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最終話 カズヒトのいない世界で

 ━━━━決戦の日から11ヶ月。


「チャリーンさん、もうすぐだよ! 頑張って!」


「ええ、わかったわ……ううううう……! こんな痛み……人生で初めてよ……っくうううう……」


「チャリーンさん!」


「もうすぐですよ、ほら、顔が見えてきましたよー! あとちょっとなので頑張って下さいね!」


 あれから1年。ここはチャリーンさんの家。


 私は、一生懸命チャリーンさんの手を握り、出産の応援をしていた。


 カズヒトがいなくなってからというもの、私もチャリーンさんも、大いに凹んだ。


 約束したのに……星を、私たちを救うため、命をなげうって……。


 1人っきりだったら、とっくに命を断っていたような気がする。


 でも、チャリーンさんがいた。


 同じ人を愛する2人。


 カズヒトが生きている、とひたすら信じ、ずっと待ち続けた。


 色んな場所を探した。


 でも、カズヒトはどこにもいなかった。


 もうカズヒトに会えないのだと思うと、とても辛かった。


 だが、カズヒトがいなくなってから数ヶ月後、チャリーンさんが妊娠していることがわかった。


 チャリーンさんも、カズヒトさんとは数えるほどしか結ばれていないと言っていたが、奇跡的にそのタイミングで妊娠していたのだ。


 残念ながら私はしていなかったのだが、とにかく喜ばしいことだった。


 チャリーンさんも、チャリーンさんの子供も、カズヒトが守ろうとした、守ってくれたかけがえのない存在だった。


 悲しみに暮れる日々ではあったが、私にも、また生きる理由ができたのだった。


 子供を産んだら、チャリーンさんは今まで通り動くことはできない。

 私も家事や子育てを手伝い、もし、脅威が迫った時は、それを私が排除するのだと。


 そう誓ったのだった。



 ……


 …………


「おめでとうございます! 立派な女の子ですよ!」


「ホギャァァァ! オギャアアァァ!」


「や、やったわ……やったわアルカちゃん!」


「おめでとう! おめでとうチャリーンさん……」


「ありがとう……アルカちゃん……カズヒトにも……見て欲しかったわね……うっ……」


「チャリーンさん……」


 私もチャリーンさんも、またボロボロ泣き始めた。


 いけない、こんなことじゃ……明日からまたこの子を、育てていかないと。強くて立派で、清く正しい娘に……でも……


「うっ……うわぁぁぁぁあああ」


 溢れ出すと、もう止まらない。


 赤ん坊の泣き声にも負けないくらい、泣き始めてしまった。


「ご、ごめんなさい、チャリーンさん……グスッ……嬉しいのに、チャリーンさん、おめでたいのに……涙が……止まらなくて……」


「い、いいのよ……私だって……うぅっ……今日だけ、今日だけは、一緒に泣きましょう……明日からは、この子の、この子のために泣かないようにするんだから……」




 それから、チャリーンさんとひたすら泣いた。


 声が枯れそうになるまで。


 いや、これ……は……枯れてるかな……。


 ははっ……元ドラゴンだったのに……弱いね……私も…………



 チャリーンさんと、赤ちゃんと、私の3人で、川の字になって眠りについた。



 幸せな……夢を見た。


 チャリーンさんと、チャリーンさんの子供。


 私と、私の子供。


 そして、カズヒト。


 5人で海に出掛けていた。


 5人で、森の花畑に遊びに行っていた。


 5人で、新しい家にお引っ越しをした。


 とても、とても楽しい日々だった。


 そんな夢を見ていた。



「ンギャァァアアア! ホギャァア!」


 ビクリ! と、身体を起こす。


 そうか……チャリーンさんの赤ちゃんが……。


「はーい、よし、よし、よーしよし、どうしたのかなー?」


 赤ちゃんをあやしてるチャリーンさんに、


「ミルクかなぁ? 用意しようか?」


 と聞くと。


「ごめんなさいねアルカちゃん、お願いできるかしら?」


 と返答がある。もちろん、と答え、台所へ向かう。


 夢を見ている時、何かをしている時だけは、カズヒトがいないという現実を忘れられる。



 魔道具に灯りをつけ、歩く。






「ぺねとれぇしょんわぁぷ」




「? チャリーンさん、何か言った?」


 後ろを振り返り、チャリーンさんに尋ねる。


「よーしよし、え? 私? 何も言ってないわよ?」


「でも、今、何か聞こえたような……」


 もう一度振り返り、前へ目を向けると、台所のテーブルの上に赤ん坊が座っていた。


「や、やぁ……ある……か……じゃ、ない……か」


「えっ!? 誰!? 喋った!? なんで」


「アルカちゃん? どうしたの?」


 訝しげな顔のチャリーンさんがこちらに歩いてくる。


「え!? 赤ん坊!? どこから入ってきたの!?」


「わからない……気付いたらここに……」


「わ、ちゃ、りーん……ちゃ……ん、ひさ……ぶり」


「何この子? なんで私の名前を知ってるの??」


「お、おれ……だ……よ……かず……ひ……と」


「うそっ!? いや、でもそんなはずないわ! カズヒトはもうこの世にいないし」


「うん、こんな赤ん坊のはずがない!」


「はは……そう……だな……」


 たどたどしい言葉で懸命に何かを伝えようとしてくるのはわかるのだが、目の前の赤ちゃんがどう考えてもカズヒトとは結びつかなかった。


「ちゃ、りぃ……ん、ちゃん……しか、しらない……こと……あ、おっぱい……114」


「!? そ、それは……! カズヒトしか知らないはず!!?」


「え!? チャリーンさん、それほんと!?」


「ええ、子供が産まれる前のだけど」


「じゃあ、ほんとにこの赤ん坊は!?」


「ある……か……は……もと……どら……ごんで……あ、これ……はほかにも……しってるか……じゃあ、ちょっと……しんどいけど……これをみて……ふぉるどわぁぷ」


 アルカとチャリーンちゃんの見ている前で、台所のテーブルから居間へと瞬間移動をする。


「な!?」


「これはカズヒトの!?」


「そう……だよ。ただい……ま……」


「カズヒトォォォォォオオオ」


「カズヒトなの!? ほんとにカズヒトなのよね!? 嘘じゃないわよね?」


 2人とも号泣しながら俺に抱き付いてくる。


「わっぷ……く、るし……い」


「ご、ごめ”んなさ”い”……でも、どうして今まで……」


「カズビドォォォ ワァァァァアアン」


「ちょ……っと、せつ……めいする……ね、しま……ったな。じゅんばん……まちがえ……たや……ちょっと……まってて……」


 しっかり握り締めていた収納袋から、マナポーションを取り出し、


「タイムイズマネー」


「キャンセル」


「タイムイズマネー」


「キャンセル」


「タイムイズマネー」


「キャンセル」


 ………


 ……


 時間跳躍とキャンセルを繰り返し、無理矢理歳を重ねる。


 7年分くらい進んだか。これで8才だ。



「ふ、ふう……ようやくこれでまともに喋れる」


「カズヒト! 今までどうして姿を見せなかったのよ!」


「ひどいよカズヒト! なんでずっと隠れてたの!」


「わぁぁ、ごめん、ごめんよ! でも、どうしても今日まで無理だったんだよ! 説明するから怒らないで!」



 ざっくりと、2人に状況を説明する。


 ・決戦の日、超コストカット術・反転を使ったことで、俺の年齢が生後間もない状況になってしまったこと

 ・2人にすぐに会いに行きたかったが、言葉が喋れないため、魔術が使えなかったこと

 ・ダンジョン100階層にいたため、自力で上にあがることができなかったこと

 ・収納袋から水や食料を取り出し。かろうじて生きながらえたこと

 ・ようやく言葉が喋れるようになったため、真っ先にここへワープしてきたこと



「そう……なの……大変だったわね。カズヒトが、この星を……私たちを守ってくれたんだものね。ありがとう。でも……」


「うん……すごく寂しかった……」


「ごめん、でも、ああするしかなかったんだ……」


「ホギャァ! オギャァ!」


「あっ! よしよし、大丈夫ですよ~」


「そういえば……その赤ちゃん……もしかして……」


「ええ、カズヒトと、私の子供よ。あなたが守ってくれた、ね」


「そう、か……この子が……嬉しいな……すごく……。あ、でも……出産に間に合わなくてごめん」


「うふふ……もういいのよ。その代わり、2人目はしっかりいてもらうわよ」


「ああっ、ずるい! アルカも! アルカもカズヒトの赤ちゃん欲しい!」


「うっ!」


 賢者状態で1年近く過ごしたもんだから、色々と刺激が強い……早く大人の身体に戻さないと大変なことになりそうだな。






 俺の話は一旦これで終わりだ。


 読んでくれたみんな、ありがとう。


 ━━━━カズヒト・コート著


「世界で唯一のコストカット術師はあらゆるものをコストカットする~ドケチ!守銭奴!と罵られてパーティー追放?浪費家のお前らを今まで生活させてたのは誰だと・・ん?浪費家達をコストカットできたじゃないか!~」



 ━完━













「ん? これじゃだめだ長い! 長すぎるぞ! これもコストカットだ!」




 ━━━━カズヒト・コート著

「世界で唯一のコストカット術師はあらゆるものをコストカットする!」




 ━おしまい━





物語は以上となります。

次のページは作者の自己満足後書きとなっておりますので、不要な方は、読むのはここでストップして頂いても大丈夫です。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

あるかはわかりませんが、次回作があればまたお会いしましょう。

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