プロローグ:始まりの街の「歌姫」
2053年、3月3日──その日とあるフルダイブ型VR機器…通称“Θ”の待望のゲームソフト1作品[時を駆け時空の狭間で絆を紡ぐ物語]がΘ製造元、「オラクルホープ社」より販売されたこのゲームは“五感”を極めて現実を再現させたフルダイブ型VRMMO…舞台は架空の異世界“ミスティア”。
中世ヨーロッパ風の街並みの、幻想世界から始まるまるでアニメの中をキャラ(アバター)に成りきって冒険するような…そんな世界で、プレイヤーは様々な自分だけの物語を紡いでいく──…。
ある者は勇者となり、世界を救わんと立ち上がり義憤に刈られ愚王を討たんとレジスタンスになり、愚王軍との戦争──…、
或いはただひたすらに研鑽を。強者との血湧き肉踊るドキドキハラハラする闘争を──、
またある者は自分が「商会」を開きゲーム内でやがて一大企業へと成功を果たし──、
またまたある者は魔物使いとなり多くの従魔と共に「自分だけ」の空間…プレイヤーエリアでのんびりスローライフをまったり過ごす──、
…或いはゲーム内で画家になったり、大道芸人になったり……。
遊び方は十人十色。楽しみ方も十人十色。
ストーリーはあるが街に行くだけなら初手からも可能である、と公式でも言っていたこのゲームを購入した少女──あ…、いやーー、「花巻深月」は18歳のこの年の2月に高校を卒業したばかりである。
「…このゲーム、ゲーム内で稼いだ金を現実でも使える通貨に換金できるシステムがあるから購入したのよね~。……。…そう、だな…「歌」で稼ごうか。歌うの好きだし」
…今の時代は満18歳であれば親の許可無くとも子供側が自由に住民票を変えたり出来るし、希望すれば例え身内に不幸があったとしても役場で現住所を家族には「完全秘匿」してくれる。
勿論酒も煙草も自由だし、自動運転の自動車が主流となった今自動車も例え無職でも簡単に持てる。(購入だけが全てではない)
…審査に必要なのは満18歳を示すマイナンバーカード(顔写真付き)の提示とリース契約(年毎に更新手続き有り)。
ガソリン──と言うか電気自動車か水力自動車のどちらかで迷うくらいだ。
前者はオール電化な為、電力の消費が激しいがソーラーパネル搭載型の車ならばその点は改善される。
後者だと水を電気で燃焼して燃料にする為モーター部分は常にオーバーヒートぎみ…正直その度に車内が常に蒸し風呂状態。
モーターを冷やす為の通気孔や冷却弁の設置が必須(=見た目がかなりゴツくなる)。