最下層・・?
荘厳な扉を慎重に押していく。
「んおっ!? やけに重いな……ぐおおおおお」
レベル1000越えのステータスに任せて扉を押していくと、少しずつ開いていく。
「お、お、おおお……」
気合いだ! 気合いで押せ!
「はぁ……はぁ……やっと開いた」
「やるわねカズヒト」
「すごいすごい」
「ははっ、ありがとう。まだ扉を開けただけだけどね。中にはどんなボスが待ってるかわからないから、気を引き締めていこう」
コクリと頷く2人を後ろに控え前に進むと、真っ暗だったボス部屋の内部に設置された松明に灯りが点る。
ボンヤリとした光に照らされた中央には、
「人影……?」
なぜか人間のようなシルエットが見えた。
ダンジョンだからと言って、別に異形なモンスターばかり出るわけじゃない。
人の形をしている敵も多く出現することは確認済だ。後は魔族とかも。
ただ、最下層(仮)で出てくるボスとしてはあまりに凡庸。
「なんだ? 魔族か……? 一体……」
いきなり襲いかかられてもいいように、少しずつ慎重に近付いていく。
すると……
「な!!!?」
「どうしたのカズヒト!?」
「カズヒト?」
「そ、そんな……なぜこんなところにいるんだ」
見間違えかと思うその見た目に戸惑い、驚愕する。
なぜなら、100階層のボス部屋に現れたのは、
「母さん……?」
10代の頃、父と共にダンジョンから帰らなくなった母の姿だったからである。
「え!? カズヒトのお母様ですって!?」
「あ、ああ……え? どういうこと? 母さん……なんだよね?」
もう10年以上……20年近くも会っていない母の姿に、確かに嬉しさもあるが、困惑の気持ちのほうが強い。
「カズヒト……ですか……大きく……なりましたね……」
「母さん!」
「ふふ……本当にごめんなさい……ね……ずっと行方不明になってしまって……どうしても……ここにいないと……いけなくて……」
途切れ途切れに喋る母は、どこか苦しそうだった。
「本当に……母さんなんだよね? えっと、その……どうして……いや、そうだ、父さん! 父さんは!?」
「ごめんなさい……私……はあまり……長く喋れそうもないの……詳しくはこれを……見て欲しいの」
「これは?」
「お父さんが……遺した物よ」
「父さんが……」
母から、板状の機械を渡される。
「ここで電源を入れて……そう、そしてこの部分を押すの」
これは……カジノで見た液晶というものに似ている。あれよりはだいぶ小さいが。画面に直接触れると色んな表示が切り替わる。
母に促されるまま、△の部分を押すと、そこには父の姿が映っていた。
「父さん!?」
「カズヒトのお父様……」
久しぶりに見る父の姿でさらに驚く。
「よう、カズヒト……久々だな。これを見てるってことは、ダンジョンの100階層まで攻略が終わったってことだな? まずはおめでとう! カズヒトならきっと成し遂げられると思っていた。
何しろコストカット術は元々俺のユニークスキルだったからな。それくらいはやってくれるんじゃないかと思っていたぜ?
だが、そこは素直に称賛したい。何しろあのスキルは最初はハズレみたいなスキルだからな……俺も若い頃は苦労したんだ」
「元々は……父さんのスキルだったって?」
どういうことだ……ユニークスキルは世界で1人しか持っていないものなんじゃ?
「おっと、俺のスキルがユニークなら、なんで自分も持っているのかって疑問に思ってそうだな。順番に説明してやるからしっかり最後まで聞いてくれ」
まるでこの景色を見ているかのように答えが返ってくる。
「さて、順番とは言ったが何から話すか……まずは俺、ハルト・コートは異世界からの転移者だ。たぶん、お前にも妹のナツミにも話したことはなかったはずだ。黙っていてすまなかった」
異世界……転移者? 父さんが?
「この星に転移して、そこにいるエステラーファ、つまり母さんだな。母さんに恋をして、ぶっちゃけて言うとやることやってお前が産まれたわけだ」
言い方ー……俺も人のこと言えないけど。あれ? そう考えるとやっぱ親譲りなんだなって思う出来事があれこれあるな……
「おっと、間をはしょりすぎちまった。そうなる前に色々あったんだが、まずはやっぱり違う星にきたってことで勝手がわからなくて困った。
なぜか言語は通じたんだが、文化も違うしモンスターはいるしで、わけがわからなかったんだ。何しろ俺が元いたチキュウという星ではモンスターなんていなかったからだ。
だが、モンスターを狩ったり、異世界に転移したりというファンタジー冒険譚はたくさんあった。そういう世界に憧れを持つものも多かったからだ。あ、ちなみに、読んでるかわからないが、この国の図書館とかに置いてる冒険譚のいくつかは元の星の作品を丸パクリして俺が書いたものも混ざってるぞ。
多分に漏れず、俺も若い頃はそういう冒険譚に憧れていたんだ。だからこの世界に来た時は、不安とかもあったけど、異世界転移きたぁぁぁああ! うぉぉおおお! って思ったもんだ」
「ゆ、愉快なお父様ね……」
「あは……は……小さい頃からこんな感じではあったよ」
久々に見る父の姿は相変わらずだった。
ってか冒険譚は父さんが書いたやつもあるだって!? どれとどれのことだ!?
「そして、真っ先にカネに困ったので、さっき言ったように冒険譚を書いて、稼いだんだ。ある程度お金を稼いだら、チキュウにいる家族のことが心配になってきてな……実は俺はチキュウに妻がいて、子供もいる。俺がいなくなったらどうなるんだと心配でたまらなかった……。
だが、帰る方法なんてわからない。なんでこの星にきたのかもわからない、一生帰れないんじゃないか? と不安に思った。いや、不安じゃない日なんてなかった。でも、これじゃだめだと思った。何か明確な目標を見つけなければ、と。
そして俺は、稼いだお金を使って冒険者になることに決めた」
それで父さんも冒険者に……
「この星の魔法や魔術を見ているうちに、もしかしたらこの辺りのスキルでなんとか元いた星に戻れる方法があるんじゃないか? と思ったのだ。
そして、この星では成人である14才になるとスキル伝授の儀を受けると思うが、そんな年齢とっくに過ぎてた俺はスキルがもらえないのかと思ってガッカリしたが、そもそもなぜか転移した時にスキルがもらえてたらしい。
それがコストカット術だ。最初はスキルがあってしかもユニークで、むちゃくちゃ喜んだが、あまりの内容のショボさにガッカリした。だが、そうじゃなかった。カズヒトもたぶん使いこなしてる頃だろうが、このスキルは進化するととんでもないチートスキルだってことがわかった。
チキュウに帰る方法は一向に見付からなくて焦っていたが、もしかしたらこのスキルならば……レベルが上がっていけばあるいは、と思ったんだ。
そこから俺はひたすらに、ただひたすらにダンジョンに潜り続けた。長い歳月をかけ、レベルを上げ続け、下へ、下へと潜り続けた。だが、ある日、転機が訪れた。70階層のボスである母さん、エステラーファに出会ったからだ。あ、今は別のボスに入れ替わってるけどな」
「母さんが70階層のボスだったって!?」
ど、どういうことだ!?
「はい……そうですね……その説明も……ありますよ」
わけがわからない。急に出てくる情報が多すぎだ。




