第三話
草原を駆けていると、不意に地面が動き出す。
急いでバックステップし、槍を構える。
眼前には、知識の一欠片も感じさせることのない、粘性のあるドロドロな土と、草原の草、花が混じったような1メートルほどの不定型なモンスターがいた。
いわゆる、スライムだ。
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グリーン・ジェル Lv.1 スライム属
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対する俺の槍は、長い柄の部分はすべて木材でできており、金属部分は穂の部分だけの初期装備である。
ずいぶん頼りない武器である。スライムの体に絡め取られたら折れてしまうのではないか?
そんなことを考えていると眼前の緑の物体は攻撃のモーションをとりはじめる。
「ハッ!」
瞬時、俺は周りに他の敵がいないことを確認し、槍でなぎ払った。
序盤の敵だからかスライムの攻撃は遅く、飛びかかりを避けつつ横一線を入れることに成功すると違和感に気がついた。
あまりにも手応えがなさ過ぎたのだ。その証拠に、スライムのHPは全くといって良いほど減っていない。
だが、攻略法は理解した。
なぎ払ったとき、わずかに堅いものに触れたのだ。それが核だとすれば次の1撃で仕留めることができる。
「オラァ!」
俺は臆することなくスライムに突っ込み、核があると思われる場所へ前体重を使い槍を突き刺した。
槍の先端では、核をパリンと砕いたのを感じた。
核を砕かれたスライムは、ドロドロと体が溶けていき、最後にはポリゴンになって爆散した。
「死ぬとこうなるのか・・・」
俺が死んだときもこんな風に、ポリゴンになって死んでしまうのだろうか。
現実味がない死に方というのが、余計恐怖を煽った。
スライム狩りにはだいぶ慣れてきた。
核を潰せば簡単に倒せることがわかったので、一撃目は核の場所を調べるためになぎ払い、核の位置がわかったところで突き刺す、というのがパターン化されてきた。
また、二撃で確実に倒せるためかなりの効率で倒せるが、経験値はおいしくなかった。
20体ほど倒しはしたが、未だにレベルは2である。
「そろそろ他のモンスターとも戦ってみるか、魔法も使ってみたいし」
スライムに対して魔法を放ってみたものの、表面が粘液で覆われているからか、今の低レベルの魔法では弾かれてしまったのだ。
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メドウ・ウルフ Lv.1 魔獣属
メドウ・ウルフ Lv.1 魔獣属
メドウ・ウルフ Lv.1 魔獣属
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メドウ・ウルフは群れで行動する小柄なオオカミであった。
親のような個体だけはレベルが2であり、そして少し大きい。
現実で言う中型犬から大型犬の間くらいの大きさであろう。
1対3か・・・。やれるかな・・・?
とりあえず、レベルが低い小型の個体から先に排除することにしよう。
俺は手のひらをオオカミに向け、魔法を唱える。
「アイススピア」
手のひらから生成された20センチほどの氷の矢は、子のうちの1体の横腹へまっすぐ飛んでいった。
氷の矢が突き刺さり、こちらを睨む。
親個体、そしてもう片方の子供が歩みを辞め、こちらを向く。
俺をその目で捉えると、親、続いて子の順に襲いかかってきた。
子のうちの1体は矢が刺さっているのでまだ動けないらしい。
1対2なら、勝機しかない。
親が噛みついてこようとしている。速度はあまり速くない。
「フッ・・・ハァ!」
親の攻撃を冷静に躱し、続いてきていた子の首に槍を突き刺す。
自分が攻撃されると思わなかったのか、回避はできなかったようだ。
親の追撃を予感し、子が突き刺さったままの槍の穂を今度は地面に突き刺し、その首をかっ切るのと同時に体を大きく反転させ、追撃を回避した。
子の1体はポリゴンとなって爆散し、親とはそれなりに距離がとれた。
奥にいる矢を受けた個体がまだ動けないことを確認すると、すかさず親にアイススピアを放ちつつ、側面に回り込む。そして、がら空きになった首に槍を思いっきり突き刺した。
突き刺しても俺の筋力パラメータが足らないのか奥まで突き通すことができず、突いた途中からかっ切った。
動けなかった最後の1体もやっとこちらに到着したようだが、もう遅かった。
その後、4つの群れを倒して気がついたのだが、やはりスライムよりも経験値の効率が良い。
スライムよりも戦闘に時間はかかるし、集中力はいるが、そのおかげか俺のレベルは4に達していた。
そして他にも、このオオカミたちは最低3匹以上、最高5匹で行動し、親はその群れの中でも1体だけだということにも気がついた。
オオカミをあらかた狩り尽くした後、気がつけばギラギラに光輝いていた太陽は、赤く黄色く、そしてわずかに黒を含んだ色彩を帯び、地平線の向こうに沈もうとしていた。
「本当に、現実のような世界だな・・・」
あちらの世界では3年も見えなかったこの綺麗な夕焼けが、デスゲームになってしまったこの世界で見れるとは・・・。
スクリーンショットを一枚撮り、まだまだ綺麗な景色をいっぱい見よう、と心の中で誓いながら、集中力を切らした俺はセグメールへ帰ることにした。
一日一本ペースで頑張ります。