超コストカット術
「なんだ!?」
とりあえずアルカとチャリーンちゃんのところにいる分身体から、2人の様子を見る。
「アルカ! チャリーンちゃん! 無事か!?」
「だ、ダイジョブだけど、揺れが……立てない」
「無事だけど、これはなんなのカズヒト!?」
「わからない! あっ!?」
「どうしたのカズヒト!?」
「母さんが消えた!?」
「え!?」
「なんですって!?」
100階層で竜脈を守っていた分身から、自分の母が消え行く姿を目撃する。
「この揺れはもしかして……ちょっと行ってくる!」
「カズヒト!」
「あっ、カズヒト、私も」
2人の返事を聞く余裕もなく、100階層へとワープする。
「これ……は……」
ダンジョン100階層にある第7竜脈の奥。
中から、暗く、淡い紫色の光が明滅していた。
「くそっ、なんなんだこれは? 前にここにきた時はこんなんじゃなかった……ってことはどう考えても竜脈に異変が生じている……なんだ……思い出せ……何か手掛かりがあるはずだ……」
ずっと続く揺れ……竜脈の異変……突然消えた母……
待てよ? 確か以前にアルカが……過半数が奪われるとヤバいとか言ってたような気がする……つまり、ランドダンジリスクの最後っぺで、5つ目の竜脈がやられたってことか!?
どうする……どうする……
このままだと、アルカやチャリーンちゃん、久しぶりに会えた母、離れて暮らす妹、街のみんな、誰もかれもみんな失ってしまう。
「くそっ! こんな人外ステータスがあったってなんにもできないじゃないか! 愛する人を守ることすらできないなんて!」
ドガンッ
と、拳を地面に打ち付ける。
血の滲む手を気にも留めず、呆然と竜脈を見つめる。
「父さん……俺……俺は……何も守れない……」
異世界の道具で久々に見た父の姿を思い出し、懺悔の言葉が口から溢れ落ちる。
「父さん……」
━━━「そして、あることに気付く。カズヒトは疑問に思ったことはないだろうか?」
━━━「しかし、変だと思わないか?
あらゆるものをコストカットすることができる
と書いてある割には、何もかもコストカットできるわけじゃないことがおかしいと思ったことはないか?」
━━━「そこがおかしいと気付いた時、俺は新たな道が開けた。スキルで指定されたもの以外でもコストカットできることがわかった。
ただし、そこには対価が必要だった。この世界の理を越えたものまでコストカットできるが、それには相応の対価が必要となる。そして、コストカットする対象を指定し、可能かどうか、何が必要なのかまでフル鑑定で選択肢表示させることができるようになったんだ」
━━━ふと、父の言葉が頭の中でリフレインする。
……待てよ……?
あらゆるものをコストカット……
あらゆる……もの……全て……なんでも……コストカット……
考えろ……
考えろ……今の状況を打開する方法……
……
…………
あらゆるものをコストカット……
そうか!
あらゆるものをコストカットってことは……まさか!?
この星エステラーを維持する為に必要なエネルギーが竜脈から確保されているのだとしたら……
それはつまり、この星を維持する為に必要なコストをカットすれば……!!!
【ピロン! ピロン!】
【エクストラスキル所持者により、隠匿されたパラメーターを認知されました】
【エクストラスキル 超コストカット術の機能制限が解除されました!】
【あらゆるものをコストカット可能になりました】
久しぶりに聞く音に、胸が跳ねる。
「フル鑑定!」
この星、エステラーに対してフル鑑定を行う。
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名前 惑星 エステラー
残り寿命 10年
説明 竜脈の汚染、破損により、星の生命力が著しく低下している状態。
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こいつは…………まずい!
残り10年だと!?
なんとか……コストカットできれば……
「フル鑑定!」
今度は自身にフル鑑定をかける。
レベル、HPやMP、防御力素早さ、なんにでもコストカットが適用されるような▼マークが横についていた。
さらに、コストカット魔術も数え切れないくらい増えていた。
「何か……何かこの状況を打破するためのスキルを!」
必死に探す……何か……あと一歩で届きそうな……起死回生のスキルを……
これだ!
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【超コストカット術・反転】
通常の魔術同様、呪文を唱えるだけで発動できる。
コストカット術でコストカット不可能なものが対象であってもコストカット可能。但し、同じ対象には一度しか使用できない。
自らの生命力を必要とし、対象のコストカット倍率に応じて自身の年齢が喪われる。
対象倍率 / 代償
10倍 / 10分の1
100倍 / 100分の1
1000倍 / 1000分の1
10000倍 / 10000分の1
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「一度きり……か……でもこれさえあれば……」
どうする……星の寿命は残り10年……
仮にアルカやチャリーンちゃんの寿命まで耐えられるように、って考えると100倍じゃ足りない……
星が崩壊してしまうだろう。
では1000倍なら……1万年はもつ、か。
1000倍で使うと俺の年齢が……ははっ、生後10日とかになんのか……1万倍なら1日だ。
どっちにしろ、即死だろうな。
でも、これさえあれば……
「アルカ、チャリーンちゃん」
「カズヒト?」
「カズヒト! 今どこなの!?」
「2人ともよく聞いて欲しい」
「カズヒト、早く帰って来て」
「ちょっと! 今どこにいるの?」
「ごめん、早くしないとまずそうなんだ……あのさ。この星にフル鑑定かけたら、この星の残り寿命が10年だってわかったんだ」
「「10年!?」」
「うん。どうやらランドダンジリスクのやつらに5つ目かそれ以上の竜脈をやられたらしい」
「そんな……」
「今からでも取り返せばなんとかなるんじゃないの?」
「奴らがまだどれくらい残ってるかわからない以上、根本的な解決にならないと思う。でも、大丈夫。俺のコストカット術がまた進化したみたいだから、それでなんとかなりそう」
「コストカット術が……」
「進化……」
「ああ、それで、この星を維持するのに必要なエネルギーを1万分の1にして、寿命を1万倍に引き伸ばそうと思う」
「そんなことが出来るのカズヒト!? すごいじゃない!」
チャリーンちゃんが喜んでいる。ああ、可愛いな……チャリーンちゃんも、アルカも、最高だ……。
「……それって、そんな……そんな力を使って、何の代償もないの?」
アルカが鋭く突っ込んでくる。
「…………」
どう答えたものか、返答に詰まってしまった。それがよくなかった。
「ちょっと! カズヒト! 何をしようとしているの!? 何か犠牲があるんじゃないの!? そのスキル!」
「カズヒト、答えて」
「…………」
2人から問い詰められ、言葉がなかなか出てこない。
「…………あー……その……うん……。ちょーっとだけ代償があって……その……なんていうか……。ちょーっとだけ生命力が……ね。必要みたいで」
「ダメよ! カズヒト! そんなの許さないわ!」
「アルカも、アルカもカズヒトの役に立つ! 協力するから!」
「とりあえず私たちをそこに連れて行きなさい! ここにカズヒトの分身もいるし、できるわよね!?」
「……ごめん」
「カズヒト! 私とアルカちゃんを守ってくれるって言ったじゃない!」
「カズヒト、待ってぇぇ」
アルカと……珍しくチャリーンまでボロボロ涙を溢している。
「ごめん……でも……きっとまた会えるよ」
地面……星に向かって、一世一代の大魔術を唱える。
「超コストカット術・反転! 対象、惑星エステラー、1万倍!」
星に向かって魔術を唱えると、自身からあらゆる力が抜けていくのを感じる。
やがて、分身を保つことが不可能になり、視界が消えていく。
自分の今見ている100階層の物だけになり、やがて……
薄れ行く意識の中、自分を中心とした光の奔流を目にする。
「ああ……スキルは……どうやら……ちゃんと……発動したようだな……よかった。アルカも、チャリーンちゃんも……守れ……た……」




