第四話
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クレン/人族 Lv.4
skill/《槍術の心得Lv.3》《氷属性魔法Lv.2》《観察Lv.1》《暗視Lv.1》
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街の中の雰囲気は未だにどこか暗く、それとは明らかに不釣り合いな陽気なBGMが、NPCによって演奏されていた。
さすがに今日は疲れたな・・・。
デスゲーム初日。普通ならもっと慎重に動くだろう。
本当に自分が戦うことができるのか、もし負けたら・・・、ということも頭によぎったが、この世界の美しさ、そして楽しさには敵わなかった。
俺はその決断に一切の後悔はない。
「ぐ~~~~」
しばらく今日の内に体験したことを振り返りながら細い路地を歩いていると、自分が今、この世界に来てから何も食べていないことに気がついた。
「この世界でも、腹は減るんだな・・・。」
「なぁ、君・・・」
ふと、路地の隙間からこちらを呼ぶ声が聞こえた。
振り向くとそこには身長170センチほどの、100人中100人が美人だという、スタイルの良い、紫髪の女性が立っていた。
「・・・一緒にご飯食べない?」
・・・はぁ!?
「私の名前はFaker、よろしくね!」
そう言いながら、テーブルの上にあるパンや肉などをむさぼり食うその姿は、先ほどの美女だとは思えなかった。
「君も冒険に出たんでしょ?」
なおもむさぼりながら、尋ねてきた。
「まぁ・・・」
「なのに初期装備なのは珍しいね。もしかしてMMORPG初めて?」
「・・・そうですね。しっかりやるのはこれが初めてです」
「じゃあ、お姉さんが特別にいろいろと教えてあげるよ」
いつの間に食事を終えたのか、口をナプキンで拭い、向かい直してからそう言われた。
その後、武具店の場所、スキルは10個までしか持てないこと、スキルは街で買えるものもあれば特別なイベントなどでとれることもある、ということを教えてくれた。
「あのFakerさん・・・」
「Fakerでいいし敬語じゃ無くてもいい」
「・・・Fakerはなんでそんな親切に教えてくれるんだ?」
「はやくこのゲームをクリアしたいからさ。私はベータテスト上がりでここら辺のことも知ってる。いろんな人に教えてあげたいが、初日からデスゲームと宣言されては心が折れる者もいる。弱い者に無理矢理教えても死ぬだけだからな」
「優しいんでs・・・だね」
「ここまでは建前だ。本音は単純に面倒くさい。そして、私は基本ソロでもくもくと進める人なのでな」
「でも、俺に教えてくれたじゃないか」
「君に少し興味を持ったからな」
急に敬語を外せと言われてもぎこちなくなってしまうだけだ・・・と内心思いつつも相手がそういうので頑張って外す。
色々と教えて貰ったり、話している内にもう0時になっていた。
「っと0時か、すまない、ここでお別れだ。もう少し教えてあげたかったが、後は自分で冒険しなさい。」
そう言うとすぐにFakerは俺とは違う道に逸れて歩き始めた。
俺も今日教わったことを忘れないためにも、早く眠ろうと思った。
翌朝、Fakerに言われたように初期装備から武器を変え、余った金でポーションを買い、再び草原へと来ていた。
狩りをを開始しようとするが、昨日に比べて草原にいるプレイヤーは多い。
一日気持ちの整理をしてから、すぐに行動してきた勇敢な戦士だと思った。だが、それと同時にやりにくさもあった。
俺は自由気ままにプレイしたい。
もちろん攻略することも優先だが、まずはこの世界を楽しみたいのだ。
パーティメンバーができるとなると、目的が合わない、というのか意識の違いから関係性がこじれるかもしれない。
そう考えた俺は、一人で静かに狩りができる場所へ向かうことにした。
「結構暗いな・・・」
今は夜。見上げてみると満点の星々がこちらに輝いて・・・いることはなく、入り組んだ枝や葉によって空が覆われている。
ここは草原を越えた先、セグメール大森林。
草原の敵は結局スライムとオオカミの2種しか確認できなかったので、近くに沸いた敵だけを倒しながら一直線に進んできたのだ。
「行けるところまで行ってみようと思っていたが・・・夜になってしまうなんてな・・・」
暗視のスキルが働いているのか、なんとか見えてはいるが非常に不気味である。
「街に戻るのは無理そうだな・・・」
かなり進んできてしまっている。今から街に戻るとなると今日の頑張りがなくなってしまうような気がした。
息をつき、木陰の影に座ろうとする。
そのときだった。
遠くからものすごいスピードでこちらに何かが突っ込んでくる音が聞こえた。
すぐさま立ち上がり真横に転がる。
強い衝撃がさっきまで自分がいた木にぶつかった。
そこには、イノシシがいた。
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フォレスト・ボア Lv.3 魔獣属
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こいつの突進は・・・速い。
さっきの一撃を見れば速度はもちろん、威力も今までの敵で一番高いと言うことがわかる。
イノシシは振り返り、右前足を4回地面を蹴り、こちらへ突進してきた。
またも間一髪、避ける。
これを何度も繰り返す内に、イノシシの攻撃技は突進だけであること、突進は曲がることができず、直線にいなければ大丈夫なことがわかった。
「今度はこっちの番だ!」
突進に合わせ横ステップをする、そして、イノシシが通るであろう場所に穂を滑らせる。
何度も、何度もこれを行った。
相手の体力が残り一割になったとき、最後の一撃を入れようと俺は首に槍を突き刺した。
やはりまだ奥に押し込むことができない。急いで抜き、首を一刀両断した。
その瞬間だった。
「クァァァァァ!!」
上空から巨大なカラスが2羽襲ってきた。
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ダーク・クロウ Lv.3 魔獣属
ダーク・クロウ Lv.3 魔獣属
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「ぐぁっ・・・」
1羽のくちばしは俺の左肩を貫いており、もう1羽は右足のあたりを巨大な足で押さえている。
俺は・・・このまま死ぬのか・・・
スライム、オオカミ、イノシシとここまでうまくいっていた。
ソロでもやれると思っていた。
俺のHPゲージが赤いラインに到達したとき、一筋の光が見えた。
それは、大げさなことでも比喩でも、何でも無い。
光の矢が、1羽のカラスに突き刺さる。もう1羽には炎をまとった矢が刺さっていた。
2羽は驚き、攻撃された方を見る。
今しかない・・・。
俺への意識が消えたその一瞬、右手に握りしめた槍を肩側のカラスに突き刺し、左手でアイススピアを生成し、足側のカラスに向けて放つ。
2羽のカラスは逃げるように上空へ飛び立ち、再度こちらへむき直す。
だが、今度は突っ込んでくる気配はない。代わりに、2羽の羽に風が集まりだした。
あいつら・・・魔法も使えるのか・・・!?
すかさずアイススピアを唱え、後ろから放たれた氷をまとった矢と同時に放つ。
寸分の違いもなく、二つの矢は同時に2羽のカラスを貫いた。
「危なかったですね。助けられて良かったです」
その声のする方へ振り返って見ると、笑顔に弓を担ぐ少女がいた。
今は明かりがなければ漆黒の闇に覆われてしまうほど暗いというのに、その中でもしっかりと見える輝くような白髪が印象的だった。きっと《暗視》のスキルがなくてもこのように見えただろう。
俺たちは今、1本の大樹にもたれかかり座っている。
「先ほどは本当に助かりました。ありがとうございます」
「いえいえそんな・・・正直に言うと私もピンチでした。ここの森林に到着したのは良いんですけど、ポーションを使いたくしてしまって・・・どっちみちあなたに出会わなければどっちみち死んでいたかもしれません。」
助けたお礼に余っているポーションを分けてくれませんか・・・
命の恩人にそんなことを頼まれて断る人がいるのだろうか。俺は自分の余っているポーションの半分以上を、彼女に渡した。
「すいません、自己紹介が遅れました。私の名前はカザキといいます。よろしくお願いします」
「クレンです。こちらこそお願いします」
・・・・・・沈黙。
お互いに人と話すのが苦手なのか話題が浮かんでこない。Fakerさんのときはあっちが話題振ってくれたからしゃべれたけど・・・。
「あの・・・」
カザキが顔をこちらに向け、何かを話そうとしている。その目は不安の感情で満ちていて、少し口がよどんでいる
「パーティを・・・くみませんか・・・?」
カザキは今にも消えそうな声でそう言った。
「正直に話します。私はソロである程度は行けると思っていました。序盤のスライムやオオカミは順調でした。でも、ここのイノシシやカラスは私1人だと対処ができません。すいません、この森を抜けるまで付き合ってくれませんか・・・?」
「こちらこそ、よろこんで。実は俺もさっきの戦いの時に気づいたんだ。ソロだと無理かもなって。こちらも断る理由は無いし、2人でこの森を抜けよう。」
この人は俺と同じ感じがする・・・この森を抜けたら聞いてみよう。
「アイススピア」
「・・・フッ!」
俺とカザキは、基本モンスターを近づけさせず中距離から攻撃し、寄ってきた敵を俺が槍で捌く、という一般的な前衛、後衛で奥まで進んでいった。
「敵が強くなってますね・・・」
「そう感じます。《観察》持ってますか?」
「見る限りレベルが全体的に上がってますね、あと数が多い!」
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ダーク・クロウ LV.5 魔獣属
ダーク・クロウ Lv.4 魔獣属
フォレスト・ボア Lv.4 魔獣属
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カラスはある程度カザキに任せて、俺は地上のイノシシを素早く倒さなければいけない。
「アイスコーティング」
槍の先端に氷魔法をかける。スキルレベルが5になり、新しく使える魔法が増えた。
切れ味が上がり、斬撃に氷属性が付与される。
イノシシを躱しつつ着実にダメージを入れ、仕留める。突きではなく、首をはねることで。
ここまでの戦闘でいやでも理解した。俺は突くことが下手なのである。
槍のリーチは生かせていると思っているが、最大限に活かしているとはとても言えない。
新しい武器のスキルとってみるかな・・・と考えていると、あちらもカラスの1匹を仕留めたようだ。
「ライトニング」
俺がアイススピアを残りのカラスに放とうしたところ電撃をまとった矢がカラスに突き刺さり、ポリゴンになって消滅した。
やはり今の俺では彼女より弱い・・・もっと強くならないと・・・。
そう思い、自分に渇を入れ、気を引き締めて奥に進むのだった。