84話 海の王子と空の王女
アスピドの町の離れに建てられた聖堂にて。
扉を開けると神聖な空気に包まれた内装が広がり、その奥で王族と思われる身なりをした男が立っていた。
金色に輝く髪に、容姿の整った外見。
見間違えるでもなく、彼が自分の見合い相手なのだと確信し、アルミスは呼吸を整えながら気を引き締める。
「お、お初にお目にかかります。セシルグニムから参りました、アルミス・レアロード・セシルグニムです」
緊張しながら頭を下げるアルミスに優しく笑みを浮かべながら。
「初めまして、テティシア国第一王子、アデル・グラウス・テティシアです。本日は私とのお見合いにお越し下さり、大変感謝致します」
アルミスとは対照的に、落ち着いた様子で名乗るアデル王子。
「と、とんでもございません。私も、本日はりょ……両国にとって良い関係を築ければ幸いでありま……ございます」
ガタガタな挨拶に顔を赤らめるアルミス。その姿を見守りながら、ポロはリミナに耳打ちをする。
「ふふ、アルミス嚙み嚙みでなんか可愛いね」
「しっ、黙ってなさい」
サイカの「私語を慎め」と言いたげな目を気にしながら、リミナはポロの尻を叩き、何事もなかったように二人へ視線を戻した。
「ご緊張なさらずに、私のことは親しき友人だと思って、どうぞ気軽に接して下さい」
「は、はい!」
相変わらずの固い表情の彼女に、王子アデルは強く握られた彼女の手をそっと取り。
「では、少しずつ慣れていきましょう。時間は多分にございます」
緊張を解くように、穏やかな笑みで彼女の手を優しく握る。
「……はい」
その紳士的な立ち振る舞いに、アルミスも自然と心がほぐされていった。
そんな二人を見ながら、後ろに控えるリミナはアルミスとの相性を見定める。
――ふ~ん、キザったらしいけど、積極さに欠けるアルミスには丁度いいかも。イケメンなうえに相手を気遣えるカインドネス、そして物怖じしない余裕ある立ち振る舞い……。王族じゃなければ町中の女が求婚殺到待ったなしの優良物件ね。これで腹黒い性格じゃなければ百点満点だけど……。
と、一人そんな考察をしながら隣に目を向けると。
「いっ?!」
睨むような目でサイカは二人を見つめていた。
「ちょ……サイカ、目が怖いわよ?」
リミナに小声で袖を引っ張られると、我に返ったようにサイカは表情を緩めた。
「ん、あ……すまん」
そして雑念を消すように軽く呼吸を整え、再び彼女は二人を見守る。
――サイカのお眼鏡には適わない……っと。
そんな彼女の様子に苦笑いを浮かべながら、リミナは心の中で王子の評価を下した。
その後、王族マニュアルに則り、聖堂にて二人の出会いに祈りを捧げた後、アルミスとアデルは二人用の馬車に乗ってアスピドの町を巡る。
ポロ達は二人に後続する形で従者用の馬車に乗り、のらりくらり観光さながら二人の後を走るのだった。
「いや~実家にいた頃貴族の嗜みは熟知してたつもりだったけど、さすがに王族が控える場は緊張したわね」
「うん、リミナもサイカもいつもより気の張った匂いがしたもんね」
と、リミナに直球で告げるポロ。
「あのね、アタシら女性陣に匂いがどうこう言うの失礼だからね? そのデリカシーのなさ、王子様を見習って直しなさい」
「あ、でもパルさんはずっと安定してたね。慣れてるの?」
「聞けよ!」
マイペースなポロをたしなめるリミナの横で、パルネは会話に入りづらそうに躊躇しながら答えた。
「あはは、私も緊張しましたよ。ただ、私に混ぜられた魔物に【精神安定】のスキル効果がありまして、極度の緊張感に陥ると自動で心を落ち着かせてくれるのです」
「へえ~、元は精神系スキル持ちの魔物だったのかな?」
「というより、主に守護系統の魔物ですね。怪鳥ジズは『民を守りし恩鳥』とも呼ばれていたそうですから」
すると、ポロは優し気に笑みを浮かべ。
「なら、パルさんの中で、今もずっと守ってくれているんだね」
何気なくパルネに眠る魔物に向けそう返した。
するとパルネは目を開き、彼の言葉を噛み締める。
パルネは一度もそんな事を考えた事はなかった。
ただ強制的に、自分の意思などお構いなく、無理やりキメラ実験で混ぜられた忌むべき魔物。
汚れた体になってしまったと、自分を卑下するだけだった。
しかしポロの一言によって、今まで忌み嫌っていた怪鳥の姿を思い浮かべ、初めてもう一つの自分と向き合った。
自分の中にいる鳥は、自分を蝕んでいるのではなく、自分を守ってきたのだと。
初めてそう思えた。
「……そうですね、そういう考えもありました」
もう本来の自分には戻れないなら、せめて魔物に侵食されぬようにと拒絶し続けて。
被害者面を貫いた自分を恥ずかしく思い。
「ありがとうございます。確かに、この子はずっと私を守ってくれていました」
そう気づかせてくれたポロに、静かに感謝を述べた。
ポロも同調する彼女に笑みで返すと、それ以上は何も言わず。
そのまま興味の向くほうへ、馬車を操る魚人の男の元へ行ってしまった。
「おじさん、この馬、水棲馬だよね? やっぱり水の中も泳げるの?」
「ええ、ケルピーは水陸両用の馬ですからね。特に海に生息するタイプは持久力があり、この馬車ごとテティシア城まで運んでくれるんですよ」
などと、無邪気な様子で尾ビレの生えた馬の生態を学ぶポロに、パルネは安心感からか笑みを零す。
先程の言葉は、気遣いではなく素直な気持ちで言ったのだと、ポロの純粋さを心地良く思い。
「サイカ、あんたいつまでふて腐れてるのよ?」
「別にふて腐れてなどいない!」
その横で、リミナに指摘されるサイカは相変わらず複雑な心境を抱えたまま窓を眺めていた。
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