1,かかる時間を逆算して課題出来ない人間だったもので。
吃驚した。
ただひたすら吃驚した。
私は通学途中の電車の中で寝ていたはずだ。
昨日、夜やればいいやと高を括っていた課題のレポートが思っていた以上に大変で、必死にパソコンと向き合うこと5時間。
ああ、何故もっと早くから手を付けておかなかったのかと後悔しても時が戻るわけではなく、無情にも時は進んでいく。
当然、睡眠時間なんてとれるはずもなく、あと一寸というところで遂にいつも家を出ている時間になってしまったため、朝食も抜きで必要なものをかき集め、全力疾走し電車に乗ったはずだ。
運の良いことに、今日は座席が空いていたから座らせてもらい、電車で揺られている間に眠気が限界に達し眠ってしまったのだ。
私の通う学校は終着駅で寝過ごすこともないからと安心していた。
ところがここはどこだろうか。
目を覚まし………………というか、起こされて目を開ければ、目の前に佇む品の良い女性は眼鏡の位置を直してから1つ息を吐き、授業が貴方に響かないのは私の責任もあるが、授業中にうたた寝どころかぐっすり気持ちよさそうに机に伏すのはいかがなものかと思うと発言した。
「………………授業中??」
電車から降りて学校までの道のりを歩いた記憶も、教室にはいいた記憶も何もないが、いつの間にかここまでたどり着いていたのだろうかと、起きてすぐの纏まらない思考の中、ぼんやりしながら考える。
………………が、しかしだ。
おかしい。
私は、先ほどの女性とは初めましてだし、何ならこの風景にも見覚えがない。
私の知らない人物に教室。
クラスメイトだって知っている顔が1人もいないし、何なら、きっと日本人じゃない。
金髪に茶髪、そこまでならまあ居るよなと納得できる。
しかし、赤に青、オレンジに紫……とにかく色とりどりの髪色をしている生徒たちも多く、先生風の女性もそれに対して何も言わず、私が爆睡していたことで一時止まった授業を再開しているのはおかしい。
うちの校則は結構厳しかったはずなのに。
しかも見慣れた黒髪が1人もいないし。
そう、この教室には黒髪の生徒が1人もいない。
私も何故か髪色が染まっていた、桃色に。
*****
授業終了と同時に、私は教室から逃げ出した。
いや、こんなへんてこな状況で最後まで授業を受けていたことが自分としても謎なのだが、本日の授業内容が『魔法の相性と属性について』といういかにもファンタジーな内容で、面白かったからいけない。
思わず最後まで聞いてしまった。なんなら、ノートまで書いてしまった。
まあ、そんなことは置いておいて。
私はトイレを探した。
トイレの鏡を確認しようと思ったのだ。
さらりと胸の下あたりまで延ばされた髪は可愛らしい桃色で、私の記憶している自分の髪色と似ても似つかないし、染めた記憶もない。
なんせパソコンで5時間必死に課題をしていたのだ。
そんな時間あるわけないし、あってもこんな色にしない。
純日本人顔、平安時代に出生して入れば絶世の美女だったと親に言われ続けたこの顔に、そんな可愛らしい色が似あうわけないのだ。
何かの罰ゲームだろうか、それともどっきりか。
トイレに駆け込み、鏡を見る。
桃色のウル艶ばっちりのストレートヘアーに、同じ色合いの瞳、粉雪のように真っ白できめ細やかな肌に鼻筋の恐ろしく通った花、薄く小さめな可憐な唇…西洋のお人形さんのような見た目をした可愛すぎる美少女がそこに立っていた。
私が手を振ればその少女も同じように動く。
頬を引っ張れば、その少女も頬を引っ張って此方を凝視していた。
まあ、つまり、彼女=私ということで間違いないようだった。
そして彼女の顔には見覚えがあった。
何故こんなことになっているのか、それは全くと言っていい程見当がつかないが、これだけは言える。
どうやら私は、以前やっていて大分ドはまりした乙女ゲーム『操り人形と真実の愛』の世界の登場キャラクターとなってしまったようだ。