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第6話

「はじめまして高橋怜雄君、理事長をしている天宮寺 紫苑だ」

「えっ?」


この学校の理事長ということはすなわち天宮寺財閥のトップということだ。そんな人物が目の前にいるような若い人であるなどとても信じられない。だが、目の前の人物はそう言われてもどこか納得してしまう雰囲気があった。


「高橋、信じられないと思うがこの方が言っていることは本当だ」

「信じられないなんてひどいなぁ、まあそんなことよりここにわざわざ来てもらった理由を話そう」


そう言ってにやりと笑う天宮寺の笑みはとても悍ましいものに見えた。


「こんな世界になって私達が求めているのは何か分かるかい?」

「戦力、ですか?」


まだこの状況になれず困惑した状態のまま自信なさげに返す。


「そう、戦力だ。だが、戦力だけがこの世界に必要な訳ではない。日常生活を快適に送ることもまた重要なことなのだよ。これらを一挙に解決する方法がひとつだけある、それはスキルだ!」

「え、スキル?」

「知らないのかい?」

「はい」


スキル?何を言っているんだ?もしかしてあの記事に書いていた特殊能力のことか?

なぜ分からないのか分からないといった顔で俺を見つめる天宮寺は話し始める。


「知らないなら教えてあげよう、相良君」

「はい、分かりました」


この人、相良って名前だったのか。そんなことを思っていたら相良が衝撃の光景を生み出していた。


「水魔法」


そう呟いた相良の手の平には水の玉が出現した。明らかに物理法則を無視している。例のあの動画の青年が使用していたものと酷似したものだった。天宮寺達は魔法をスキルとよんでいるのだろうか


「見てもらったら分かるだろうが、我々人類は新たな力を得た。それは君も気づいていることだろう。それとは別に個々で違う能力を手に入れたのだ。例としては今の相良君の魔法だったり、強力な戦闘能力だったり、便利な家事能力だったりする。この力を私たちは"スキル"と呼んでいる」


どうやらあの記事の内容は古かったらしい。"スキル"と呼ばれる特殊能力は人類全員に発言したようだ。


(だとすれば俺の能力は?)


俺の疑問などつゆ知らず天宮寺は話し続ける。


「私はこの"スキル"を最大限生かす場所に人員を配置している、いわゆる適材適所だ。しかし、自分のスキルを正しく理解していないものもたくさんいた。そこで私のスキルが生きてきたのだ。私のスキルは"鑑定眼"、他人の能力が分かるスキルだ」

「なるほど」


なるほど、自覚していないパターンもあったりするのか。満ちかけていた絶望感が引いていくのを感じる。


「というわけで君の能力を鑑定してあげるよ。我々に有用かもしれないからね」

「あ、え、ちょっ」

「鑑定眼」


心の準備ぐらいさせろ、と言おうとする。が、止める間もなく天宮寺はスキルを発動してしまった。

やはり権力者というのは自分勝手なものなのだろう。どちらにせよ鑑定してもらうつもりだったので、意味があるのかは分からないが意を決してスキルに備える。


天宮寺の目に魔素が集まったのが、見えた。その目がが俺の目を射抜くように見つめる。

まるで自分の内部を覗かれるような不快感を覚える。

2、3秒経ち、天宮寺の目から潮が引くように魔素が流れていく。


「君の能力は"魔眼"だ」

「魔眼、ですか。な、なんの効果が?」

「魔素を見ることができる能力、だそうだ」


その瞬間、体が絶望で満たされていくのを感じた。

それが、能力?こんなこと誰でもできると思っていた。だが、そんなもの自分ひとりだけできる得意技がそんなものだなんて絶望せずにはいられない。せめて少しでも役に立つ能力でもあれば、そう思わずにはいられなかった。


「おそらく君の眼の色が特殊なのもそれが原因なのだろう」

「あぁ、眼の色?これは元からです。今までコンタクトで隠していましたが」


絶望の中、反射的にそう答えてしまう。

それは何をしても許してくれた優しい母が俺に約束した唯一の約束『眼の色を隠す』を破る行為だった。

しかし、絶望に囚われていた俺はそれに気づかない。ましてや悍ましい笑顔を浮かべる天宮寺に気づくはずなかった。

先程、相良が驚いた顔をしていたのはそれが理由かと場違いな事を考えていた。

その相良は今度はひどく失望した目でこちらを見ている。


「さて高橋君、君はどうやって私たちの役に立つ?」


そう言われても言葉は出なかった。

ここで戦えることを伝えていれば、何か変わっていたのかもしれない。

ここで逃げ出していれば、最悪の事態は免れた。

ここで選択を間違えなければ


「そうか、それなら役立たずは役立たずなりの役割を与えてやろう」


悪夢が始まることはなかっただろう。





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