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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第三章 水の都 海底に渦巻く狂乱編
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81話 久方ぶりの王女様


 時は過ぎ、皆がセシルグニムを発つ前日。

 ポロ達は城に招かれ、夕食を共にすることとなった。


「皆さん、お久しぶりです」


 城門で出迎えたのは、今回の主役とも言えるアルミス本人だった。


「この度は私の為にお付き合い下さり、誠に感謝致します」


 と、どこか落ち着いたように清楚な雰囲気で皆に頭を下げる。


「アルミス、ちょっと雰囲気変わった? 大人びたっていうか」


 その立ち振る舞いにリミナが尋ねると。


「『黒龍の巣穴』で償い切れない失態を冒しましたから。亡くなった方達の為にも、国を支える民の為にも、私がもっと精進しなければなりませんので」


 笑みを浮かべながらも、どこか寂しげな表情で返すアルミス。


「……そっか」


 以前の初々しさがなくなった彼女に、リミナは若干の距離を感じながらも彼女の成長を嬉しく思う。


「さあ、立ち話もなんですからどうぞお入り下さい。うち自慢のシェフが腕によりをかけて料理をご用意しておりますので」


「いやったぁー! 僕骨付き肉食べたい!」


「こらポロ、はしゃぐな。失礼だろ!」


 物腰柔らかに招くアルミスに意気揚々と飛び跳ねるポロ、それを注意するメティアに微笑ましく眺める船員達。


 出発前夜のディナーに、皆は大いに盛り上がった。











「うっま! 何これ……」


 リミナは注がれた葡萄酒を含み、思わず舌鼓を打つ。


「こちらはグリーフィルのワイナリーで作られた一級品でございます。よろしければ別の種類をいくつかご用意致しますが」


 配膳係に丁寧な説明を受けながら酒を入れるリミナの横で、ポロも両手に骨付き肉を持ちながらご満悦で頬張る。


「うま、うまっ」

「行儀悪いよ。口元もこんなに汚して……ほら、顔こっち向けな」


 メティアは保護者のようにポロの口元をハンカチで拭い、周りの女性船員はポロのわんぱくな仕草に悶えながら酒の肴にする。


 彼らにとってはありふれた日常。

 そんな周囲を見つめるアルミスは、懐かしさから自然と笑みが零れた。


「やはり、皆さんといると心が落ち着きます。肩の力がほぐれるというか、下手に気を遣い過ぎないというか……」


 度々貴族王族との会食に出席するアルミスは、普段の気を張った上辺の顔をせずともよい環境が心地よかった。


 彼女の隣に座るロアルグは、自然に笑うアルミスを見ながら、ふと。


「ポロ君、実はそなたにお願いがあるのだが」

「ふぇ?」


 口一杯に肉を詰め込むポロに、王は真剣な様子で頼み事を告げる。


「そなたらを信用しての事だが、今回の仕事を無事終えた後、君の隊を我が国専属の飛行士として雇いたいのだが、どうだろう?」


 と、急な勧誘にメティア含む船員はピタリと固まった。


 基本運送ギルドの仲介によって仕事をもらう彼らにとって、国専属の飛行士となることは日頃の業績を上げるよりも格段に出世街道まっしぐらな好条件である。


 収入も安定し、報酬額もフリーの下請けなどとは雲泥の差。

 ただしその分失敗した時のリスクは大きく責任は重大な役割であり、プレッシャーに弱いメティアは冷や汗を垂らす。


 船長として決断を迫られるポロは、キョトンとしながらゴクリと口の中の物を胃に送ると。


「それを決めるのは、アルミスを無事セシルグニムに帰還させてからでもいいですか?」


 と、王に委縮することなく自身の意見を主張した。


「何かのイレギュラーが起きた際でも、最善を尽くしてアルミスを帰還させてこその信頼だと思うので、今答えを出すのは早計だと判断します」


「……なるほど。今一度結果を出してから、ということだね」


 ポロは頷き、ロアルグも彼の意見に納得する。


「分かった。ではこの件は落ち着いてからにしよう。いい返事を期待しているよ」


 そして、再び歓談が続く。









 皆が食事を楽しむ中。

 夜の特訓終わりにサイカがバルコニーへ立ち寄ると、そこには思索にふけるような様子でタロスが立っていた。


「……お前は、タロス。どうした、皆との会食に交ざらないのか?」


『俺はゴーレムだ。この体に食事は必要ない』


「それはそうだが、一人仲間外れというのも寂しくないか?」


『宴会の場は嫌いではないが苦手だ。皆には気にするなと言っている』


「……そうか」


 と言って、サイカは何気なくタロスの隣へ寄り夜景を眺める。


「明日はタロスが飛行船の操縦をするのだろう? 頼りにしているぞ」


『無論だ。いかなる事態になろうとも、皆を無事送り届けることが俺の仕事だからな』


 そう言いながら、タロスはサイカを見つめると。

 夜空を見上げる視線がどこか寂し気な様子の彼女に、タロスは尋ねた。


『やはり、王女が別の国へ嫁いていくのは寂しいか?』


 すると、サイカは一瞬驚いたような視線を向け、そして微笑を浮かべた。


「まあな。明日、明後日で婚約が決まるわけではないだろうが、姫様が慣れない土地で気疲れしないか心配だ」


『向こうの王子が、妻想いな男だといいな』


「それは最低条件だ。もしも姫様を泣かすような奴ならば、打ち首になろうとも王子を殴り飛ばしてやる」


 と、あまり声を大にして言えないワードを堂々と言い放つサイカ。


「私は明日、一日中姫様に同伴する予定だ。どんな男か私が見定めてやる」


『まるで妹思いな姉のようだ』


 そんなサイカにタロスは呟く。


 それは王女と従者の垣根を超えた信頼関係。

 もしも自分が生身の人間だったなら、信頼し合う二人の絆に、和やかな笑みの一つでも零していたのだろうと予想して。



 そして翌朝、彼らにとって激動の一日が始まる。





ご覧頂き有難うございます。

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