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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第三章 水の都 海底に渦巻く狂乱編
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85話 王族と兄弟と


 一通り町を一周したアルミスとアデルは、そのまま水陸両用の馬車で海を渡りテティシア城まで向かった。


「すごい……本当に海を泳いでる」


 アルミスは初めての海渡りに高揚した気持ちで先頭の水棲馬ケルピーを見つめる。


「ケルピーで海を渡るのは初めてですか?」


「はい、見るのも初めてです。ケルピーは人を水の底へ沈める凶暴な魔物と聞いておりましたが、ずいぶんと大人しいのですね」


「調教師が上手く躾けているので。それに川に生息するケルピーよりも海に生息するケルピーのほうが比較的懐きやすいと言われております」


「そうなのですね。ふふ、とても勉強になりました」


 最初こそ緊張していたアルミスだが、いつの間にか自然に笑えるようになっていた。



 そんな彼女を見ながら、ふと。


「アルミス様、私の父と母はご存じですか?」


「ええ、はい。人間のお父様と、海女精ネレイドのお母様と伺っております」


「そうです。つまり私は人と妖精のハーフということになりますね。あなたと同じく」


 アルミスは瞼を広げ、彼の言葉の意味を考えた。

 混合種族であるが故、世間は他種族の橋渡しと受け取る反面、どっちつかずの穢れた血という声も耳に入る。


 当然心なき野次を飛ばす輩もいたはず。

 だからこそ彼は同じハーフとして、自分と共感したいのではないかとアルミスは思った。


「私の国は元々多くの種族が暮らしている為、混血に対してそこまでの偏見はありませんが、やはり中には快く思わない方もいらっしゃるでしょう。実際、私も腹違いの弟とはそりが合わないのです」


「弟様と?」


「はい、弟のハイデルは両親共に人間なのですが、水棲種族の多いテティシア国では純粋な人間ほど肩身が狭いのです。……それに加え、ネレイドの血が混ざっているというだけで歳や技量に関係なく、生まれながらに王位継承権を持つ私を良く思っていないようでしてね」


 混血を嫌う民と、弟からの嫉妬。

 板挟みの周囲に、アデルの居心地はあまりよくなかった。

 彼の寂しそうな顔を見つめ、アルミスは思う。


「ハイデル様は、ご自身の生まれを恨んでいらっしゃるのですか?」


 アデルは「そうですね」と、苦笑いを浮かべながら答えた。


「母方は違えど同じ血を分けた兄弟、私はハイデルも平等に接してきたつもりでしたが、どうもあれは卑屈にとらえてしまいがちでして……。仲良くしたいとは思っているのですがなかなか……」


 身内の問題に、恥ずかしさを見せながら告げるアデル。


「分かります。私もお母様の祖国、エルフの森に妹がおりますが、遠く離れた場所にある為なかなか会えないので。あの子ともっと話をしたいと、そう思っております」


 アルミスは境遇の近さから、彼の言葉に他人事ではない共感を覚え、お互いに身内話に花を咲かせた。










 一方その頃、後ろに連なり海を渡る馬車の中では。


「ぐ……ダメだ、やはり中が見えん」


 サイカはしきりに窓から体を乗り出し、前方にいるアルミス達の様子を探ろうと頑張ってはいるが成果は出ず。


「あんた……仮にも貴族で騎士団のまとめ役なんだから行儀悪い行動は慎んだら?」


 溢れんばかりの姫様愛に、さすがのリミナも引いた目で見つめた。


「そうだよサイカ、せっかくの二人きりの空間なんだし邪魔しちゃ悪いよ」


 同調するように、ポロも御者台を占領しながらサイカをたしなめるが。

 この中ではポロが一番慎ましくないのは明白だった。


「あんたはもっと慎みなさいよ! 御者の人の邪魔でしょうが!」


「いえいえ構いませんよ。町に興味を持って頂き私も嬉しく思います」


 ケルピーを操る懐の厚い御者に許しを得ると、ポロはご機嫌に海辺を眺め、近くを泳ぐ人魚マーメイドに手を振りながら他種族との交流を深める。


 ――姫様で頭がいっぱいの騎士に、好奇心旺盛なおこちゃま……。


 そんなことを考え、リミナは深い溜息を吐く。


「パルネ、この場にあんたがいてくれて良かったわ」


 唯一の救いは彼女がいてくれたことだと、リミナは心の拠り所に感謝する。











 そしてようやくテティシア城に辿り着いた頃、日はすでに傾き始めていた。


「ようこそテティシア城へ。この後食事をご用意致しますので、それまではどうぞごくつろぎ下さい」


 と、皆に告げ、アデルはアルミス達を客間に案内する。

 その道中。


「これはこれはアルミス様、お初にお目にかかります」


 現れたのは、アデルの弟、テティシア第二王子ハイデルだった。


「ハイデル、戻っていたのか」


「ええ、兄上のお見合い相手のお顔を一度ご拝見したく思い」


 畏まった様子で丁寧な挨拶を済ませると。


「長旅でさぞお疲れでしょう。そろそろ戻られる頃だと思い、客間のご用意は私が済ませておきました」


「何、お前がか?」


「近い将来、私の義姉君になるやもしれぬお方。ご不便をおかけするのは無礼というものでしょう?」


 アデルとアルミスの顔を立て低姿勢な対応をするハイデルに、「いえ、こちらこそ」と何度も頭を下げながら低姿勢返しをするアルミス。


「うん、では後のことを任せても良いか? 私は父上に報告してくる」


「お任せ下さい、兄上」


 と、ハイデルはアデルに深く頭を下げる。



 ……その下で、密かに笑みを隠しながら。





ご覧頂き有難うございます。


明日、明後日は休載致します。

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