのとても大きいなまこのようであった。
だが、体はいくつかの小泡でできており不定形である。
そして何より臭く、不気味に、緑色に輝いているのである。
カザキは気持ち悪さのあまり、その場から動けないでいる。
―――これをデザインしたやつ、絶対どうかしてる・・・
「こいつは動くのが遅そうだ!逃げるぞ!」
半ば悲鳴ともとれる声でそう言った。俺も恐怖していたのかも知れない。
だが、カザキは動かなかった。否、動けなかった。
「クソ・・・」
俺はカザキを抱えて街の方まで全力で走った。
頼む、追ってきてくれるなよ・・・
幸い、そこまで奥深くに行っていたわけではなかったのでなんとか街の周辺までたどり着くことが出来た。
「カザキ・・・大丈夫か?」
「ごめんなさい・・・もう大丈夫です・・・」
「絶対大丈夫じゃないな、それ」
カザキの体は未だに震えていた。
俺もあの生物のことは思い出したくはない。あんなおぞましい生物、いやそもそもあの場所は何だ?
明らかにモンスターのデザイン、そしてAIがおかしいように感じた。
その証拠に、そいつらは???と表示され死んだときには少しノイズが発生した。
あれは明らかにおかしい・・・が考えることは後にしよう。
俺はカザキを抱きしめた。
前に死にそうになったときも、俺で安心してくれた。今回も俺の体で安心できるのなら、いくらでもこの体を使おう。
カザキの体の震えは少しずつ収まっていく。
「ごめんなさい・・・私・・・ボスとの戦いの時から全然役に立って無くて・・・今回も足手まといになって・・・」
「そんなことないさ。最初に助けてくれたのは君だっただろ。君がいなきゃ死んでいたのはこっちも同じさ」
「でも・・・」
「俺は君と冒険したい。それは君も同じだろ?ならそれでいいじゃないか。仲間がピンチになったら助けるのがパーティだろ?あと、足手まといなんて1回も思ったことないからさ。ゆっくりで良い、また冒険できるようになるまで俺は待つよ」
カザキは我慢が出来なかったのだろう。その目から大粒の涙が流れていた。
俺は心に誓った。2度とパートナーを傷つけさせない、と。
不定期更新になりそうです。
頑張って更新します。