第9話
薄々感じ、気づき始めていたことがあった。
魔素についてだ。この正体不明の魔素の正体についてだ。この魔素の正体はおそらく"電気"だ。人類は電気を感知し、干渉できるようになったのだ。今更、魔素が電気と言われても違和感しかないので魔素と呼ぶが。
魔素の正体が分かったところで何があるのかと言われるかもしれない。だが、これは重要な情報で俺の死活問題となりえるものだった。未知の物質を扱うとなると何が引き起こされるか分からない、八方塞がりの状態だ。しかし、人類が気づき上げてきた物理に干渉できるとなると強力な武器かつ扱いやすいものになることに違いない。
おそらく、世界中の賢い者達は気づき始めているだろう。そこで問題となるのが干渉できる強さや範囲についてだ。残念なことに人類は微弱な力しか持たず、この能力は日常生活を営むために使用されているらしい。つまるところ、≪生活魔法≫と呼ばれている。
(俺が使っていたのはたかだか生活魔法だったのか、、、)
怜雄は凹んでいるが実はこの能力は個人差が大きく、多いものでさえせいぜい頑張って2、3kgのものを持ち上げるのが精一杯らしい。攻撃方法として使用できるのは異常なほどの力と言っても過言ではないが本人が気づくのはまだ先の話。
もう一つきづいたことがあった。
おそらくスキルは魔素によって引き起こされていることだ。
人間は魔素を感知し操ることができるが、スキルを使用する際、魔素を介していることに気づいているのは俺だけではないだろうか。
≪魔素を見ることができる能力≫
この力を得た俺はスキルの発動原理をある程度理解できている。
つまりスキルを持っていなくても発動できるんじゃないか?
檻の中から観察していて気付いたが、スキルは大きく分けて
・魔法系
・身体能力系
の二つに分けられる。違いは魔素を体内で利用するか体外で利用するかの違いだった。
様々な属性を持つ魔法系のスキルは物理法則を完全に無視して発動する。どうやらこれに関しては発動条件が魔素だけではないらしい。同じように魔素を操作するも発動しなかった。
しかし、特筆すべき点はもう一つ身体系のスキルだ。例えば身体強化のスキルは筋肉に魔素を流し、筋肉を活性化することで超人的な能力を得ると言ったスキルだ。これに関して言えば物理法則に反してはいない。少々人間が異常なだけであってなんら違和感のない現象なのだ。
もしやと思って試してみた身体強化は案の定成功した。テンションが上がって上にジャンプしてたんこぶができたのはご愛嬌だ。魔素で壁を作ってなかったら死んでたと思うけど。
これで俺の成長する方向性が見えた。
俺は生活魔法を鍛えて攻撃が通用するようにすることと、身体能力系のスキルを模倣して増やしていけばいいんだ。
強くなれる。その確かな実感は折れていた怜雄の心を元に戻すのに十分な活力だった。
「無能君、そろそろ死ぬ気になったかい?」
(栄養分がやってきた。さっさと俺が強くなる糧になれ!)
浮き浮きする気持ちを隠して、来訪者を待つ怜雄の眼は確かに狩る側の眼をしていた。