第3話
「あー、やらかした、、」
………一時間後
体中が運動した後のように火照っている。少し休むと筋肉痛のような痛みが全身を襲う。
今まで憧れていた魔法が使えるなんてテンションが上がってやりすぎてしまった。時間を忘れて自分の部屋をめちゃくちゃにしてしまうなんて。ファイアーボールの時の反省をこんなにすぐに忘れるなんて恥ずかしいかぎりだ。
とにかく今は避難所に向かうべきだろう。あの記事の後に書いていたがあの日以降生物が好戦的で危険な状態になっており、日本は緊急事態宣言が発令されたらしい。国民は避難所に行くように指示されている。
ここまで調べて気づいたが、どうやら俺は五日間眠っていたようだ。課外活動が4月12日で、今日は4月17日。人間は5日間も眠っていられるのか疑問に思うが、こんな体になった今些細な問題だろう。
「母さん、しばらく出かけます。戻ってきたら母さんの好きなお酒でも持ってくる」
少し休むと痛みは治まったので軽く身支度を済ませ、亡き母に挨拶をする。母は3年前に亡くなった。まだ完全に受け入れられた訳じゃないが、こんな状況だから気を強く生きていかなければならない。
俺の家から一番近い避難所は天宮寺高等学園だった。高校が近くにあるということがこんなに良かったと思うことはない。
正直なところビビっている。一時間夢中で練習した風魔法もどきが例の青年の火魔法の威力に差が分からない上に、実戦で例の青年のように冷静である自信はない。こんな世界になって生物自体が大幅に強化されているのだ。少しの油断が命に関わることは明白だ。
死んだら終わりなんだ。受験に失敗しても、借金しても、失恋してもそれで終わりじゃない、次がある。でも死ぬとそこで最後になる。次はない。
3年前それほどを身を貫くほど知った。
ナイーブになる気持ちを抑えて、意を決して玄関のドアを開ける。
「、、うわぁ、、」
思わずため息をついてしまうほどの美しさだった。目の前に広がるのは見慣れた景色ではなく変わり果てた景色だった。俺の家は山の上にあり、街を一望できる場所に位置していた。俺が知っている街の姿はそこにはなく、街には強大な大木が根ざしていてとても幻想的な光景だった。
どうやらあの日影響を及ぼしたのは生物だけではなかったらしい。その事実は本来恐怖すべきことだと頭では分かっていたが、目の前の光景に感動を覚えずにはいられなかった。
「ピギュウゥゥ!」
その一鳴きで水をぶっかけられたかのように肝が冷えた。反射的に振り返った場所には一匹のネズミがいた。たかがネズミと侮れないことはその体躯を見れば一目瞭然だった。初めてネズミを見たが、本来のネズミとは違い、目の前の個体は全身の筋肉が異様に発達しているのだ。
目が合うや否や真っすぐ突っ込んでくるネズミ。そのスピードは通常のネズミの数倍の速度はありその筋肉が伊達ではないことが伺える。
予想以上のスピードで突進してくるネズミに驚くも、その姿を追えている自分。きっとあの日の変化の影響なのだろうが、そのおかげで少しの余裕が出てきた。
「さっきやった通りにやればできる、焦るなおれ」
そう呟き自分自身を落ち着けた。元々覚悟はして、練習までしていたんだ。あとは実行するだけだった。
右手を前に突き出し、周囲の魔素に干渉する。ネズミの50cm前に魔素を壁のように集めていく。
「ピギィッ」
ネズミは壁にぶつかって倒れる。不可視の壁に全力でぶつかったのだから混乱もするだろう。
俺はその姿を横目に次の繰り出す準備をしていた。拳大のボール状に魔素を集めていく。雪を固めるように圧縮して固めてを繰り返す。
空間が歪んで見えるほどになった時、ネズミをターゲットにそれを発射した。
ーーーーパァァアアンーーーー
「え、、?」
それがぶつかった瞬間、ネズミは乾いた音を立てて爆ぜた。周囲に大量の血液を飛び散らせながら、、
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