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第4話

「まさか、あんなに威力があるなんて」


 部屋の中で飛び散った返り血と昂った気持ちを洗い流す。

 あの時、不安と恐怖心に駆られて過剰な力を注いでしまったことは明白だ。毎回のように敵を爆散していると避難所にたどり着く頃には返り血で血まみれになってしまう。血の匂いを嗅ぎつけて魔物が集まってくる可能性も大きいだろう。

 とにかく、あのマッチョネズミが魔物の中でどれぐらいの強さか分からないがなんとか避難所に辿り着くことはできるだろう。

 それと初めて魔物を見て気づいたことがある。これを利用すればより安全に避難所まで移動できるだろう。


「魔探知」


 先程試してみたのだが、魔法は声に出して発動するとより大きな効果が得られることが分かった。恥ずかしいことこの上ないが背に腹は代えられない。生存確率を上げなければならない。

 ちなみに「魔探知」というのは干渉できる範囲の魔素を周囲に飛ばし、生物を感知するといったものだ。先程の戦いでネズミを見ると魔素がより多く集まっていることが分かった。ネズミに魔素をぶつけた時、しっかりと何かにぶつかったという感触があったのだ。これを利用して周囲に魔素を拡散させ、生物がいるかどうかを知ることができることに気が付いた。


「周りに魔物はいないみたいだし、今度こそ行ってきます」


 そう言い残して家を出た。


 ◇◇◇◇


「魔探知」


 もう何度目か分からない。少しずつ効果範囲が広がってきているものの、疲労を感じ始め焦っていた。前にもあった魔素の使い過ぎが原因だと思う。急がないといけないことは分かっているが、木々と一体となったこの街は道路は木の根に侵食され、移動に苦労していた。

 どうやら、この街にはネズミが多いらしく何度かネズミを感知した。数匹は威力調整のために犠牲になってもらったが、疲労を感じてからは避けるようになっていた。2、3度ネズミより強いであろう魔物を見つけたが、恐怖心が勝ち逃げてきてしまった。おそらく犬や猫だろうと予想する。


 疲労からか慣れからかは分からないが俺はどこか安心していたのだろう。危険だとしても元の犬や猫、ネズミ程度が少し強くなった程度だと、危険は予想しうる範囲にある、そう思い込んでしまっていた。

 それらの動物はもともと危険な動物ではないにも関わらず。


 それは気配を消して潜んでいた。あと少し遅ければ獲物に気づかれていただろうそれは絶好のタイミングで獲物に飛び掛かった。

 こんな世界になる前から狩る側だった存在、蛇。


「シャアァァァッ!」


 魔探知をかけようとしたその瞬間、死角から巨大な蛇が飛び掛かってくるのが見えた。見えたというよりも感じたという感覚に近い。だが、そんな一瞬の気づきなど無意味な速度で大蛇は飛び掛かってくる。

 大きく開けた大蛇の牙は俺の首に寸分の違いなく届いた。


 ガキィィインッ

「ッツ!?」


 こんなこともあろうかと全身に張っていた魔素の壁、魔盾が役に立つとは思わなかった。大蛇は得体のしれないものであると判断したのかその体躯を存分に生かし飛びのいた。


(危なかった、今の噛みつきでもう体に張ってた魔盾は破れた。もう一度噛みつかれたらやばい)


 急に死が形作られた。それに怯えるようにどこか緩んでいた覚悟をもう一度引き締めた。

 距離を取った大蛇を観察する。大蛇は威嚇しているのか1m程立ち上がった状態でこちらを見つめている。丸太のような胴体に数メートルはありそうな体長。極めつけに長く発達したその牙は獲物を仕留めるためだけに進化したのだろう。

 動けばやられる、そんな予感がした俺は大蛇を見つめたまま魔素を操作する。


「魔弾」


 ボソッと大蛇には聞こえないように呟く。魔弾は一直線に向かい、不可視の攻撃は大蛇を仕留めるはずだった。

 魔弾が当たる直前、大蛇は避けたのだ。


「は?」


 咄嗟のことに理解が追い付かない。こちらの動揺を悟ったのか大蛇が動き出した。


(やばいやばいやばい)


 180度身をひるがえして逃げる。死の足音が後ろから忍び寄ってくる。

 魔弾を避けるような相手などいるとは思わなかった。とにかく何としてでもあいつに魔弾を食らわさなければならない。あいつは魔弾を避けた、ということは感知しているということだ。あいつに魔弾を当てるには避けられない状況を作るしかない。


(どうすればいい?考えろ、考えろっ!)


 大蛇がすぐ後ろまで追い付いてきた。そこには濃密な死の気配があった。

 振り返ると、大蛇がやっと獲物にありつけるといった喜びを前面に出しながら大きく口を開けていた。ヌルっとした表面、鋭く伸びた牙、奥にしまわれた舌。全てが鮮明に見えたとき、かつてないピンチがチャンスに見えた。


「シャアァァァッ!」


 大蛇が飛び掛かろうとすると同時、両手を前にして叫んだ。


「魔弾っ!」


 大量のエネルギーがそこに発生し、大蛇はなすすべもなく爆散した。






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