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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第三章 水の都 海底に渦巻く狂乱編
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95話 搔き乱す者の戯れ


 スキュラエンプレスとの戦闘後。

 ポロはパルネの膝の上で目を覚ました。


「ポロちゃん! よかった、水の中から出てこないから心配しました」


「んん……パルさん」


 ポロは「ふぃ~」と声を絞りながら体を伸ばし、辺りの様子を窺う。


「ここ、どこ? だいぶ明るい場所にいるけど」


 浄化魔法を唱えた後、例によって強烈なめまいと同時に意識を失ったポロ。

 再び意識が覚醒した頃には、すでに地下水路から脱出した後だった。


「分かりません。ポロちゃんを抱えて水路の上を飛んでたら、たまたま別の階段を見つけたので上ってみました」


「そっか、パルさん翼があるもんね。ありがとう、助かったよ」


 首を横に振りながら「こちらこそです」と低姿勢で返すと。


「どこかは分かりませんが……この雰囲気、以前キメラ手術を受けた研究所に少し似ています」


 トラウマの過去を掘り返し、パルネは現状と当てはめる。

 見慣れない金属で出来た通路一帯に、薬品や獣臭が混ざったような匂いが広がる空間。


 この世界においてはかなり科学の発展した施設である。


「ん~地下水路の匂いよりはマシだけど、ここも好きにはなれないな」


 先の戦いでパルネに巻いてもらったスカーフを紛失したポロは、ノーガードの鼻から鼻孔を刺激され不快になる。


「もしかすると、ここに私の知り合いがいるかもしれません。出口が見つかるまででいいので、探索に付き合ってはもらえませんか?」


「全然構わないよ。僕達の扱いを見るに、パルさんの知り合いもあまり良い環境にはいなさそうな感じがするもの」


 ポロはパルネに賛同した。


「ええ、囚われているか……最悪もうこの世にいない可能性も……」


 ネガティブな感情が湧き出るも、パルネはきっと生きているはずと、最悪の結末を想像しないように気持ちを振り払う。


「ともかく、出口がないか調べてみましょう」


 と、二人が歩みだした頃。

 突然通路の奥からブーツの音が聞こえ、彼らの前に一人の男が現れた。



「お~いたいた。よし、ちゃんと生きてんな」



 そこにいたのはコルデューク。

 暇つぶしに、気まぐれに、二人の様子を一目見にやってきたのだ。


「ほう~、オニキスを倒した相手がどんな面してるのかと思って見に来たら……なんだよ普通に獣人のガキじゃねえか」


 コルデュークは嘲笑したようにポロをまじまじと見つめ。

 密かに鑑定スキルで彼のステータスを覗き見た。


「……ん?」


 すると、コルデュークは自身の視覚に表示された鑑定結果に違和感を覚える。


 ――鑑定不能? 細部まで見れねえ……。ただのNPCのくせに、俺の鑑定スキルを掻い潜るか……。


 基本的なパラメータは表示されるものの、ポロの持つスキルや特殊能力などは所々『???』と、シークレット表記になっていた。


 さらにコルデュークは読み進めると。


 ――スキル、『霊魂吸収』に『魔人融合』? なんだこれ、俺の知らねえスキルを持ってやがる。


 見慣れないスキルにを目にし、ポロに対する警戒を強めるコルデューク。


 ――外見からじゃ判らねえが、ただのガキじゃねえってわけか……。


 などと、会話もせずじっとポロを見つめるコルデュークに、痺れを切らしてパルネが尋ねた。


「あなたは何者なんですか?」


 と、そこでコルデュークは我に返る。


「ん、ああ俺か? この研究所の協力者、コルデュークだ。セシルグニムから遠路はるばるようこそ。モルモット諸君」


 そして挑発するように二人へ侮蔑の言葉を贈った。

 だが、パルネは男の言葉にある確信を抱く。


「ここは……やはりあの研究所ですか? 身寄りのない孤児を集め、不当にキメラ実験を行う、醜悪に満ちた最低最悪の施設。そうなのですか?」


「どの研究所を指しているか分からねえが、この国にあった研究施設の大半は皆人体実験を研究しているぜ? もちろん無能な王族は知らされていない非公式でだが」


 パルネはプルプルと憤る気持ちを堪え。


「質問を変えます。メイラーという女性を知っていますか?」


 かつての知り合いの情報を聞き出そうと、生理的に受け付けない目の前の男に再び尋ねた。


「さあな、俺は部外者だから人の名前は知らねえよ」


 さらっと返しながらも、「だが」と、コルデュークは付け加える。


「ここを管理している男がお前に会いたがっていたぜ。話ならそいつに直接聞いたらどうだ? お前の『お父さん』なんだろ?」


 コルデュークの一言で、パルネはその相手が誰なのか理解した。


「……ゴルゴアっ! まだ生きていたの?」


「くひひ、いいね~その怒りに満ちた表情。俺はそっちのほうが好きだぜ」


 愉快気に笑うコルデュークを睨みつけるパルネ。

 その隣で、ポロは間に入りコルデュークに尋ねた。


「お兄さん、僕達がどこから来たのか知っているんだよね?」

「あ? それがどうした?」


 パルネいじりに水を差されたコルデュークは、興醒めの表情でポロを見やる。


「じゃあ当然、僕達がうちの王女様の付き添いだってことも知っていたよね? わざわざ従者である僕達をアルミスと引き離したってことは、アルミスに何か用事があるってことなのかな? それも、僕らにとって都合の悪い用事が」


 怒りも何も感じられないポロの表情に、コルデュークはつまらない顔を浮かべる。


 ――思いのほか勘がいいな……。にしても感情がブレない奴だ。調子が狂うぜ。


 そう思いながら、続けて話すポロに耳を傾ける。


「パルさんの言うゴルゴアって人に聞けば分かるかな?」


 するとコルデュークは煽るようにポロに返した。


「ああ、それなら教えてやるよ。おたくの王女様はな、大変めずらしい魔力の素質を持ったハーフエルフなんだ。で、その希少なハーフちゃんをこの研究所で有効活用してやろうと思ったんだよ」


 怒れ、もっと歪んだ表情を見せろ。

 そう思いながら。


「だからおたくの王女様は今日からしばらく、ここで魔力供給の奴隷として監禁させてもらおうって腹積もりなわけよ。体内のマナが尽き果てて干乾びるまで飼ってやるのさ。家畜のようにな」


 するとポロは「そっか」と淡白に返し。


「じゃあなおさらゴルゴアって人に話を聞かなきゃ。王族をさらってまで何をしたいのか、とかね。お兄さん、どうせ暇でしょ? 案内してよ」


 逆にコルデュークの癇に障る言葉を告げる。


「……ああ?」


「僕達の様子を見に来ただけなんでしょ? とても忙しそうには見えないからさ。ね、お願い。なんならお駄賃あげるからさ」


 そう言って、ポロはポケットから一枚の銅貨を指で弾き、コルデュークの足元へ投げた。


「……調子に乗るなよ、クソガキが」


 コルデュークは目の色を変え睨みつけ。

 腹の内を読めないポロの侮辱に、この上ない怒りが沸き上がる。





ご覧頂き有難うございます。


明日、明後日はお休みします。

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