第5話
真っ赤に染まる目の前の景色を見て、安堵の気持ちを覚える。こんな光景を喜んでしまったら普通の人間には戻れなそうだ。そんな場違いな感想を抱きながら、生きている実感を味わう。
「おいっ人がいるぞ」
久しぶりに聞いた人の声にずっと切り詰めていた糸が切れる。駆け寄ってくる音を聞きながら俺は意識を手放した。
◇◇◇◇
(ここはどこだ?)
目が覚めると知らない天井だった。
ここ最近気を失ってばかりいる気がする。でもこんな世界になってしまったのだから仕方ないか。
そこでなぜここにいるのか思い出す。ここにいるのはあの声の主が運んでくれたのだろう。
俺は一歩間違えば死んでいただろう。この世界で生きるということを本当の意味で理解したと思う。あの大蛇も元はただの蛇だったのだろう。俺を襲ったのも捕食という一つの生命活動に過ぎないのだろう。
少し落ち着いてさっきの戦いを振り返ってみる。まず、魔弾が認識された理由を知らなければならない。他の魔物も同じように認識されるなら、魔物に出会う度にあんな危険を冒さなければならない。あんな戦いを何度もしていては精神が持たない。
「魔弾」
魔弾を発生させ、今度は飛ばさずにじっくり観察してみる。
「熱いっ」
魔弾からは大量の熱が放出されていたのだ。蛇は熱を感知するピット器官がある。つまり、あの大蛇は熱によって魔弾を感知し危険から退けていたのだ。変わってしまったこの世界で変わった部分だけに目を向けてしまっていたのかもしれない。さっきの戦いで蛇は元々のピット器官を生かし、俺は人間が持つ知恵で蛇に勝った。
この戦いは命の危機を代わりに新しく得た能力に溺れないよう強烈な教訓となった。
「目が覚めたか、お前は気を失いすぎじゃないか?えーと、どこか体に異常はないか?」
聞き覚えのある声を聞き、目を向ける。そこには俺のクラスの担任がいた。
「ははは、大丈夫です。ここは?」
「っ!こ、ここは天宮寺学園だ。避難所になっている。お、お前もそれを聞いて来たんだろう?」
担任は目があった瞬間、驚愕した顔を浮かべた後、たじたじになりながら答えた。なぜそんな風になるのだろうか?血まみれだからだろうか?と思うが、返り血は綺麗さっぱり洗い流されていた。
問い詰めようかとも思ったが、止めておく。きっとこの人ははぐらかして何も答えてくれないだろう。この学園に入って何度も痛感したことだった。
「そうですね」
「そ、そうか。それならここの説明をしないとな、動けるか?とりあえず会って欲しい人がいるんだ」
「はい」
学生の性なのか反射的に返事をする。この人もそれを分かっていたのか返事をする前に動き始めていた。
保健室を出て向かった先は理事長室だった。
担任が扉を3回ノックする。
「失礼します」
「あぁ、入りたまえ」
尊大な口調の返答が聞こえてきた。担任はその声を聞き扉を開いた。
そこで待っていたのは、おそらく20代だろうと思われる整った顔立ち、肩まで伸ばした金髪。せいぜい4、50代のおっさんかと思っていた俺は呆気に取られた。
「はじめまして高橋怜雄君、理事長をしている天宮寺 紫苑だ」
やっと主人公の名前公開です!