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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第三章 水の都 海底に渦巻く狂乱編
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93話 六頭犬の女帝(スキュラエンプレス)


 地に生み出された氷剣の一つを抜き取ると、サイカは真っ直ぐスキュラエンプレスへ斬りかかる。

 すると、下半身の犬達はそれぞれサイカに向かって火球を飛ばし妨害するが。


「舐めるなよ!」


 向かい来る火球の軌道を読み、流水の如き足運びで全てを回避した。


 そしてスキュラエンプレスの眼前まで接近すると、氷塊の剣に魔力を込めて、下半部の犬を踏み台にしながら斬り上げる。


「【登攀斬り(クライムキル)】!」


 岸壁を駆け上るように、スキュラエンプレスの頭部まで刃を斬り上げると。


 その頭部を足蹴にして跳躍し、空中で手に持つ氷剣を投げ槍のように再構築。

 そしてスキュラエンプレス目がけて氷の槍を思い切り振り下ろした。


「~~~~!」


 脳天に直撃を受けたスキュラエンプレスは奇声を上げのたうち回る。


 手ごたえを感じたサイカはそのまま地面に着地し、次の一手を繰り出そうと別の氷剣を手に取ると。



 次の瞬間、六体の犬は同時に大口を開け、一直線に炎のブレスを吐きだした。


「っっ! 【氷晶の壁(クリスタルウォール)】」


 寸前で前方に氷の壁を生成するが、その熱量の前ではサイカの魔法は瞬時に掻き消える。


「くっ……!」


 防御壁が溶け出し、サイカがブレスによる熱で焼却される直前。


 ポロはサイカを抱えてスライディングし、ギリギリのところでブレスを回避した。


「大丈夫? サイカ」


「ああ…………ってお前、火の粉がついてるぞ!」


「えっ? にょぉおお! 僕の尻尾が燃えてる!」


 慌てて尻尾を振り回すポロに、サイカは氷魔法で尻尾を冷却する。


「ふぃ~、危うく毛が無くなるところだった。ありがとサイカ」


「別に……」


 礼を言うのはこっちのほうだと言おうとするが、変なプライドが邪魔をし素っ気ない態度になってしまうサイカ。


「しかし、脳しょうを貫いたというのに何故倒れない?」


「人とは体の構造が違うんだよ。統治者アーク級の耐久力は良く知ってる」


 エキドナ、アラクネと対峙してきたポロは、統治者アーク級の強さを身に染みて実感している。

 だからこそ、半端な攻撃は致命傷になり得ないのだ。


「もっと高火力でダメージを与えないと……」


 言いながら二人が立ち上がると。

 突然、パルネがスキュラエンプレスに近寄り、何度か頷く素振りを見せる。


「この人……救いを求めてる……」


 そして呟くように彼女の気持ちを代弁した。


「救いだと?」


「はい。人族による施術によって遺伝子を組み換えられ、自分の意思で行動が出来なくなっているようです」


 他生物と意思疎通の出来るパルネは、悲しい顔を浮かべながら説明する。


「一度受けた施術は死ぬまで治らないそうです。誰かに命令されて生きるしかないなら、せめて私達の手で楽にしてほしいと彼女は訴えています。自分の意思で自決することも出来ないようなので……」


 魔物と言えども意思があり、感情がある。

 人を襲うのが本望ではなく、一生を奴隷のように過ごすなら。

 どうかこの命を終わらせてほしいと、スキュラエンプレスはパルネに懇願していた。


 しかしなおも下半部の犬達は、ポロ達に向け威嚇の咆哮を上げる。


「この魔物は……人に利用されているだけなのか?」


 パルネの話を聞いて、サイカは若干の躊躇いが生まれた。


「はい、ですから彼女を――」


 と、言いかけた時。

 ポロ達が通ってきた道から、再び激流の音が聞こえてきた。


「はっ! まさかさっきのブレスで!」


 サイカの予想は当たった。


 ポロとサイカが躱したブレスは、威力が弱まることなく遥か遠くまで飛んでいき。

 激流をせき止める為に生成した【氷晶の壁(クリスタルウォール)】を溶かしていた。


 向かい来る大量の海水は止まることを知らず。

 瞬く間に彼らに押し寄せる。


 幸い階段付近は段差になっており、水位のある激流もギリギリ凌げる高さとなっていた。


「【突風穿ち(ガストペネトレイト)】!」


 リミナは咄嗟に階段を塞ぐ瓦礫を吹き飛ばし、脱出経路を確保すると。


「みんな! 早く!」


 皆に呼び掛け誘導する。


 ポロとサイカが階段の元まで駆けつけるが、パルネは反応が遅れ、スキュラエンプレスと共に激流に飲み込まれてしまった。


「パルネっ!」


 リミナは叫ぶが、今いる位置ではどうすることも出来ず……。

 するとポロは突然激流に飛び込んだ。


「えっ……ポロ?」


 そして【半人半蛇の尻尾(エキドナ・テイル)】を片手に纏わせ、流されるパルネに向かってロープのように飛ばした。


 水中でキャッチすると、もう片方の手から【女王蜘蛛の糸(アラクネ・スレッド)】を飛ばし、近くの壁に貼り付ける。


「ぷはっ! パルさん、大丈夫?」


 パルネを抱きかかえ水面から顔を出すと、壁に固定したアラクネの糸を少しずつ腕に巻き付け流れに逆らい階段の場所まで戻る。


「ポロっ! 今ロープ投げるからそこにいなさい!」


 リミナは荷物袋からロープを取り出し、ポロの元まで投げようと振り回すが。


「こっちは大丈夫だから、二人は先に行ってて!」


 ポロは救助を拒否した。


「何言ってるの! いいから早く!」


 ポロが拒否したのには理由がある。


 それは水中に浸かるポロの足に、スキュラエンプレスの犬が噛みついていた為。


 辛うじて【半人半蛇の鱗(エキドナ・スケイル)】を足に纏わせているため食いちぎられるまでには至らないが、その牙はポロの足に深く刺さり、決して逃がさぬようホールドしていた。


 さらにパルネも激流に飲まれた際に意識を失い、自らの力では動けぬ状態。

 このままパルネと自分を引き上げるのは難しいと判断し、ポロは他の方法を探る決断をした。


「リミナ、後で必ず合流するから、僕を信じて先に行くんだ」


 その言葉を残すと、アラクネの糸がプツリと切れ。

 ポロとパルネは再び激流に飲まれていった。


「ポロッッ!」


 リミナとサイカは青ざめた表情で、流される二人を見やり。

 落胆するリミナに、サイカはそっと手を添える。


「リミナ、立て。あいつは必ず合流すると言ったのだ。ここも間もなく水位が上がる。飲み込まれる前に、今は上を目指すぞ」


 泣き出すリミナに肩を貸し、サイカは階段を上る。


 この状況を仕組んだ何者かに、静かなる憤慨を抱き。





ご覧頂き有難うございます。

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