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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第三章 水の都 海底に渦巻く狂乱編
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89話 一方その頃地上では【3】


 依然、臨戦態勢のグラシエに致し方なくといった様子でタロスは彼女の元へ近づいた。


『ならば殺さない程度に戦闘不能にしてやる』

「やってみろデク人形!」


 それが合図となり、タロスは銃剣の先端をグラシエに向け、数発の弾丸を放つ。


 が、グラシエは長身棍棒スタッフメイスを振り回し、向かい来る弾丸を全て弾いた。

 そして一瞬でタロスとの間合いを詰め、木製の体を貫こうと棍棒を構えると。


「【火円刃ブレイズチャクラム】」


 バルタは直前で炎を纏わせた手投げ斧(トマホーク)を投げ、タロスに向けられる照準を逸らした。


 斧を回避したグラシエに一瞬の間が生まれ、その隙を突いて、二人は同時に刃を向け彼女に接近。そして。

 完全に捉えたと思ったその時。


「【剛堅守ごうけんしゅ】」


 刃が触れる寸前、グラシエは身体スキルによる気の波動を展開し、二人の攻撃を弾き返した。


「何っ?」

『むっ……』


 そして二人が反動で仰け反った瞬間、棍棒の両先端で高速の突きを食らわせた。


 目で追えぬ速度に、二人はたちまち両端へ吹き飛ばされる。


「タロスっ、バルタ!」


 慌てて駆け付けるメティアだが、グラシエの熱気が伝わる程の威圧にそれ以上近づくことが出来ずにいた。


「わざと急所を外しやがって。女と思って手加減したな。オレがそんな格下に見えるのかよ?」


 怒気を露わにし、倒れる二人を睨み付けるグラシエ。


「お前はそんな真似しねえよな? 同じ女だもんな!」


 そしてメティアを捉える目は、直情的な殺気を帯びていた。


「くっ……【風精の刃(エアリアルエッジ)】」


 力の差は歴然、しかしメティアも船員達の為に退くことは出来ない。

 短剣に風魔法を付与し、ロングソードと化した武器を構える。


 と、その時。


「……バルタ」


 搭乗口からナナが飛び出した。


「あっ、ちょっと! 近づくんじゃないよ!」


 メティアの静止も聞かず、トテトテとぎこちない足取りで倒れるバルタの元へ駆け寄るナナ。


 だが彼女を見たグラシエは、突然周囲に漂う殺気を消した。


「予想はしてたが、お前……やっぱりあの時の……」


 と、動揺するグラシエを他所に、未だ動けないバルタを抱きかかえる。


「ナナ……逃げろ……」

「やだ。バルタと一緒にいる」


 ぎゅっとバルタを抱きしめると、再びバルタを地面に寝かせ、ナナはグラシエの元へ近づいた。


「こんな時にわがまま言ってんじゃ……おい、待て」


 まるで他人の意見など聞かないナナは、グラシエを見るや否や不機嫌な表情を浮かべる。


「バルタを、傷つけた」


 そう言うと、ナナは指先をグラシエに向け。


「火」


 たった一言。

 そう唱えただけで、指先から燃え盛る業火が生まれ、直線状にグラシエへ放たれた。


「ぐがああああ!」


 突然の強力な魔法に回避が遅れたグラシエは、体を覆い尽くす程の灼熱の炎に包まれる。


「稲妻」


 さらに追撃でもう一本の腕を天にかざすと、突如グラシエの頭上に高電圧の稲妻が降り注いだ。


「があああ!」


 詠唱も魔力の充填もなく、クイックモーションで高火力の魔法を繰り出すナナの攻撃に、飛びぬけた耐久力を誇るグラシエも膝を付きその場に倒れる。


 メティアは彼女の力に驚愕した。


 ――何あれ……、溜めもなく連続で上級魔法を使えるなんて……あの子のマナ蓄積量どうなってんの?


 そんなことを思っている間に、ナナは再びバルタの元へ寄り。


「バルタの仇、とった」

「俺もあいつも死んでねえけどな……」


 守る相手に助けられたことでやや不満気味に返すバルタに自慢気に報告するナナ。


「まあ……助かったよ。そんで、こいつどうするかね」


 軽快に起き上がるバルタは、倒れるグラシエを見下ろし今後のことを考える。

 そんなバルタに、炭だらけのグラシエは弱々しく告げた。


「……もう戦う気はねえよ。悔しいがオレの負けだ、殺すなら殺しな」


「いや、そこまではしねえよ」


 溜息を吐きながらバルタは訂正する。


「お前、国の者か? それとも他国から来た賞金稼ぎ(バウンティハンター)か?」


「どっちでもねえよ……研究員のゲス野郎共に仲間が人質に取られてね。お前らを始末しなければ仲間の命がないって脅されたんだよ」


「研究員?!」


 バルタは彼女の言葉にピクリと反応した。


「ああ、海底の研究所にいる野郎共さ。おまけに奴らに逆らえないよう呪いの首輪まで付けられた。拒否する事が出来なかったんだよ」


 疲れたように笑いながら語るグラシエ。


「けど、その黒髪の子を見て確信したよ。……五年前、今はない研究所でモルモットとして囚われていたオレ達を解放してくれたのは、その子なんだって」


 それはどこか嬉しそうに。


「さすがに、恩人の命は取れねえよ……」


 生きてくれていたことへの感謝のように。


 その言葉に、バルタはナナと出会った過去を思い出す。


「お前まさか……あの時研究所にいた、キメラ実験の……」


 かつての記憶。以前違法実験が行われていたアスピドの研究所を破壊した頃の記憶。

 ひとたびその記憶を噛み締めると、「そうか」と、バルタは呟き。


「ナナ、こいつの首に付けられた呪術、解けるか?」


 ふと、ナナに解呪の魔法を頼んだ。


「助けるの?」

「ああ、まあ、こいつも事情があるっぽいしな」


 すると、ナナはコクリと頷き、グラシエに付けられた首輪に触れ、息をするように容易く彼女の呪いを解いた。


「……お前……なんで?」


 殺そうとした相手を助けた彼らに、グラシエは疑問に思う。


「前払いだよ。お前に頼みたいことが出来た」


 企みの笑みを浮かべ、バルタは彼女に告げる。


「そいつらのいる場所へ連れてけ。今度こそ根底から潰してやる」


 ようやく掴んだ尻尾を逃すまいと、舞い降りたチャンスに己を奮い立たせた。





ご覧頂き有難うございます。


ブックマークして下さった方、本当に有り難うございます。これからも頑張って投稿しますので、これからもお付き合い頂けると嬉しいです。


次回から再びポロ達の話になります。

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