82話 水の都、アスピド
セシルグニムを発ってから数時間。
ようやく彼らは目的の場所へ近づいた。
「うわっ、見てメティア! 海がドーム状に浮いてるよ!」
アスピドの島全体を覆う、螺旋状に流れる海水に興奮しながら食い入るように見つめるポロ。
「あれが噂に聞く『逆さ海』か。なんでも、魔物から発せられる魔力の影響で水が壁のように浮いてるらしいね」
「え、あれ魔物が浮かせてるの?」
「ああ、というか、町自体がアスピドケロンっていう『古代の魔物』の上に建っているんだよ。数万年前から生きている長寿の魔物さ」
と、メティアは一見普通の島にしか見えないアスピドを指差し説明する。
「あれが魔物……!」
「正体は島サイズに巨大化した海亀らしいね。甲羅の上に陸地があって、四六時中町全体に水の壁を生成して人族を外敵から守っているんだとか」
「へえ~、魔物と共存して暮らしているんだ」
その規格外のサイズと、それでいて人族に友好的だとされる温和なアスピドケロンに興味が湧くポロ。
「そしてアスピドの隣に面している大陸、あそこが海の加護に守られた国、テティシア王国さ」
メティアはアスピドに隣接するテティシア城を指差し、手に持った世界地図と照らし合わせポロに説明する。
と、そんな会話をしている中。
サイカは甲板の中心で皆を招集し、これからの予定を話し始めた。
「ちょっといいか? これからアスピドに着陸するわけだが、この後私と姫様はテティシア第一王子、アデル様と顔合わせに向かう。のちに城に案内され会食を共にする流れなのだが、そこで私の他に三名まで付き人を連れて良いと言われている。呼ばれた者は私と共に同伴してもらいたい」
そしてサイカは一人ずつ名を挙げた。
「一人はリミナ、元々Sランクの冒険家なだけあり、戦闘技術は我々騎士団と比べても群を抜いている。ボディーガードとしては適任だろう」
「ふ~ん、いいよ。アタシもアルミスの婚約相手の顔は気になるし」
リミナは割と興味あり気に答える。
「そして二人目はポロ」
「え、僕も? アルミスの帰りを待ってる間、美味しい海鮮料理と海水浴を満喫しようと思ったのに……」
対してポロは面倒くさそうに返した。
「お前もリミナも主に姫様の要望だが、二人は万が一の場合でも冷静に対処出来るだろうからな。私も妥当だと思っている。悪いが付き合ってもらうぞ」
「うへぇ~……」
テンションが下がるポロに、アルミスは苦笑いで謝罪する。
「ポロちゃん、ごめんなさい。落ち着いたらいくらでも観光して良いので」
「ホント? アルミスも付き合ってくれる?」
「ええ、もちろん」
「やった、ならいいよ。僕この日の為に水着買ってきたんだ」
と、尻尾を振りながら満面の笑みで機嫌を直すポロ。
「……全く、姫様に対して無礼にも程があるぞ。……まあ良い、最後は私の部下から一人当てるが――」
そして最後の一人を告げようとした時だった。
「あの、すみません。そのひと枠、私に譲って下さいませんか?」
急にパルネが挙手し、サイカにメンバー入りを頼み込む。
「む……お前は……。いやしかし部外者を王族の会談に加えるのは……」
当然サイカは言葉を詰まらせ断るが。
「どうかお願いします。テティシア城内に知り合いがいるかもしれないので……。仮にいなくとも、せめて知人の情報が手に入るならば、どうしても行ってみたいのです」
パルネは食い下がり、是が非でもと懇願する。
すると、アルミスは「構いません」と了承した。
「姫様?」
「いいじゃない、この人の大事な人が見つかるなら、一緒に同伴させるくらい」
サイカは難しい顔を浮かべながら。
「……姫様がそう仰るなら」
と、渋々サイカも折れた。
「ありがとうございます、アルミス様。このお礼はいつか必ず……」
「気にしないで下さい。私で力になれることがあるなら、何なりと仰って下さいね」
王族でありながら謙虚な彼女の姿勢にサイカは少し心配になるが、しかしそれが彼女の良いところでもある為「仕方ない」と割り切るしかなかった。
「では、以上の三名は私と共に来てもらう。その他の者は自由行動で構わんが、問題は起こさぬよう注意してくれ」
皆の方針が固まったところでタロスは船を下降させ。
来客用の入り口である、『逆さ海』の天辺に近づく。
するとアスピドケロンの意思なのか、流れる水流の一部分だけぽっかりと穴が空き、魔導飛行船一隻分が通れる道が作られた。
そして、彼らはアスピドケロンにいざなわれるまま、水の都へと着陸した。
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